ここ数日、“新しいiPhone(5)”に関する予測記事がまた増えてきているように思う。私も海外ニュースはいくつか見ているがつまらない。唯一楽しいのはテレビ東京の『WBS』で工場関係者が喋っちゃったという情報だ。こういうときは、出てくる情報を詮索してもダメで、「アップルが業界をどう見ているか?」というほうが答えに近いことがある。そこで、私なりにまとめたのが以下の表である(アップルを擬人化してその気持ちを想定して書いたものなので念のため)。
最近いまひとつだね。Siriはキミたちの検索に変わる新しい情報へのアクセス手段だよ。Google Xで宇宙まで届く軌道エレベータを作るだって? ギークどもの考えることだね。 | |
Sony | やっつけた。やっとクラウドに気がついてはじめたみたいだけどいま忙しいんだ。あとで見せてもらうよ。 |
Amazon | とてもじゃまだ。iBooksの行く手を阻む唯一にして最大の敵だ。Kindle Fireで、プレミアム会員なら無料で見れる映画があるなんて卑怯じゃないか。 |
よく分からない相手だ。CEOの顔を見てもらいたい(新しい世代の高度なイメージ戦略なのかもしれないが)。今年中に株式公開だなんてカンベンしてくれよ。 | |
Microsoft | やっつけた(自滅というべきかもしれないが)。しかしそこはさすがにMicrosoftでしつこくやってきている。いまのところ敵ではないが、正直、よそでやってくれよという気分だ。 |
Samsung | この十数ヵ月、彼らの宣伝費を払ってあげたようなものだ。訴えることで相手の株を上げてしまったのだ。 |
これを見ると分かるのは、いまはもう初代iPhoneが発売された2007年とは違う状況だということだ。いちばん手ごわいのはAmazonで、正体不明がFacebookで、真っ先につぶしたいのがSamsungになるとは、あの頃には予想もしていなかった。初代iPhoneが発売された同じ年の暮れにKindleがデビューして、初代iPhone発表の半年前にFacebookは学生専門から一般向けになり、韓国内ですら期待していたかどうか分からないSamsungが、GALAXYを売りまくっている。
ここで重要な意味を持ってくるのが、アップルが年末に発表して来年発売すると噂されているテレビだ。一説には、アップルのテレビはSiriで操作するものになるという(一部にはSiriとともにジェスチャーも使われる)。お茶の間でテレビを見ながらTwitterをやるには、白モノ的な7インチが向いているらしいのだが、アップルは、我慢してそれをやらないだろう。
アップルが最もじゃまな存在だと思っているAmazonのやっている電子書籍の世界はどうか? ここでも7インチが便利であることが、すでに膨大な数を出荷しているKindleで証明済みである。それでも、たぶんアップルは7インチクラス(噂では7.8とも8.4インチともいわれる)のiPadは出さないのだろう。
しかし、その結果の選択肢として、
「iPhoneの画面を大きくする」
というのは最低の選択なのだ。
2010年10月に、ジョブズが7インチを否定したときの話をよく読み返してみると「アップルは3.5インチから9.7インチの間を埋めるUIを持っていない」と言っただけなのだ(こういう言葉ではないが)。だったら、アップルはそのためのUIを新たに設計してきちんとした形で7インチを出すべきなのだ。いまのアップルには、7インチ画面があったほうがよいという条件はそろっているのだから。
しかし、それでもアップルが7インチのiPadを出さないのには、正統なジョブズ思想の継承者なら分かる理由があると思う。7インチというのは道具としては便利だが、手の延長として機能するには3.5インチが最適だし(マクドナルドのハンバーガーだって直径3.5インチなのだ)、目で情報をながめながら操作していくには9.7インチ以上いるということだ(携帯電話は“手の延長”だと今年68歳の宇宙物理学者である池内了氏が『禁断の科学』(晶文社)で書いている)。
ずいぶん前の米国の記事で探しだすことができないでいるのだが、誰かが「iPhone7(だったと思う)はホログラム表示の腕時計のようなデバイスになる」と書いていた。“iPhone”という端末は、ひたすらその方向に突き進んでいるのだと私も思うのだ。コンピュータの世界で言われていたことでまだ実現していないトピックのひとつは、人々と対話しながら情報を探したりちょっとした仕事をしてくれる“エージェント”である。それ以外のことはアップルにとって寄り道でしかないのではないか?
つまり、iPhone5は3.5インチの画面サイズで決まりだ。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
アスキー総合研究所所長。同研究所の「メディア&コンテンツサーベイ」の2012年版の販売を開始(http://research.ascii.jp/consumer/contentsconsumer/)。その調査結果をもとに書いた「戦後最大のメディアの椅子取りゲームが始まっている」(http://research.ascii.jp/elem/000/000/066/66418/)が業界で話題になっている。2012年4月よりTOKYO
MXの「チェックタイム」(朝7:00~8:00)で「東京ITニュース」のコメンテータをつとめている(http://s.mxtv.jp/checktime/)。
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