NFL連載4回目は、各チームで初先発を果たした新人QB、および若手のQBに注目しましょう。フットボールの司令塔と呼ばれる QB は果たして、新人に務まるポジションなのでしょうか?
●NFL第7週トピックス●
ブラウンズ対シーホークスは両軍合計9点の超ロースコアゲーム
ともに2勝3敗と不調のブラウンズとシーホークスは、両チームともタッチダウンなし、合計3FGのみというロースコアゲームを展開。50ヤード超のFGを2回決めたブラウンズが、6-3 で辛勝しました。
6-3のロースコアゲームを制したブラウンズ(茶色のヘルメット)。ちなみにチーム名は茶色だからブラウンズなのではなく、初代ヘッドコーチのポール・ブラウン氏にちなんだものだ。 |
1940年代までは 0-0 の引き分けという試合も珍しくなかった NFL ですが、スーパーボウル以降の近代 NFL ではハイスコア化が進み、合計点がひと桁という試合にお目にかかることはなかなかありません。
今回の対戦では、ブラウンズのQBコルト・マッコイは2年目の若手。いっぽうシーホークスのQBチャーリー・ホワイトハーストは、6年目のベテランではありますが、先発はこれが3試合目という万年3番手だった選手。そんなイマイチいけてない2人の対決とあって、オフェンスのスタッツは目を覆うばかりの惨状でした。
とくにQBホワイトハーストは、パス成績が 12/30 97ヤードという体たらく。パス獲得距離が100ヤードを切る試合は、ある意味貴重です。しかもラン攻撃も不発で、3人合計でわずか65ヤード。トータルヤードが 137 ヤードですから、これでは勝てるわけがありません。
※トータルヤードの計算では、ランとパスの合計獲得距離から反則で罰退したぶんを差し引かれる。
このオフェンスには米メディアの評価も手厳しく、NFL.comでは「Putrid offense」(腐った攻撃)との見出しをつける始末。とは言え2週前には強豪のジャイアンツ相手に 36-25 で勝利しているのですから、勝負というのは本当にわからないものです。
●新人 QB が王者パッカーズ相手に2TD決める
さて、今週は「パッカーズの開幕7連勝なるか?」が注目トピックのひとつでしたが、ヴァイキングス相手という同地区対戦をしぶとく勝ち抜き、見事7連勝を果たしました。
ただその試合も、序盤ぶは「今日こそパッカーズが初黒星か」という雰囲気が漂っていました。この日、プロ初先発を果たしたヴァイキングスの新人 QB クリスチャン・ポンダーが、試合開始早々に活躍を見せたからです。
今季1勝6敗と絶不調ながら、ルーキーQBクリスチャン・ポンダーの活躍に期待が高まるヴァイキングス。 |
この日、スクリメージからの第1プレーで QB ポンダーは、右に大きくロールアウトしながらディープに走った WR ジェンキンスにロングパスをヒット。なんとプロ最初のプレーが 73 ヤードのタッチダウンパスとなりました。
これは QB マット・ライアン(ファルコンズ)が2008年の開幕戦(対ライオンズ)で、同じ WR ジェンキンスに第1プレーで62ヤードTDパスを決めて以来の、記録的なパスとなりました。
ただ、ポンダーのTDパスにはオフィシャルレビューが入り、実際には WR ジェンキンスのヒジが1ヤード地点でフィールドに着いていたとの判定で TD は取り消し。プロ初TDはお預けとなっています。
とは言えその2プレー後、今度はホントにプロ初のTDパスを決めてみせます。最終的にはパッカーズディフェンスに抑え込まれたものの、2TDパスを決め300ヤード超を獲得するなど、QB ポンダーは新人離れした活躍を見せてくれました。
ここで浮かぶ疑問は、「NFLはルーキーが活躍できるリーグなのか?」ということです。もちろん他のスポーツでもルーキーが活躍を見せることはありますが、QBという大事なポジションで、ルーキーが活躍できる余地はどれくらいあるのでしょうか?
●NFL にはなぜ二軍がないのか?
ここで注目したいのが、NFL には二軍がないこと。すなわちマイナーリーグのシステムをもっていないという点です。
過去には NFL ヨーロッパが春から夏にかけて開催され、各チームから送りこまれた若手選手が切磋琢磨するなど、二軍的な役割を果たしていた時期もあります。ただ、野球などとは異なり、各チームが配下にマイナーチームをもつことはありません。
ちなみにバスケットボールやアイスホッケーでは、マイナーリーグ的な性格をもつリーグが複数あり、若手を中心に数多くの選手が在籍しています。たとえば NBA(バスケット)は ABA や CBA といった独立リーグと提携関係を結んでいます。
あえて NFL の二軍的なリーグを挙げると、カナディアンフットボールの CFL になるでしょうか。アメリカンフットボールと似たルールでプレーされる CFL では、チームのほぼ半数をアメリカ人が占めています。彼らはまさに、将来の NFL 入りを夢見て異国の地カナダでのプレーを選んだ選手たちです。
※CFL では選手がアメリカ人ばかりになることを避けるため、チームの半数以上をカナダ人、もしくはカナダの大学等を卒業した選手(non-importと呼ばれます)にするというルールがあります。
とは言え、CFL はやはり外国の独立したプロリーグであり、二軍としての役割を期待されているわけではありません。それでは若手選手たちは、どこで訓練を積むのでしょうか?
●実力と人気を兼ね備えたカレッジフットボール
その答えは、カレッジフットボールにあります。米国におけるカレッジ(大学)フットボールの人気はすさまじいものがあり、人気チームは7万人クラスのスタジアムを毎試合満員にします。NFL チームがない州だと、州で一番人気のチームはカレッジフットボールのチームだったりするのです。
NCAA、すなわち全米大学体育協会の名前は日本でもよく知られていますが、同協会が設立されたきっかけは、20世紀初頭にケガ人が続出したカレッジフットボールのルール整備が目的でした。これは当時のセオドア・ルーズベルト大統領の命令がもととなっており、すなわち当時からカレッジフットボールが大きな存在だったことを示すエピソードでもあります。
実際、NFLが高い人気を得るようになった1960年代より前は、プロよりカレッジのほうが人気が高かったのです。これは日本でも、戦前はプロ野球より大学野球のほうが人気だったのに似ています。
そんなわけで、米国のカレッジフットボールは高い人気を誇っており、しかも競技レベルも非常に高い水準にあります。なにしろ高校フットボールのプレーヤーは100万人いるのに対し、カレッジの1部校で活躍できる選手は約1万人。100分の1の競争を勝ち抜いた若きアスリートたちが、カレッジにはうようよしているのです。
そのカレッジフットボールで鍛えられた若者たちが毎年、NFLに入団してきます。これでおわかりのように、NFL にとっての二軍、選手育成システムは、まさにカレッジにあるというわけです。
●NCAAとNFLの良好な関係はお墨付き
それもあって NFL ではカレッジとの関係性を重要視しています。顕著な例はドラフトの制限で、ドラフトで指名されるためには最低3年間、大学に在籍しなければなりません(ちなみにバスケットボールの NBA では最低2年)。いわゆる“3 year draft rule”です。
2004年には、オハイオ州立大学の有力選手だったRBモーリス・クラレットが、“3 year draft rule”が独占禁止法違反に該当するとして、NFL を相手に裁判を起こしたことがあります。クラレットは裁判に勝って、2年生修了時にプロ入りしようともくろんでいたのです。
この裁判では一審でこそクラレットが勝ったものの、続く控訴審では2回続けて NFL が勝訴。連邦裁判所はドラフトまで大学に3年間在籍するという制限の合理性を認め、“3 year draft rule”は晴れて裁判所のお墨付きを得たのです。
●ハイズマン男のニュートンなど新人が活躍中
ともあれ、カレッジフットボールで十分に鍛えられた選手には、ルーキーの初年度からトップ級の活躍を見せる選手が少なくありません。
有名なところでは、昨季王者のパッカーズが誇る若き守護神、OLB クレイ・マシューズが挙げられます。マシューズは有力校の USC (南カリフォルニア大学)に一般入学し、トレーニングを続けることで最終年にスターターを勝ち取った苦労人。そんな彼はプロ入りから2年連続でプロボウルに選出されており、今年もエース級の活躍を続けています。
また、その活躍が目立ちにくいラインマンにもすごい選手がいます。ウィスコンシン大学出身の LT ジョー・トーマスは、ブラウンズにドラ1(全体3位)で指名され、それ以来なんと4季連続でプロボウルに選出。ここ2年はオールプロの1stチームにも選ばれている、リーグでトップクラスのラインマンです。
そして今年のドラフトでは前述の QB ポンダー(全体12位)をはじめ、4人の QB が1巡で指名されました。
いの一番に指名されたパンサーズの QB キャム・ニュートンは、昨季のハイズマン賞(全米最優秀選手)受賞者。彼は開幕戦から全7試合で先発を務め、リーグ4位の 2103 ヤードを荒稼ぎしています。最初の2試合ではいずれも 400 ヤード超をマークし、これはルーキーとしてリーグ史上初めてとなります。
また、全体10位の QB ブレイン・ギャバート(ジャガーズ)はここ5試合で先発しており、成績こそ振るわないものの、着実に経験を積んでいます。全体8位の QB ジェイク・ロッカーは唯一、先発を経験していませんが、2番手 QB としてチームに帯同しています。
これが野球( MLB )だと、たとえドラフト1位指名選手でも、初年度から活躍できる例はマレです。かつてヤクルト・スワローズにも在籍したボブ・ホーナーは、マイナーを経ずして MLB でプレーした数少ない選手として知られていますが、その実績が Wikipedia で「珍しい例」として紹介されるほど、稀有なケースなんです。
実際のところ、カレッジベースボールのレベルは(あくまでフットボールとの比較ですが)、それほど高くありません。個々の選手の力量は高いのですが、全体的に大ざっぱという印象があります。テレビ中継も少なく、スポーツコンテンツとしても人気が高いとは言えないのが実情です。
ともあれ、ルーキーにも活躍のチャンスがあるのが NFL の魅力。2年前にはジェッツの QB マーク・サンチェスがルーキーながら AFC 決勝まで進出しましたし、2005年シーズンにスーパーボウルを制覇したスティーラーズの QB ベン・ロスリスバーガーは、プロ入り2年目で栄冠を手にしました。
今期も、ニュートンやポンダーを筆頭に、活躍を見せるルーキーは少なくありません。来年には彼らの姿をスーパーボウルで見る可能性もじゅうぶんにありそうです。
●今週の余談
QB クリスチャン・ポンダーが活躍するミネソタ・ヴァイキングスは、金髪に三つ編みの海賊(ヴァイキング)というロゴマークが印象的です。
でも、海から遠く離れたミネソタ州のチームが、なぜ海賊(ヴァイキング)を名乗っているのでしょうか?
その理由はミネソタ州の人口構成にあります。同州民の祖先(エスニシティー。米国では国勢調査で自分の祖先を申告します)は、ドイツ系が 37.9 パーセントで最多ですが、2位には 32.1 パーセントでスカンジナビア系が続きます。この割合は全米50州のなかでもノースダコタ州の 36.1 パーセントに続く2番目で、人数では全米最多の158万人となります。
それゆえミネソタ州は、スカンジナビア文化が全米でもっとも色濃い州とされており、北欧のシンボルでもあるヴァイキングをロゴに採用しているというわけです。
ミネソタ州を特徴づけるもうひとつのポイントは、湖の多さです。同州のニックネームは「Land of 10,000 Lake」(湖が1万ヵ所ある土地)で、実際、そこら中に湖がある印象です。そもそも「ミネソタ」という地名自体、ネイティブ・アメリカンのダコタ族の言葉で「空色の水」という意味。すなわち湖に空が映っている様子を表わしています。
それゆえ、ミネソタ州で生まれた NBA チームの名前は「レイカーズ」(湖の人々)でした。1947年創立のレイカーズは、財政難を理由に1960年にはロサンゼルスに移転しましたが、湖にちなんだチーム名は砂漠の街ロサンゼルスでも、そのまま使われています。
■筆者 カゲ■
週アスの芸能デスクかつ NFL 担当。日テレ水曜深夜の NFL 中継でフットボールにハマり、1996年シーズンから現地観戦を開始。これまでレギュラーシーズンはファンとして 15 試合、取材では3試合を観戦。スーパーボウルは第40回大会から6回連続で取材している。好きなチームはグリーンベイ・パッカーズ。QBアーロン・ロジャーズが初めて公式戦に出場した瞬間をこの目で見たのがジマン。なお週刊アスキーは、専門誌を除く日本の雑誌メディアでは唯一、スーパーボウルを現地取材しています。
(了)
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