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コンプガチャ禁止のガイドライン策定 ソーシャルゲームはどこへ行く?

2012年05月25日 19時00分更新

 5月18日に消費者庁がコンプガチャに違法の判断を下したが、それに先立ちソーシャルゲーム各社はその廃止を相次いで表明している。そして、本日5月25日にはコンプリートガチャガイドラインを、ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会として発表した。

コンプガチャ禁止のガイドライン

■問題は収束したのか?
 消費者庁による違法判断と禁止ガイドラインの策定によって、射幸心を巡ってゴールデンウィークから続いた動揺はひと息ついたようにも見える。しかし、一方で一部週刊誌が“ソーシャルゲーム追求キャンペーン”を開始するなど、次なる火種もくすぶっている。ゲーム会社によっては、コンプガチャ廃止によって失われる売り上げを補うべく、ランキングガチャといった代替の仕組みを前面に打ち出すなど、景表法の絵あわせに該当しないような手法を編み出しつつある。

 すでに指摘されているように、ソーシャルゲームについての問題は景表法に関するものだけではない。射幸心を過剰に刺激し、確率についての錯誤を生じさせるという問題は、“絵あわせ”に限定されるものではなく、仮に法律上問題がなくとも、社会的・道義的に批判を浴びることは明らかだ。この状況は2004年のライブドア事件に似る。日本の司法・検察のあり方も議論されるべきではあるが、ソーシャルゲーム業界は規制を逃れる手法を編み出すのではなく、まずは“世論”を注視すべきだ。ネット上、IT界隈と世間一般のそれは乖離しがちで、先の週刊誌のキャンペーンも印象操作のそしりを逃れないが、それを“ゲーム脳的なもの”と軽視すべきではない。

コンプガチャ禁止のガイドライン

■その“すごさ”が危うさに
 拙著『ソーシャルゲームのすごい仕組み』でも指摘したが、ソーシャルゲームの強みと、いま追及されている弱みは表裏一体の関係にある。TVゲーム、ケータイゲームが切り開いてきたデジタルゲーム市場に、DeNAはオークションやeコマース、GREEはSNSのノウハウを加え、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)では表現が難しい要素を廃し、コミュニケーションによるゲームのおもしろさを蒸留して現在の姿がある。

 パッケージゲームと異なり、リリースした後もユーザーの行動をつぶさに確認し、ゲームバランスにも調整を加えることができる。そこではハードの進化とともに複雑化し巨大プロジェクトになった家庭用ゲームはもちろん、PCベースのMMORPGでさえ実現できないほどの頻度で日々刻々と改良が行なわれている。余談だが開発の現場では“朝会”が開かれる会社が多い。開発者が9時台に出社し、前日夜のユーザーの行動をつぶさに検証しながら、午後の改良点を洗い出し、作業に入る。従来のゲーム開発とは180度異なる姿がそこにはある。

 無料でゲームをはじめてもらうことが主流となっているソーシャルゲームは、いわゆる“フリーミアム”モデルの代表格といえるだろう。そこでの投資回収はアイテム課金によって行なわれ、いかにユーザーにアイテムを欲しいと思わせることができるか、その巧拙が明暗を分ける。ゲーミフィケーションと呼ばれる理論が注目され、ユーザーの行動履歴を観察しながら、KPI(重要業績評価指標)の達成状況をチェックし、改良を加え続ける。まさにこの一連のノウハウこそが、海外と比較しても現状日本が突出して優れている点だ。

 北米で大きなシェアを占めるZyngaの各種ソーシャルゲームと比較してもそれはよくわかる。実際ARPU(加入者ひとりあたりの月間売上高)には大きな差(モバゲーのそれはZyngaの18倍とDeNA決算資料は述べている)がついている、というのがこれまでの日本のソーシャルゲーム陣営のプレゼンテーションで強調されてきたポイントだ。

GREE海外進出
GREE海外進出

↑GREEは5月24日、最大153ヵ国にソーシャルゲームを配信できる“GREE Platform”をAndroid及びiOS向けに提供開始したと発表。

 しかし、今回の規制をきっかけに、ARPUのかなりの部分をガチャ、特にコンプガチャが占めていたのではないか、という推測が出てきている。一部のゲーム会社がコンプガチャ“的な”仕組みを相次いで前面に打ち出しはじめていることもそれを裏付けているのではないだろうか。

コンプガチャ禁止のガイドライン

↑25日に発表されたガイドラインにはコンプガチャに該当しないものが3種示されている。

 ユーザーの行動、すなわちゲームへの熱中度合いをつぶさに確認し、ゲームバランスを調整できる、というソーシャルゲームの強みが、ゲームそのものの外側にあり偶然性と確率が支配し、ゲーム自体のカスタマイズよりも低コストで高い収益を生むガチャと結びつき、現在の危うさが生まれている。

■囚人のジレンマから抜け出せるか?
 優秀な人材が集結しているとされるソーシャルゲーム業界だが、いま進行しているのはまさに“囚人のジレンマ”と呼ぶのにふさわしい状況だ。ゴールデンウィーク明けから各社は先を争うようにコンプガチャの廃止を決め、ソーシャルゲームの事実上の業界団体といえる連絡協議会としての廃止の発表は、KLAB、DeNA、GREEなどの後を追う形となった。各社が自社にとっての最適解を選んだ結果、業界全体としては足並みがそろっていない印象を残した。典型的な“囚人のジレンマ”に陥っているといえるだろう。

 景表法が禁じる絵あわせ以外にも、射幸心のみならず競争心を煽り、一般常識からかけ離れた金額をユーザーに投じさせる手法は数多く存在する。そして、ソーシャルゲームの“すごい仕組み”を活用すればそれを限界まで高めることができる。いわば、ユーザーの可処分所得という“共有地(コモンズ)”の牧草を刈り取り続けるようなものだ。今回の規制はそれに一定の歯止めをかけるものだが、手を変え品を代え、と目されるような動きが続けばさらなる規制を招き、海外展開の機運を削ぐことになりかねない。

 訴訟を抱えるプラットフォーム大手2社をはじめ、各社は自社のゲームへの導線確保のためにも激しい競争状態にある。そこで自立的な規律(規制ではないことにご注意いただきたい)を生むためには、業界としての統一した行動が求められる。今回、ガイドラインの発表が6社協として発表されたのは、前向きな変化と捉えることができるだろうか。

 前述のとおり、ソーシャルゲームはこれまでのデジタルゲームの先達が培ってきた土台の上に現在の地位を築いてきた。そしてその先達にはすでにCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)という業界団体が存在する。自主的にゲームの審査を行ない、レーティングを施している先例に学べるかどうか、いま国内のソーシャルゲーム業界は囚人のジレンマから抜け出せるかどうかの岐路にある。

CERO

コンプリートガチャガイドライン
(目的)
第1条
このガイドラインは、ソーシャルゲームプラットフォーム事業者が、その運営する日本国内のプラットフォームにおいて、ソーシャルゲーム等のアプリケーション(以下「ソーシャルゲーム等」という。)内でのコンプリートガチャ(以下「コンプガチャ」という。)の提供を禁止することにより、利用者が自主的かつ合理的な選択の上、ソーシャルゲーム等を楽しむことが出来る環境を整えることを目的とする。(定義)
第2条
このガイドラインにおいて、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 (1)プラットフォーム事業者
   自社又はソーシャルゲーム提供事業者が開発・運営するソーシャルゲーム等を利用者に対して提供するプラットフォームを運営する事業者をいう。
 (2)ソーシャルゲーム提供事業者
   プラットフォームを通じてソーシャルゲーム等を提供する事業者をいう。
 (3)ガチャ
   利用者が、文字、絵、符号等を電磁的に表示した、ゲーム中で用いるキャラクターやアイテム等(以下「アイテム等」という)の提供を受けることを直接の目的として、利用者の選択によらず、異なる種類のアイテム等のうちランダムに決定されるアイテム等の提供を受ける方式をいう。
 (4)ガチャアイテム
   利用者が、ガチャによって提供を受けるアイテム等をいう。
 (5)有料ガチャ
   金銭、プラットフォーム若しくはソーシャルゲーム等内において通用する金銭のみで購入できる仮想通貨、又は商品の有償での購入を、ガチャアイテムの提供を受けるための直接の対価として行うことが出来るガチャをいう。
 (6)有料ガチャアイテム
   有料ガチャによってのみ提供するガチャアイテムをいう。有料ガチャにより提供するものと有料ガチャ以外の方法により提供するものが混在する場合は、当該ガチャアイテムは有料ガチャアイテムとみなす。
 (7)コンプガチャ
   有料ガチャアイテムを含む特定の2つ以上の異なるアイテム等を全部揃えることを条件として、ソーシャルゲーム等で使用することができる景品類たる別のアイテム等を利用者に提供する方式をいう。
   なお、以下に該当するものを除く。
    ア 利用者が、アイテム等の種類を選択することによりその組み合わせを完成できるもの
    イ 1点、2点、5点というように、異なる点数が付与されているアイテム等を利用者に提供し、合計が一定の点数に達すると、点数に応じて利用者が新規アイテム等の提供を受けるもの
    ウ 異種類のアイテム等の組み合わせではなく、利用者が、同種類のアイテム等を一定個数揃えれば新規のアイテム等の提供を受けるもの  
(コンプガチャの禁止)
第3条
プラットフォーム事業者は、その運営するプラットフォームにおいて、その開発・運営の主体が自社であるかその他のソーシャルゲーム提供事業者かであるかを問わず、コンプガチャを利用者に提供してはならない。
(公開停止等)
第4条
プラットフォーム事業者は、自らが運営するプラットフォームにおいて、前条に定める禁止行為を認めた場合、当該行為をすみやかに是正するものとする。当該禁止行為がプラットフォーム提供事業者以外の者による場合、当該事業者に是正を指示するものとし、是正が行われない場合は、当該ソーシャルゲームの公開停止等、利用者による当該ソーシャルゲームの利用を制限するために必要な措置を講じるものとする。
            NHN Japan株式会社
            グリー株式会社
            株式会社サイバーエージェント
            株式会社ディー・エヌ・エー
            株式会社ドワンゴ
            株式会社ミクシィ

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