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ジョブズはパーソナルコンピュータそのものだ!

2011年10月06日 20時00分更新

ジョブズはパーソナルコンピュータそのものだ!

 私が、スティーブ・ジョブズやアップルについて、いちばん象徴的だと思っていることは、ロジャー・L・サイモンの小説『カリフォルニア・ロール』(“California Roll”、Roger L. Simon) の中に出てくる。アップルをモデルにしたコンピュータメーカーが出てきて、米西海岸やアキハバラなどを舞台にストーリーは展開するのだが、その中に以下のようなくだりがある。

 「チューリップⅠとIIはデスクの上にのる小粋な代物で、たとえ、誰もそいつの操作方法を知らなくて、書斎に箱ごと放っておかれたり、ほとんど使われなくても、アメリカに革命をもたらしたのだ」(木村二郎訳,早川書房刊)

 この中に出てくる「チューリップ」というのが、アップルを最初の成功に導いた「Apple II」という8ビットマシンのことである。この小説が書かれたのは、1985年で、初代Macintosh(現在のMacの先祖にあたるマシン)がデビューした翌年にあたる。この中の「書斎に箱ごと放っておかれても(!)アメリカに革命をもたらした」というくだりが、私は猛烈に好きなのだ。

 そして、これほどパーソナルコンピュータの本質的な価値を言い当てているものはないといまでも信じている。コンピュータというのは“動かしてナンボ”のものだとほとんどの人は思うだろう。しかし、本当は違うのだ。「この機械で自分も何かできる」という“勇気”を持つことができることが、パーソナルコンピュータの最大の価値なのである。

 世の中のしくみの中に組み込まれ、誰もが没個性的になっていき、ともすれば自分の限界を感じてしまう。そういう日常の中で、コンピュータを1台買って、プログラムを書く、何かの計算やクリエイティブなことをする。それによって、「自分もスターになれる!」そう思えて表情が変わり、脳みそが活性化して生活も考えも前向きになれる。

 それが、マイクロエレクトロニクスという無血革命の革命たるゆえんなのである。

 これによって、人生を変えられた人は本当に多い。私が、最初に買ったパソコンは「Apple IIc」で、1956年生まれたというマイコン第一世代(コンピュータ業界は世界的に私の前後1~2年生まれの人が実に多いのだ=ジョブズもだが)としては、いささか遅い部類に入る。それでも、あの1台を買わなければ、私はいまここにいないということになる。

 いまあらためて眺めてみると、スティーブ・ジョブズが世の中に送り出してきたマシンたちというのは、どれもみんな似ていることに気付く。それぞれのマシンには、いろいろな背景や開発の紆余曲折もあるが、初代Macintoshにしろ、NeXTにしろ、iMacにしろ、iPhoneにしろ、iPadにしろ。どれもすべて、「個人に向き合っている」ということだ。

 注意深くアップルの歴史からジョブズが離れていた時代を取り外してみると、どれも素晴らしいコンピューティングを、その前にいるたった1人のユーザーに届けようとしている。

 昨晩、私は《「iPhone 4S」と「Kindle Fire」、どっちがスゴい?》(関連サイト)という原稿を書いていた。その中で、「iOSはハードウェアから独立しないのだろうか?」ということを書いた。ハードウェア独立とは、ソフトウェアが、もともと動いていた機械以外のコンピュータでも動くような状況をいう。

ジョブズはパーソナルコンピュータそのものだ!

 私は、ビジネスシーンで活用したいディスプレイを組み込んだテーブルやデジタルサイネージや電子黒板で、iOSを動かすことをアップルは考えないのだろうか? と書いた。しかし、これは原稿を書いてるときになかば気付いていたのだが、まったく的外れな意見なのだ。なにしろ、ジョブズは、たった1人の人間のためのコンピュータしか作らないのだから。

 1カ月ほど前には、私は、《スティーブ・ジョブズはどこにでもいる》(関連サイト)という原稿を書いた。私にとって、スティーブ・ジョブズは、確実に目に見える製品を届けてくる素晴らしきコンピュータ業界の貴重な登場人物の1人なのだ。だから、ニュースなどで「カリスマ」とか「天才」とか「神」などという短い言葉でくくられるのがいやだったのだ。

ジョブズはパーソナルコンピュータそのものだ!

 そこでも書いたが、ジョブズは魔法使いでも、奇跡を起こす神の申し子でも、レオナルド・ダ・ヴィンチのような天才発明家でもない。これを読んでいるほとんどの人と同じように、さまざまな課題に取り組みながら仕事をしてきたのだといってよい。好きなことを見つけて、そこに情熱を注ぎ込むことができれば、やり方によって誰でもなれる可能性があるのが、ジョブズという存在なのだ。そのことが素晴らしいし、彼がわたしたちを心の底辺からワクワクさせてくれる本当の理由なのだ。

 つまり、最初に述べたパーソナルコンピュータと同じスペクトルの光を放っているのが、スティーブ・ジョブズという存在だということだ。

 ご本人の冥福を祈り、これを追悼の言葉とさせていただきます。

 

 

 

●関連サイト
【追悼】「スティーブ・ジョブズ」の軌跡(ASCII.jp特集)

CEO スティーブ・ジョブズ - MacPeople Web
Mac People12月号増刊 CEOスティーブ・ジョブズ

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