11月2日、アスキームック『ニコニコ動画めもりある ニコニコ大会議編』が発売しました! ニコニコ動画が約3年半に渡って開催してきたイベント“ニコニコ大会議”を一気に振り返れる、“ニコ厨”(ニコ動好き)にはたまらない内容となっております。
表紙は女子よりな感じですが、中身はIT業界の人が読んでも楽しめる仕上がりです。特にインタビューには力を入れ、ドワンゴの川上会長、小林社長、夏野取締役、ニワンゴの杉本社長、西村(ひろゆき)取締役と首脳陣が勢揃い。何を目的にニコニコ大会議を始めて、終わらせたのか。何の成果が得られて、何が問題だったのか、赤裸々に語っていただきました。そんなインタビューから、今回は本編に入らなかった話も含めて川上会長のインタビューを紹介させていただきます。
── そもそもニコニコ大会議って、なんで始められたんですか?
どこかで言ったかな? もしかしたらどこにも話してないかもしれないんですけど、実はニコ動をつくってるエンジニアに締め切りを守らせるためだったんです。
── ええっ!? 初めて聞きましたよ。
大体エンジニアって、締め切りを決めても作業が遅れるじゃないですか。どんなに余裕があるスケジュールを組んだって、そこまでに完成しなくて、むしろちょっと遅れてしまう。だから“どうやったら遅らせないようにできるだろう”って考えた時に、ショーアップして、ユーザーから注目されるイベントにしちゃえばいいと。
── そのために'08年にJCBホールを借りて、数千万円もかけてしまうという剛毅さがスゴい……。'09から'10年にかけては、全国8ヵ所を回るツアーを開催してました。
それも“全国ツアー”って言いたかったからなんですよね。
── ええっ(笑)
“ニコニコ大会議”としてイベントが続いて、しかも人気が出てきたじゃないですか。それで「大会議、全国ツアー発表!」って言ったら、超おもしろいなと思いまして。そして全国ツアーの最後には、東京に戻ってきてJCBホールの“2days”ですよね。あれは“全国ツアー”と“2days”という2つの単語を言いたかっただけなんです。
── そのためにどれだけのお金を投じたのか……。でも、そのよくわからなない感じが確かにニコ動っぽい。
本来の目的を見失っている感じというか、よくわからないけど“全国ツアー”と“2days”を言いたくって。
── あの時点では私も取材していて“よくわからない”って思ってました。
わからない感じがありますよね。“一体これは何なんだ”っていう。とにかくやることが先に決まってたんですけど、それだけ回数をやるわけですから、発表するニコ動の新機能がないと。
── ハハハ! ちょっと待ってくださいよ!
だからユーザーのパフォーマンスをメインにしようということにしたんです。“全国ツアー”と“2days”という単語を使いたいというだけでは、さすがに無理があったので。その時ユーザーのイベントが盛り上がっていたので、もっと、ニコ動から出たものというのをちゃんと扱って、光を当てたかった。そういう場所をつくって、新機能の発表会と一緒にやってしまおうと。
── でも大成功ですよね。
大成功だと思いますよ。あれで黒字化が1年遅れましたけど、全然それは後悔してなくて。
── 特にJCBホールの2日目はすごかった。
もうびっくりしましたよ。エンディングの『Smiling』って、その時は知らなくて「いい曲だなー」と思ってたらサビでいきなり「ニコニコ動画」とか歌い出したので、びっくりした。「え、これニコ動の歌だったの?」みたいな。「ひょっとしたらこれは替え歌で、大会議に合わせてサビの歌詞を変えているのかな?」とも思ったけど、替え歌にしてはみんな合唱してるし、サビで弾幕も流れるし。それは本当にびっくりした。
これはその後の大会議とかニコファーレにつながる流れなんですけれども、ユーザーの盛り上がりを世の中に出すことをちゃんと作ろうというのは、その時に決めたんです。
── その後の流れを見ると、今言われたことを体現している。原宿のアンテナショップ“ニコニコ本社”とか、六本木の次世代ライブハウス“ニコファーレ”とか。あと、ミュージカルの“ニコニコミュージカル(ニコミュ)”もそういう面がありますね。
ミュージカルといっても、ユーザーがやろうとするとなると、やっぱりハードルが高いわけですよ。お金がかかり過ぎるとか、法律面で問題があるとか、アシストしてあげないとなかなかできないことがある。だから、そういうのができる場所を作ろうと言っていたんです。
そう言うことを考えた時に、JCBホールの2日目がボクら的にはすごく大きかった。ビジネス的なものは関係なしに、ユーザーのためにサービスを作ろうという気持ちが社内にうまれたんです。
──社内の結束を固めるのにもすごくいいイベントだったと。
ボクらの中でいうなら、ボクらのつくってきたニコニコ動画が世の中にあってよかったんだなっていうのがわかったというか。それまでMADや著作権問題とか言われてきて、“本当にこれで日本のためになるのかな”みたいな、“ニートを増やしているだけじゃないのかな”みたいな。
── ちょ(笑)
本当にいいものをつくっているのかどうかがわからなかったわけですよ。でもやっぱりボクら自身もニコ動っていうサービスが素晴らしいものだなというふうに確信を持てた。
── しかし、あのライブは賛否両論で、ネットでも“素人の学園祭”という割と冷めた目で眺めていたメディアもあった。それについてはどう思われましたか?
逆に、それで正しい方向にいってるんだなと思ったんですよ。だって、本当に革新的なもの、新しいものに関しては、世の中で評価できないじゃないですか。評価軸が無いから。新しいものってそんなもんですよ。
── その後、大会議は“10年に有料化して、“11年には海外に進出して台湾でも公演した。その海外の人気をご覧になられて、どう思われましたか?
いや、すごいですよね。パリの“Japan Expo”でも、ロサンゼルスの“Anime Expo”でもそうでしたが、ニコ動の人気って世界的なんです。業界関係者は当然知ってる。ユーザーもニコ動で流行したものがYouTubeに転載されて見ている。“これはニコ動で流行ったもの”という認識はあるみたいです。
── 日本のネットの企業で海外でも認知されているというのは珍しいですね。
あまりないと思います。ニコ動が日本のサブカルチャーの聖地になっているみたいな感じで。アジア圏でもそうだし。台湾とか日本と変わらないですよね。
── 台湾はすごかった。有名ユーザーさんが登場すると、お客さんがまるで超大物タレントが出てきたような熱狂ぶりを見せる。しかし、あんなに成功した大会議を台湾公演で終わらせちゃいましたが、それはなんでなんですか?
ひろゆきが批判したからねえ。
── ええっ。ニコ動のひとつのブランドになったのに、それでもやめちゃう。
ボクらとしては、半分おもしろいからやっていたイベントなんですよね、採算とか関係なしに。前年に続いて、'10、'11年にも全国ツアーをやって、JCBホールで2dayを開催したんですが、そのときに“これでいい、趣味でやっていいん“だと思ってしまった。それまでは多少“これでいいのかな”って罪悪感を持ってやっていたのが、“ユーザーのためだから”って開き直っちゃった。それをユーザーに批判されたというのが大きかった。
もともとそれで儲けようっていうのじゃなくて、“ユーザーが喜んでくれるんだからやろう”って思ってやっていたから、全部のユーザーにそう言われたわけではないにせよ、批判するユーザーが出てきたんだったら、これはもう次で最後にしようと。台湾に関しては、台湾のユーザーに約束したから、それはやろうと。
── それでもそこですぱっとやめられるのはすごい。
でもそれは、元々ユーザーのためにやっていたことだから。
── 一部の人はまだまだ楽しんでいたわけじゃないですか。
そうですけども、そこで続けると、楽しんでいたユーザーと、そうでないユーザーとの間に争いができちゃうから。
── なるほど。だからその流れの中で超会議っていう、もうちょっと視線を広げたものをやりたいということですね。
そうです。“これだったら納得するでしょ”と。だから超会議のテーマっていうのは、“可能な限り全てのユーザを満足させる”ということで。もちろんそれまでも、各ジャンルのユーザーを満足させようとしてはいたんです。大会議で歌い手とかをフューチャーしたのは、あれは単純にやりやすかったからなんですよね。採算はどうでもよくて、イベントとしてステージを盛り上げるためっていうのもある。
あとはボクらがやりきれるかどうかなんですよね。ドワンゴって基本的にエンジニアの会社なので。本来はイベントをするチームなんかない。ちょっと話がそれますが、大会議を始めた頃って政治方面のコンテンツにも力を入れ始めた時期なんです。その頃、いろいろ選挙もあったけど、大会議の準備で忙しくて取り上げられなかった。両方、同じスタッフがやってたので。優先順位を付けるとしたら、むしろ大会議の方が上だった。いくら日本の政治が激動しようが、大会議やってる間は何もできないからっていう。
── それは辛い……。
大会議以外にも、ユーザー生放送のための“ナマケット”や、踊り手のための“Nico Nico D@nce M@ster”とかを企画していったんですが、それでもやっぱり批判が出ちゃったんです。大会議というブランドがでかくなりすぎたのと、それ以外の部分をユーザーにしっかり見せられなかった。
じゃあいったん仕切り直して、超会議からやり直そうと。ニコ動でユーザーが争うのはボクらの本意じゃない。まったく違う人たち、いろんな属性を持った人たちが楽しめるのがニコ動だと思うので、そこを失いたくない。超会議からまたスタートです。
── でも全員が楽しめるって、すごく難しいことですよね。それに挑戦するのは、かなりの冒険というか……。
できるんじゃないですか? ニコ動の中でだったらそれは実際起きている。今、ニコニコ生放送の最大のコンテンツって、実は政治なんですよね。
── あれ、アニメじゃないんですか?
人数で見ると圧倒的に1位。2番目が言論で、3番目がアニメかな。
── かたい話でもウケてるんですね。リスナー的にはユーザー生放送のほうが多いのかなとなんとなく思ってました。
ユーザー生放送は、あれはあれで人が来ているんですが、人気の公式生放送っていうのは政治、言論が圧倒的に多い。ひとつエピソードを紹介すると、公式生放送の最大動員記録でトップだったのは、去年の前半まで、はやぶさの帰還だったんです。
── あれはすごくよかった。
それを塗り替えたのが9月の民主党代表選。あれはメディアも巻き込みましたから。すごく盛り上がって、そこで“ニコ動すごいな”と。さらにそれを超えたのが翌月の尖閣諸島問題。朝に事件があって、その夜にニコ生で特番をやったんです。
── 記録が次々と塗り替えられていくというのは、今まで来てなかった人が新しく来るようになったということですよね。
イベント毎に大きくなっていきましたね。しかもサブカルチャーが全然ない。はやぶさ、代表選、尖閣問題って、硬派な番組ばかりがトップ3で、“ニコ動ってすごいな”と思っていたら、その記録を塗り替えたのが12月の市川海老蔵さんの会見だった。
── アハハハハ! “あれー?”っていう。
なんだ、結局ワイドショーと変わらないじゃんと。あれだけネットでワイドショーやマスコミを批判してるのに、“海老蔵さんの方が上に来るんだ”と。
── すいません。私も海老蔵さん会見は観ちゃいました。
観ちゃいますよね。それで、“何だ、結局ワイドショーが好きなんだ”ということで結論が出たと思ったら、翌年の正月の“『らき☆すた』一挙放送”が記録を塗り替えた。
── なんか全然違うじゃないですか。
一周して戻ってきちゃったみたいな。今までの流れは何だったんだ?って。「結局アニメかよ!」という。
── もうユーザーが読めない。それだけ多種多様な人がいるという。
それがニコ動なんですよね。いろいろな人が共存している。だからこそ、大会議でユーザー同士の争いが起きたというのはショックだったんです。ボクらが思っているニコ動ではなくなるという。
── “ニコニコ”動画ですから、ユーザーにはニコニコしていてほしいですよね。
本当に言霊って怖いですよ。もともと、“ニコニコ動画”って仮の名前で、すぐに変えるつもりだったし。
── マジですか!
“ニコニコ動画(仮)”だった時期もありますし。最初はニワンゴという会社だからあとで“ニワビデオ”って名前に変える予定だった。最初はみんなに怒られないようにくだけたもので、さらにあやしい名前にしようということで、ニコニコ動画になった。
でも、ボクらがあやしいと思ってつけた名前だったのに、だんだんとユーザーが運営に文句を言う時に“こんなんじゃニコニコできない”とか言い出して、“ニコニコ”という名前に感情移入しだした。これは名前を変えられないなと思って、“ニコニコ動画”という名前を使い続けることにしたんです。
その次に思ったのが、“ニコニコ動画”という名前で日本に浸透できるのか。もしかしたらこの名前を変えなくちゃいけなくなるかもしれない。でも、できるだけ変えないで済ませたい。じゃあどうやったら変えさせないようにできるかと考えて、国会で議員に「ニコニコ動画」と言わせればいいと。
── えっ。
そういう場で単語を発音させる、強制的に世の中に認めさせると。それで政治の方に行った。
── なんか怖いですね、名前って……。
怖いですよ。“ニコニコ静画”も、候補の中に“ニコニコ静止画”っていうのがあったんですが、それだとどうも座りが悪い。ニコ動と関連付けるなら“静画”の方がいいなと思ったんだけど、そんな言葉はない。それで思ったのは、ひょっとすると、ニコニコが“静画”というサービスを立ち上げると、みんなそういう言葉があるものとして使いだすんじゃないか。ニコニコがその言葉を使えば、変えられるかもしれないという。
“ニコチュウ”という言葉は、今ではニコ動をやっている“ニコ厨”を指すけれども、あれはもともと“ニコチン中毒”の略だったじゃないですか。その言葉を乗っ取ってしまった。これはすごいことだなと思っていて。それで、“ニコニコ静画”っていう名前のサービスをつくることによって、“静画”って名前が辞書に載ったら超おもしろいなって。
── 今はずいぶん広まっちゃいましたね。
そう。だから今“静画”で検索すると、この言葉を前からあるもののように使ってる人が多い。みんな覚え始めてるんで、これをあと何年もすれば、“静画”という言葉が確実に世の中に実現されるだろうと。まあ、そういう実験なんですよ。
ボクらは言霊を信じていて、言霊で世の中が動くと思っている。言霊のために仕事をしようというのがサービスの根本にあるんです。だから、やっぱりいろいろな候補があったけど、“ニコファーレ”なんですよね。あれも名前の持つ言霊の力ですよね。どうしてもあの名前で言いたい。“ニコニコ本社”もそうです。
── 本社は中央区日本橋浜町にあるのに、みんなドワンゴの本社があそこにあると信じ切っているという……。
そんな人がどんどん増えているんですよね。言葉の持つ力って強いわけですよ。“ニコニコ動画(原宿)”を発表した時に、会場のユーザーからはみんなポカーンとした空気が感じられたんですけど、だんだんなじんできたじゃないですか。
ニコニコと聞いた時に原宿という単語をスムーズに連想するという人は多いと思いますよ。そういう意味では違和感を持たないですよね。そういう言霊ですよ。
── 超会議に込めた思いというのは、やはり大会議を“超”えるということですか。
そうですね。何年か前に“全人類ニコニコ化計画”っていう言葉を適当に言ったんですけど、結構社内で本当に話し合われていて。やっぱり全人類をニコ厨にするというのが最終目標だよねーと。全人類をニコ厨にして、世界に平和をもたらすことがニコ動の使命。
── それ、本当に会議で話し合ってたんですか?
いやいや、本気でそういうことを話し合っていて。最終目的はそこだろうと。それでニコ動を通じて、世の中をひとつにつなげるというのが、ボクには一番大きな目標なんです。ニコニコ超会議はそのためですよね。最近(ユーザーが)バラバラになりがちで、すぐ仲間割れするので、もっと仲良くしようよという。
── 超会議にはどんなことを期待しますか?
みんなが楽しめればそれでいいですよね。疎外されたって感じる人が……ゼロにはならないと思うんですけど、それでも大多数の人がニコ厨として参加してるんだなということを感じられるイベントにできればと思っています。
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大会議というと、ステージに立っていた夏野さんやひろゆきさんが目立っていましたが、イベントの意思決定に深く関わっていたのは川上会長でした。筆者の広田、編集のガチ鈴木ともにかなりグッと来た話でした。残りのインタビューもそれぞれの大会議、ニコ動を見る視点がちがく読み応えがあります。ぜひ、リアルやネットの書店でムック本を注文して読んでくださいっ!
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