スティーブ・ジョブズの死去。アップルに関わりがあった人物はどうとらえているのだろうか。
元アップル・ジャパンで、現Evernote Japan会長、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』や『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』など、ジョブズ本の解説も務める外村仁氏に、電話で取材を行なった。お住まいがあるシリコンバレーの様子や、今の素直な気持ちをうかがった。
── ジョブズの死去について、シリコンバレーの人々はどう受け止めているんですか?
外村 普通の企業の社長が亡くなったというのではなく、まるで大統領や国王が逝去したレベルの受け取られ方です。ジョブズが贔屓にしていた懐石料理店の『桂月』(関連サイト)が今週で店を閉じるというので、今日(日本時間の6日)、たまたま無理に予約を入れていて、クパティーノ方面に車を走らせていたんです。そうしたら、いきなり電話がガンガン鳴りだして驚いた。何か重大なことが起こったのではとカーラジオをつけたら、全局、スティーブのニュースを流していたんです。それも3分ぐらいの間隔で、曲や交通情報の合間に読み上げていました。
外村 カリフォルニアは今日、朝から変な雰囲気だったんです。昨日今日とアップルの本社があるクパティーノの工場で10人近くが死傷する銃の乱射事件があって、ピリピリしていた。まだ犯人が捕まっていなかったので、あの近所の小学校は全部休校になって、非常線がはられて封鎖されていたというくらいです。
外村 ちなみにその事件が起こったセメント工場は、アップルが今作ってる新社屋“マザーシップ”のとなりにあるんです。そして、ジョブズが最後に公でプレゼンをしたのが、この新社屋の具体的な建造計画を発表したときでした。
── 外村さんはクパティーノの本社に献花に行かれたと聞きました。
外村 行きました。午前中は自宅で仕事をしていて、どうしても行きたかったのでその懐石料理店に行ったんですが、複雑な気持ちでした。EvernoteのCEO、フィル・リービンもその場にいて、一緒にアップル本社に献花しようという話になって車を走らせました。
外村 夜の11時にも関わらず、100人以上が入れ替わり立ち替わり集まって、ろうそくや花を置いたりしていました。有志の手によってもうけられた献花台が2ヵ所はありましたね。名残惜しそうに写真を撮る人もいました。私は夜遅くて花を買えなかったので、たまたまあった自分の本(『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』)を献本してきました。キャンパスの前に掲げられていた半旗があんなに悲しいとは。国中が悲しがってる感じです。明日、朝に行くともっと大変なことになってるはずです。
── 今、どういったお気持ちですか?
外村 病気だったり、アップル(CEO)をリタイヤしたりで覚悟はしていたけど、いざそのときとなると何ともいえず悲しい。Evernoteのフィルもすごく落ち込んでいて、「人の死でこんなに感情的になるとは思わなかった」と言ってた。まさしく私も一緒です。
外村 この10年ほどは、世の中に閉塞感がただよっていましたよね。世界も日本も経済がもうまくいかなくて、「これもダメ、あれもダメ」という中、唯一わくわくさせてくれたり、変化を感じさせてくれたのがアップルでした。
↑手前側の漢字は中国語の“ジョブズ”のつづり“乔布斯”の最初の1文字を描いたもの。 |
外村 普通、不況になるとポジティブなことは言いにくくなるんです。企業も「とりあえずコストダウンしろ」といった感じで小さく収まりがちですが、その中において自分が直感で感じとったことをどこまでも追求しろと言ってのけて、さらにそれを実行した。素晴らしいプロダクトを出し続けて、混迷する世の中に道しるべを示していた訳です。
外村 アップルもコンピューターだけを扱っていたときは、「自分には関係ない」という人も多かったんですけど、その後、音楽プレーヤーや電話など、より生活に密着したものを出して、業界を“再定義”してきた。彼と彼のチームが生み出すものと、それが与えてくれる新しいライフスタイルにより、多くの人が感激し、ものの見方や考え方を変えてきた。彼の言い方だと「宇宙に衝撃を与える」ですね。そういう企業は今はあまりない。そういった意味では、道しるべを喪失したという悲しみが多くの人の中にあると思います。
外村 ただ、こんな話になると過去の業績やエピソードに終始しがちだけど、我々はここまで停滞した会社と業界をひっくり返してきた彼の態度や方向性を出発点にして、より加速していかなければならない。ジョブズが作っていったものを滑走路にして、次の若い世代の子供たちに引き継いでいかなければならないでしょう。
外村 『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』の帯に書いてある、「ジョブズだったらどうするか」というのが重要なんです。みんながジョブズになれるわけじゃないけれど、彼が好きだというんだったら、自分もその気持ちになってどうするかと考えるべきです。仕事でも停滞している空気をぶち破って前に進んで、世の中にプラスの影響を与えなければならない。イノベーションをやめてはならない。それが彼に対する一番の弔いであり感謝だと思います。
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