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【スーパーボウルまで追いかけ隊】コルツはワンマンアーミーだったのか

2011年11月04日 20時00分更新

 NFL連載5回目は、今シーズン全敗を続けるコルツに注目。ホンの2年前にスーパーボウル進出を果たした実力派チームは、QBペイトン・マニングひとりだけのワンマンチームだったのでしょうか?

●NFL第8週トピックス●
コルツ対タイタンズはコルツが拙攻で開幕8連敗

 開幕7連敗と泥沼のコルツは、目下2連敗中のタイタンズと対戦。エースRBのクリス・ジョンソンが今季絶不調のタイタンズは、パスオフェンスも224ヤードに留まるも、ディフェンスが2つのインターセプトを奪取。

 さらに、コルツのパントをエンドゾーン内でブロックしてタッチダウンにつなげるなど、コルツの攻撃を要所で抑え、終わってみれば27-10の大差で勝利。コルツはシーズン折り返し地点にして早くも、今季の勝ち越しなしが確定した。

 コルツのQBカーティス・ペインターは、3年前にドラフト6巡指名で入団した生え抜き選手。今季第4戦から先発を任され、最初の3試合は5TDパス、1INTの成績でQBレーティングも 96.5 と安定したプレーを見せていた。

 だがセインツ、タイタンズと続いたこの2試合はゼロTD・3INTと乱調を見せ、QBレーティングも 47.3 と急落。並み以下の QB となってしまっている。

●マニング入団後、素晴らしい成績を続けてきたコルツ

 今シーズンが開幕する前にリーグを揺るがしたニュースは、コルツ不動のエース QB ペイトン・マニングが、首の負傷で開幕戦を欠場するというものでした。マニングは1998年の入団から 208 試合連続で先発出場を続けており、これは鉄人ブレット・ファーヴの 297 試合に続けて第2位の記録です。

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1999年の入団以来、コルツをけん引し続けるQBペイトン・マニング。その実績は「Future Fall of Famer」(未来の殿堂入り選手)を称されている(第41回スーパーボウルにてカゲ撮影)。

 ちなみに現役選手でこれに続くのは、ペイトンの弟でジャイアンツ QB イーライ・マニングの持つ 110 試合という記録。ペイトンとは倍近くの差があり、ファーヴの記録を抜くならペイトン・マニングに唯一の可能性があると言われていました。しかし、その記録も途絶えてしまったのです。

 1953年創立のインディアナポリス・コルツは、スーパーボウル進出4回、優勝2回という名門。ただ1978~1984年にはプレーオフ進出が1回しかなく、長い低迷期も経験しています。

 そのコルツが低迷を脱したのは、現オーナーのジム・アーゼイ氏が1997年に球団の 100 パーセントオーナーとなってから。もともと父のロバート・アーゼイ氏が球団を保有していましたが、1997年にロバート氏が亡くなると、義母との法廷闘争に勝って、球団の支配権を確立したのです。

 そのアーゼイ氏が最初に行なったのは、3勝13敗に終わった1997年シーズンを受けた翌1998年のドラフトで、テネシー大学のエースQBペイトン・マニングを指名することでした。

 大学時代のマニングは、ハイズマン賞争いではミシガン大学のチャールズ・ウッドソン(現パッカーズ)に僅差の2位で敗れたものの、オールアメリカの1stチームに選出されたほか、最優秀4年生QBに贈られるジョニー・ユナイタス賞や、ESPN選定の最優秀大学選手賞を受賞するなど、トップレベルの活躍を見せました。

 父親は、セインツでエースQBとして活躍したアーチー・マニング氏。その血統もあいまって、プロでも間違いなく活躍するとの太鼓判を押されたマニングを、コルツは今後10年(Next Decade)を託すエースとして指名したのです。

 そしてマニングは見事、その期待に応えました。ルーキー年こそ3勝13敗に終わったものの、翌1999年シーズンはいきなり 13 勝をマークしてプレーオフに進出。2001年シーズンには6勝10敗の負け越しを記録したものの、そこからなんと9年連続で2ケタ勝利をマーク。

 なかでも2002年~2009年シーズンは、毎年12勝以上(勝率 .750 !)をキープ。2006年シーズンには見事、第41回スーパーボウルで優勝を果たしています。その後も2008年と2009年に連続してリーグ MVP を受賞しており、まさに殿堂級の働きを見せています。

●フットボール選手にとって首のケガは致命的

 そのマニングが今季、首の手術が原因で、開幕戦から欠場することになってしまいました。マニングは長年の酷使がたたって頸椎を痛めており、いわゆるヘルニアを発症していたようです。首には全身の神経が集まっていますから、頸椎ヘルニアは手足のしびれなどを併発します。

 これまで多くの選手が頸椎ヘルニアを患っており、そのなかには復帰例もあれば、引退した例もあります。1994年に首を負傷したパッカーズの WR スターリング・シャープは、3年連続でオールプロに選出された直後に引退を決意しています。

 他の部位と違って首の負傷は引退後の生活設計に大きな影響を及ぼします。マニングはいまもコルツのサイドラインに姿を見せており、外見からは負傷の影響は感じられませんが、いざ試合に出場して首を痛めようものなら、手足が不自由になる可能性すら秘めているのです。

 そんなわけで、エース QB のマニングを欠いたコルツですが、チーム自体は2年前にスーパーボウルに進出したばかり。今季は優勝争いは無理だとしても、そこそこの成績は残すものと見られていました。それがフタを開けてみればまさかの8連敗。しかも第7週にはセインツ相手に、7-62という記録的な大敗まで喫しています。

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第41回スーパーボウルでMVPを受賞し、試合後にインタビュー攻めにあうペイトン・マニング。この翌年には弟のイーライ(ジャイアンツ)がMVPに輝き、史上初の兄弟MVPに輝いた(カゲ撮影)。

●QBは本当は“司令塔”ではない!?

 そもそもフットボールは分厚いプレーブックをもとにしたチームスポーツのはず。ふつうなら、選手ひとりの離脱でここまで大きく影響することはありません。たとえば昨季の第15週、パッカーズはエース QB のアーロン・ロジャーズが負傷で欠場し、控え QB のマット・フリンが先発で出場しました。

 そのフリンは、3年前にドラフト7巡で指名されており、その点ではコルツの QB ペインターと同じようなポジションです。しかしフリンは強豪のペイトリオッツ相手に 251 ヤード、3TDを奪取。最終的には 27-31 で惜敗したものの、第3Q 終了時には 24-21 でリードするなど、控えとは思えない活躍を見せたのです。

 さらに古い例、そして有名な例としては QB カート・ワーナーが挙げられます。1999年シーズンにラムズの控えだったワーナーは、プレシーズン戦でエース QB のトレント・グリーンが負傷すると、エースに昇格。開幕3戦で連続して 3TD パスを挙げる( NFL記録 )という爆発力を見せると、シーズン 41 TD パスの大活躍を見せ、ついには第34回スーパーボウル優勝まで突っ走りました。

 ではなぜ、コルツとペイトン・マニングは、そういう関係になれていないのでしょうか?

●自在なオーディブルがコルツの武器だった

 実のところコルツが好調だったころから、コルツには「ペイトン・マニングのワンマンチーム」という定評がありました。決してマニングが自分勝手だという意味ではありません。それどころか近年は、若手の WR や TE にマンツーマンで相手ディフェンスの読み方などを伝授していたほどです。

 問題は、コルツのオフェンスがあまりにもマニングに依存していたということです。QB はオフェンスの司令塔と呼ばれますが、近代 NFL ではオフェンスプレーを立案するのはコーチの仕事であり、選手はその実行(エグゼキューション)に徹するものとされています。

 それがコルツでは、マニングにプレーを選択・変更する権限が与えられていました。QB が自分の意志でプレーを変更することを「オーディブル」(Audible Call)と呼び、QB がオフェンスの各選手に変更するプレー内容を伝達します。プレー開始前に QB が各選手に呼び掛けるように動いていたら、オーディブルを掛けている可能性が高いのです。

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オフェンスの選手たちのオーディブルをコールするマニング(中央)。相手ディフェンスを読み解き、最適なプレーを選択する彼は、まさにフィールド上の司令塔だ。

 このオーディブルがどこまで可能かはチームによって異なりますが、コルツではマニングに全権限が与えられていました。相手チームもそれを知っているので、マニングのオーディブルには注意を払います。それゆえ、マニングの掛け声の中には「プレーに変更なし!」という、いわばニセのオーディブルまで含まれていたのです。

 このオーディブルが可能だったのは、ひとつに QB としてマニングが優秀であり、正確かつ強いパスを投げられたこと。もうひとつには、元 NFL 選手のもとで育ち、子どものころからフットボールの戦術に通暁していたことが理由だと言われています。

 それゆえマニングは相手のディフェンスを正確に見抜き、最も効果的なオフェンスプレーを選択することができました。選手たちはマニングのオーディブルに従うことでディフェンスの穴を突くことができ、自分の実力をフルに発揮できたというわけです。

 それが今季は突然、オーディブルがないオフェンスに変わりました。選手からみれば QB ひとりの交代ではなく、オフェンスコーチが丸ごと交代したような勢いです。これではプレーに迷いがでることは避けようがありません。

●QB交代でチームが低迷することも

 その影響はディフェンスにも及びます。昨年まではオフェンスがばんばん点を取り、ディフェンスはその点を守ることで試合を有利に進めていました。それが今季はオフェンスが弱体化し、ディフェンスの負担が増えています。オフェンスがファーストダウンを更新できずにあっさり攻撃権を明け渡せば、それだけディフェンスのプレー時間は増え、疲労にもつながります。

 こうやってコルツは攻守両面でチーム力が衰え、今季の8連敗に繋がってしまったわけです。他のチームであれば、QB が交代してもオフェンスのベースは変わりません。しかしコルツでは、マニングの天才性にチームが依存していたために、QB ひとりの交代が大きな影響を及ぼしてしまいました。

 これに近い状況は、これまでにも例があります。たとえばドルフィンズの黄金期を支えた QB ダン・マリーノは、1983年~1999年の在籍17年間で、10回のプレーオフ進出を果たしています。ほぼ6割の割合になります。

 それがマリーノ引退後の 11 年間ではわずか3回。数字的にはプレーオフ進出が半減した形です。しかもここ10年はプレーオフでの勝利がありません。ここ2年は7勝9敗で踏みとどまっていた成績も、今季はなんと開幕7連敗。コルツ同様の泥沼状態にあります。

 今後のコルツですが、正直なところ今期中は復活の目は小さいものと思われます。プレーオフ進出はほぼ絶望的なので、今季は QB カーティス・ペインターの育成に当てるかもしれません。

 ひとつ残念なのは、来年2月のスーパーボウルがコルツの本拠地であるルーカス・オイル・スタジアムで開催されるということ。今季のスーパーボウルでは史上初めて、開催地のチームが進出することが期待されていました。ですが昨年のダラス・カウボーイズに続き、その夢はほぼ潰えてしまったようです。


●今週の余談

 首の負傷で引退を余儀なくされたパッカーズの WR スターリング・シャープ。彼は鉄人 QB ブレット・ファーヴがプロで初めて投げた TD パスをレシーブしたことでも知られています。

 そのまま現役を続けていれば、1996年のパッカーズ優勝時にはスーパーボウルリングを得ていたであろうシャープですが、残念ながらその願いは果たせませんでした。しかしそのシャープは、スーパーボウルリングを所有しているそうです。

 そのリングは、弟のシャノン・シャープが兄に贈ったもの。兄から2年遅れでプロ入りしたシャノンは、ドラフト8巡という低評価からメキメキと頭角を現わし、リーグを代表するタイトエンドに成長しました。今年2月にはプロフットボールの殿堂入りを果たし、まさに伝説に残る選手に上り詰めたのです。

 そのシャノンはブロンコズで2回、レイヴンズで1回の計3回、スーパーボウルを制覇。その最初のスーパーボウルリングを、「オレの活躍は兄あってこそ」との思いから、スターリングにプレゼントしたというわけです。

 ちなみにそのリングは第32回スーパーボウルで獲得したもので、そのときの対戦相手はブレット・ファーヴ率いるパッカーズ(パッカーズにとって唯一のスーパーボウル敗戦でもあります)。ある意味、パッカーズの1988年ドラ1指名選手だった兄に贈るには、絶好のリングだったかもしれません。

 ところで、スターリング・シャープがファーヴの初 TD パスをレシーブしたのと同じ試合で、ファーヴの初決勝TDパスをレシーブしたのは、当時プロ5年目のWRキトリック・テイラー。テイラーは翌年ブロンコズに移籍しており、スターリングとシャノンの両シャープを知る選手でもあります。そしてこのテイラー、ファーヴからレシーブした TD パスが、彼にとってプロ6年間で唯一の TD パスだったのです。

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