NFL連載3回目は、リーグ唯一の全勝をキープするパッカーズのチーム成績に注目しましょう。オフェンスのスタッツとディフェンスのスタッツからは、おもしろい現象が見えてきます。
●NFL第6週トピックス●
パッカーズが46年ぶりの開幕6連勝!
昨季王者のパッカーズは10月16日、開幕4連敗のラムズをホームに迎えます。バイウィーク明けのラムズは選手の健康状態こそ上々でしたが、オフェンスに決め手を欠き、結局はパッカーズが 24-3 と3TD差をつけて快勝。同地区ライバルのライオンズが負けたため、リーグ唯一の全勝チームとなりました。
さてこのパッカーズ、昨季の優勝メンバーから抜けた選手はDEカレン・ジェンキンスやILBニック・バーネットなど一部に過ぎず、ほぼ同じ陣容を維持できています。これはチームの一貫性保持に寄与しており、チームのケミストリーはかなり良好な状態です。
●ディフェンスを寄せ付けない必殺のパスとは
実際、QBアーロン・ロジャーズ(スーパーボウルMVP)が率いるオフェンス陣は、昨季のレシーバー陣がズラリと残っており、タイミングの難しいパスもズバズバと通しています。今季リーグで注目されている「バックショルダーパス」も破壊力十分で、マンカバーをすり抜けきわどいパスが気持ちよく決まっています。
この「バックショルダーパス」とは、レシーバーの背中に向けて投げるパスのこと。レシーバーがタイミングを合わせて振り向くと、そこにドンピシャのパスが来ているというプレーです。マンカバーのDBがレシーバーの真横についていても、バックショルダーパスには手が届かないので、インターセプトの心配がぐんと少なくなります。
かと言ってDBがレシーバーの背後につこうものなら、その気配を察知したQBは少しオーバースロー気味のパスを投げます。そうすれば追走する形のDBはボールに飛びつくことができません。タイミングとコントロールさえ合っていれば、「バックショルダーパス」はカバー不能と言える強力な武器になります。
ただ、完璧な「バックショルダーパス」を投げるには、正確なコントロールと十分な球速、そしてQBとレシーバーにおけるあうんの呼吸が必要です。タイミングを間違えばボールをキャッチすることができませんし、コントロールが横にずれれば、高さ的に絶好の浮き球となるため、簡単にインターセプトされてしまいます。
それがパッカーズでは、完成度ではすでに前任者のファーヴを上回ったと評されるエースQBのアーロン・ロジャーズが完璧なパスを投げ、ロジャーズとの息がぴったり合ったレシーバー陣、そしてTE陣がドンピシャのタイミングでパスに振り向きます。
●好調なオフェンスに比べてディフェンスの成績は?
おかげでロジャーズは開幕6戦すべてにおいて、QBレーティング 110 以上をマーク。これはNFL史上初めての快挙です。さらにTDパス17本、およびシーズン通算のQBレーティング 122.5 は、いずれも2位のトム・ブレイディ(ペイトリオッツ)を引き離してのリーグトップ。パス成功率でもリーグ唯一の70パーセント台をキープし、パッカーズのパスオフェンスは留まる勢いを知りません。
いっぽうで、6連勝中のディフェンスはどうでしょうか? こちらでは、実に不思議な数字を見せています。
守備力を測るもっともわかりやすい指標は2つ。ひとつは喪失ヤードで、もうひとつは失点です。
この喪失ヤードでパッカーズはなんと、リーグ23位の平均383.7ヤードを与えています。リーグトップのスティーラーズは平均 270.5 ヤードですから、なんと 100 ヤード以上も多くのヤードを与えてしまっているのです。
いっぽうで失点を見ると、こちらは平均19失点で、リーグ7位タイと踏ん張っています。19失点なら、オフェンスはTDを3本(計21点)取れば勝てる計算ですから、かなり優秀な数字と言えましょう。
このように、相手にヤードを与えても失点は許さない。こういったディフェンスのことを英語では「 Bend, but not break 」、すなわち「曲がるけど、折れない」と呼びならわします。
フットボールはよく陣取りゲームにたとえられますが、相手に何百ヤード進まれようと、得点を与えなければ負けることはありません。たとえ曲がることがあっても、折れさえしなければ、試合には勝てるということなのです。
●先行逃げ切りではヤーデージを犠牲に
実のところ、パッカーズの喪失ヤードが多いことには理由があります。それは、ほとんどの試合を先行逃げ切りで勝っていることです。最初にリードを奪っておけば、ディフェンスのテーマは失点をいかに少なくするかにかかってきます。
フットボールは陣取りゲームであるのと同時に、時計との勝負も重要な要素です。残り時間が少なくなればなるほど、追いかける側は短時間で得点を挙げなければなりません。逆に言うとリードしている側は、たとえ相手に点を与えるにしても、時間を使わせれば勝利が近づくのです。
得点差が小さいときに怖いのは、ロングパスなどのビッグプレーです。第5週のペイトリオッツ対ドルフィンズでは、14点差の第4Qにペイトリオッツが 99 ヤードのタッチダウンパスを決めて勝利を確実にしました。このプレーの所要時間はわずか14秒。つまり、28 秒あれば 14 点差だって簡単に追いつけることでもあります。
それゆえリードする側のディフェンスは相手の短いパスやランは捨て、長い一発だけを警戒するような守備を行ないます。相手チームに何回も何回もプレーを繰り返させて時間を浪費させ、自陣に迫られても FG に抑えることができれば、3点と引き換えに何分もの時間を消費することができるわけです。
これぞ、今季のパッカーズ守備陣が、喪失ヤードを献上する代わりに失点を抑えている証拠です。この究極の例が先日のラムズ戦。この試合ではラムズに 424 ヤードも与えておきながら、失点はなんと FG 1本の3点だけ。
しかもこういった試合ではインターセプトやファンブルリカバーといったターンオーバーが多いものですが、今回の対戦ではインターセプト1回のみでした。このインターセプトでスタッツ上は 80 ヤード得したことになりますが、それを差し引いても 344 ヤードは進まれたわけで、なぜ3点に抑えられたのか、実に不思議な計算です。
ちなみに種明かしをすると、ラムズは4thダウンギャンブルを4回トライして、そのうち1回しか成功していません。これらのギャンブルで無駄にしてしまったドライブは、それぞれ42ヤード、22ヤード、17 ヤードとなり、合計で 81 ヤードを損しています。
さらにゲーム序盤の FG 失敗で 51 ヤードを損しており、この合計で 132 ヤードを無駄にしました。先ほどの 344 ヤードから差し引けば、ラムズは実質 212 ヤードしか進めなかった計算です。これではたしかに、3点止まりでもおかしくはないでしょう。
●スーパーボウルでもターンオーバーが分かれ目に
昨季の第45回スーパーボウルでも、スタッツは試合結果とは逆の数字を見せていました。勝者パッカーズのオフェンスが 338 ヤード獲得だったのに対し、敗者スティーラーズのオフェンスは 387 ヤードを獲得。ファーストダウンでも19回対15回と、スティーラーズが上回っています。
この両者の運命を分けたのは、ターンオーバーでした。スティーラーズはインターセプトTDを喰らった一本を含めて2本のインターセプトと1本のファンブルロストを献上。いっぽうでパッカーズはターンオーバーを与えることなく、ボールを保持し続けることができたのです。
いずれにせよ、チームが勝利するために必要なのは、得点を重ねるオフェンスと失点を防ぐディフェンス。このうち、ディフェンスが折れない(not break)限りは、チームが負けることはありません。引き分けがほとんどないNFL(1年に1回あるかどうか)ゆえ、踏ん張るディフェンスは勝利への近道です。パッカーズのディフェンスがいつまで折れずに持ちこたえ続けるのか、その答えは2月5日の第46回スーパーボウルで見つけられるかもしれません。
●今週の余談
パッカーズが開幕6連勝を決めた試合をテレビでご覧になった方は、いつもと違う色のユニフォームを着ていたことに気付いたはずです。
このユニフォームは「スローバック・ジャージ」と呼ばれ、過去のユニフォームを再現したものになります。NFLではチーム創設以来、同じユニフォームを着続けているチームは新興チームのテキサンズなどごく一部で、ほとんどのチームは過去に、今とはまったく異なるデザインのユニフォームを使用していたことがあります。
パッカーズのユニフォームは現在「グリーン&ゴールド」と呼ばれる色を採用。グリーンはもちろんグリーンベイから来ており、ゴールド(実際にはイエロー)は、ウィスコンシン州の名産であるチーズをイメージしていると言われています。
今回パッカーズが着用したのは 1929 年当時のユニフォーム。茶色のヘルメットに濃紺のジャージという組み合わせは、当時としては一般的なものでした。ひとつ注目したいのは、サイドラインで選手やコーチが被っていたキャップで、そこには「ACME PACKERS」という文字が書かれていました。
これは、パッカーズが設立当初、缶詰業者をスポンサーとしており、その会社名が ACME Packing Company だったことに由来しています。同社は数年で倒産してしまいましたが、PACKERS(缶詰業者)というニックネームは現在でも受け継がれているのです。
■筆者 カゲ■
週アスの芸能デスクかつ NFL 担当。日テレ水曜深夜の NFL 中継でフットボールにハマり、1996年シーズンから現地観戦を開始。これまでレギュラーシーズンはファンとして 15 試合、取材では3試合を観戦。スーパーボウルは第40回大会から6回連続で取材している。好きなチームはグリーンベイ・パッカーズ。QBアーロン・ロジャーズが初めて公式戦に出場した瞬間をこの目で見たのがジマン。なお週刊アスキーは、専門誌を除く日本の雑誌メディアでは唯一、スーパーボウルを現地取材しています。
(了)
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