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新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

2012年03月22日 22時15分更新

 さらに、“TXAA”と“Adaptive VSync”という機能が追加されている。

 AA(Anti-Aliasing、アンチエイリアシング)とは、コンピューターで3Dの物体を表現するときに避けることができない、端のギザギザ(ジャギー)を目立たなくさせることで、人間の目に滑らかに表現されていると見せる処理のことを指している。MSAA(Multi Sampling Anti Aliasing)はその代表的な処理で、複数の地点でジャギーを計測しそれを元に処理を加えることでより滑らかな端表現が可能になる。

 このMSAAではサンプルとしてとる地点の数を増やしていくとより高品質な表現が可能になるが、それだけハードウェアへの負担が大きくなるのだが、TXAAではそれをハードウェアで行うことで、GPUへの負荷を減らしつつ表示品質を向上させることができる。これにより、GPUへの負荷を少なくしながら高品質なAA処理が可能になる。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

TXAA1を利用すると、2xMSAAと同じ程度のGPUへの負荷で8xMSAAを上回る品質を得ることができる。さらに上級のTXAA2を利用すると4xMSAAと同じ程度の負荷で、8xMSAAを遙かに上回る品質を実現。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

AA無しの状態、ギザギザが気になる。

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8xMSAAを利用した状態。

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AAなしよりは改善されているがまだギザギザが気になるTXAAを利用した状態では、端が滑らかに表示されていることがわかる。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

TXAAを利用するにはアプリケーション側の対応が必要。すでに、多くのゲームスタジオがこのTXAAへの対応を予定しており、今後TXAAに対応したゲームが登場することで、3D描画性能を損なうことなく表示品質を上げることが可能になる。

 次にAdaptive VSyncだが、“VSync”はディスプレー周波数のことで、ゲームの画面はこれに同期して画面を描画している。一般的なディスプレーで毎秒60フレームで表示するのだが、GPU側の処理能力が追いつかなくなったりするときには毎秒30フレームに間引いて表示する。この時に“Stutter”と呼ばれる画面のちらつきが発生するのだが、GTX680では、これを避けるために一気に毎秒30フレームに下げるのではなく、できるだけ毎秒60フレームに近いところにとどめてStutterの発生を防ぐ仕組みを用意しているのだ。これにより、ゲームをプレーしているときの不意のチラツキを防ぐことが可能になり、より高品質でゲームを楽しむことができる。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

Adaptive VSyncの概念。モニターへの同期を30フレームに切り換えるときにStutterと呼ばれるチラツキが発生。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

Adaptive VSyncを有効にすると、フレームレートの低下をより柔軟に行うことになり、チラツキを防止。

●ハードウェアエンコーダを内蔵し、CUDA利用の場合の4~8倍の爆速エンコードが可能に

 GTX680では3Dエンジン以外の部分も強化されている。従来は2つしか内蔵されていなかったディスプレーコントローラーは4つ内蔵に強化されている。これにより、1枚のカードで4つのディスプレーに出力することが可能になっている。DisplayPort 1.2にも対応したほか、4Kと呼ばれる3840x2160ドットなどの超高解像度ディスプレーにも対応することが可能だ。また、従来はSLIが必須だった3D Vision Surround(3枚のディスプレイで3D立体視)も1枚のカードで実現可能になる。1枚のカードで、3枚のディスプレーで3D立体視を楽しみながら、残る1枚のディスプレーでメールやメッセンジャーを楽しむという使い方もできる。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

3D Vision Srroundのデモ。3枚の3D Visionモニターと、1枚の通常モニターへの出力を1枚のGTX680で実現。

 また、おそらく日本のユーザーにとって最も大きな機能拡張として、ハードウェアエンコーダーエンジンが内蔵されたことも見逃せない。ハードウェアエンコーダーエンジンは、インテルがサンディブリッジの内蔵GPUである『インテルHDグラフィックス3000/2000』などに内蔵させたもので、利用できるコーデックはきめうちながら、GPUの演算器やCPUを使う場合に比べて圧倒的に高速、かつ低消費電力でエンコードできるため大きな注目を集めた。

 GTX680に内蔵されているエンコーダーエンジンは、NVIDIAのスマートフォン/タブレット向けのSoCである『Tegra』の流れをくむもので、1080pの動画エンコードをCUDAを利用してエンコードする場合に比べて4~8倍程度高速に、かつわずか数Wの消費電力で行なうことができるという。対応しているコーデックはMPEG4 AVC(H.264)のBase Profile、Main Profile、High Profile Level 4.1までで、MPEG4 MVCにも対応しており、3D立体視に対応した動画のエンコードも可能だ。なお、このハードウェアエンコーダーを利用するにはソフトウェアが対応している必要がある。NVIDIAによればサイバーリンクが『MediaEspresso』で対応する予定になっているとのことだ。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

ハードウェアエンコーダーを利用することで、CUDAで処理を行う場合よりもさらに短い時間で“爆速“エンコードが可能に。

●メインストリーム版は遅れて投入へ、よりハイエンドチップの登場は?

 こうした様々な改善により、GTX680は前世代に比べて性能が向上しているだけでなく、表示品質の向上、さらにはハードウェアエンコーダの内蔵により、低い消費電力でCUDAを利用してエンコードする場合よりもさらに高速にエンコードできる点など、機能向上が図られている点は注目に値すると言えるだろう。

 もうひとつ触れておきたいことは、こうした性能や機能が向上しているのに、GTX680の消費電力は、従来製品に比べて大きく抑えられていることだ。従来のGTX580のピーク時消費電力が250Wに達していたのに対して、GTX680では195Wに押さえられている。これにより、GTX580では電源ユニットからビデオカードへ供給する補助電源は6ピン+8ピンという構成が必要だったのだが、GTX680では6ピン+6ピンとなっており、電源ユニットへの負荷が減っている。多くのエンドユーザー、特にコンポーネントの消費電力に対しても大きな注意を払う必要がある日本のユーザーにとっては、ハイエンドGPUの消費電力が下がったというのは喜ぶべき事だろう。

 ただし、これが今後も維持されるのかはまったくわからない。というのも、NVIDIAは今後の製品でもこの195Wという枠が維持されるのかに関しては何もコメントしていないからだ。NVIDIAはこの件に関してノーコメントを通したので、将来的には250Wに戻る可能性はあると考えるべきだろう。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

GTX680では6ピン+6ピンで動作可能に。195Wとピーク時消費電力が下がった効果。

●“GK104”のネーミングに残る謎

 実際、今回発表されたGTX680にはスペック上、ハイエンドチップとして“アレッ?”と思う部分がないわけではない。例えば、メモリコントローラーは256ビット幅になっており、ハイエンドGPUで当たり前に使われている384ビット幅ではない。しかも、GTX680の開発コードネームはGK104となっている点も不思議なことだ。以下はFermi、Kepler世代の開発コードネームを表にしたものだ。

新世代GPU『GeForce GTX680』を徹底解剖【笠原一輝氏寄稿】

 おかしいなと感じた人もいるだろう。Fermi世代ではGeForce 400シリーズのハイエンドはGTX480で開発コードネームは“GF100”、GeForce 500シリーズではGTX580で開発コードネームは“GF110”となっている。つまり、開発コードネームは末尾が“0”となっているチップがハイエンド製品となっているのだ。

 これに対して、GeForce 600世代は“GK104”で末尾が“4”だ。これまでであれば、GTX460(GF104)やGTX560(GF114)といったパフォーマンス向けのGPU向けの開発コードネームがハイエンド向けとなっているのだ。これまでの経緯を考えれば、GK104は本来パフォーマンス向けとして開発されたGPUだったが、思ったよりも高性能だったため、ハイエンドに引き上げられた、そうした製品であると推測することは可能だろう。

 こうなると、じゃあ“GK100”や“GK110”はどこへいったんだという疑問は当然出てくるだろう。NVIDIAはそうした未発表の製品に関するコメントを拒否しており、このあたりは推測の域をでないのだが、おそらくシリーズの開発当初にはそうした製品もあったが、何らかの理由でキャンセルされたか、開発が遅れており今後遅れて登場するという可能性が考えられるだろう。そうしたチップではより大きなダイサイズになり、メモリバス幅が386ビットになったり、演算器の数が増えたりなどの強化は当然予想できる。

 また、今後はメインストリーム版の投入も考えられ、別記事で触れているノートPC用として投入されたGK106がデスクトップPCに展開されることも充分にあり得る(というか無い理由はない)。そうした意味で、今後の展開にも要注目と言えるだろう。

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