週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

おそらくこの時間、多くの同業者が同じ人物について考えていることだろう

2011年10月06日 12時00分更新

スティーブ・ジョブズ カルトクイズ

 おそらくこの時間、多くの同業者が同じ人物について考えていることだろう。

 アップル創業者の一人であり、人生最後の14年を賭して同社を立て直し、世界でもっとも価値の高い企業のひとつに育て上げたスティーブ・ジョブズ氏が永眠した。享年56歳。過去の様々なエピソード、97年にアップルが余命2週間という危機に瀕した状況からの復活劇。様々な背景が、今後数多く明らかになっていくだろう。

 私はその中で、ジョブズ氏最後の”業界への献身”について書きたい。

スティーブ・ジョブズ カルトクイズ

 私が本格的にテクノロジ関連のジャーナリストとして活動を始めた頃、ジョブズ氏はすでにアップルを追われた後だった。ご存知の通り、NeXTという新しいコンピュータメーカーを立ち上げた後だった。この頃のジョブズ氏は日本、特にキヤノンとの縁が深く、実際に米国でジョブズ氏の仕事をサポートした人物や、日本向けにNeXTのローカライズなどを行っていた知人もいる。

 その後、NeXTはハードウェア事業をキヤノンに売却することで急場を凌ぎ、ソフトウェア企業に転身する。先進的だったオペレーティングシステムのNeXTstep(後にNEXTSTEP)と斬新なオブジェクト指向の開発環境は、その後、アップルに買い取られ、現在のMacOS Xとなっていることは、アップルファンの方々ならもちろん、よく知った話のはずだ。

 今月12日からダウンロード開始されるiOS5にしても、そのカーネル部分やシステムの基本的な作り、開発環境などは、1989年に出荷が開始されたNeXT cubeに搭載されていた基本ソフトが源流だと考えると、なかなか感慨深いものがある。

スティーブ・ジョブズ iOS5発表

 実はNEXTSTEPがインテルプロセッサ搭載パソコンで動作するようになった時、共著でその紹介をする本を書いたことがある。そのころの自分は青臭かったが、NEXTSTEP自身もまた、今から思えば”青臭い”基本ソフトだったと思う。理想を追いすぎて、実現が難しく、目の前にゴールが見えそうで、なかなか完成しない。分別のある大人のビジネスマンからすれば、NeXTのやっていたビジネスは”愚か”だったのかもしれない。

 しかし、ジョブズが目指した理想、精緻で美しいユーザーインターフェイスを持ち、何度でもプログラムを再利用できる、ソフトウェア開発者にとってのパラダイスをイメージした開発環境の構築は、今世紀になってやっと花開いた。愚かに見えた彼の理想主義、完璧主義が、今のアップルの礎になっている。

 ジョブズ氏はスタンフォード大学卒業式の中で、“Stay Hungry,Stay Foolish(ハングリーであれ、そして愚かであれ)" との言葉を引用し、自分自身そうやって生き続け、そしてこれからもそのようにあり続けたいと話した。この講演は今後も語り継がれることだろう。

 さて、その後のアップルの奇跡的な業績回復と成長において、ジョブズ氏はどんな役割を果たしたのだろうか。傍観者である私の立場から見た時、どこかのタイミング(おそらくアップルの業績が安定し始めたころ)で会社を建て直すこと、ライバルを打ち倒すことなどから、”より良い製品を生み出す”という目標に向けて、一切の無駄の配して一心不乱に最短距離で走り続けるようになったように見えた。

スティーブ・ジョブズ カルトクイズ:Q.2

 たとえば、カンファレンスや展示会の基調講演など、節目になる時以外、ほとんど外に向けてのメッセージは出さず、記者からの取材も最小限しか受けない。マスコミの相手をしても、製品が良くなることはないからだ。また、近年のアップルは特定の人物が、アップルを代表して製品に対する意見を述べることを禁ずるようになった。

 誰がどのように製品を作っているか。誰がどんな能力を持ち、何をしたのか。そのプロセスや技術、経営手法などにこだわるのではなく、より良い製品を提供するために、自分たちは何ができるのか。目標に対して真正面から向き合い、その手段として経営やマーケティング、プレゼンテーションを駆使した。

スティーブ・ジョブズ カルトクイズ

 ”手段は目的ではない”とは、誰もが知る格言ではあるが、晩年のジョブズほどに徹底することはむずかしい。自己顕示を望むわけでもなく、金銭的成功を望むわけでなく、献身的により良い製品、より良いコンピューティング環境をもたらそうとした。その成果として生まれた製品を振り返ると、尊敬の念しか思い浮かばない。物づくりする上でのタブーや常識外れをいとわず、ユーザーにとって、目的を達成するためのの最短距離を意識して、あらゆる製品が作られている。

 そのカリスマ性ばかりが目立つものの、長期的な目標、計画をしっかりと持ち、短期的な業績や周囲からのノイズに影響されない企業運営の仕組みを作り上げた経営者としての手腕は改めて評価されるべきだろう。

スティーブ・ジョブズ カルトクイズ

 “Stay Hungry,Stay Foolish”。わたし自身、そうありたいと思うとともに、スティーブ・ジョブズという人物と同じ時代に生き、彼の生み出した製品やサービスと共に人生を送れることを誇りに思いたい。

 スティーブ・ジョブズさん、ありがとうございました。

 

 

 

●関連サイト
【追悼】「スティーブ・ジョブズ」の軌跡(ASCII.jp特集)

CEO スティーブ・ジョブズ - MacPeople Web
Mac People12月号増刊 CEOスティーブ・ジョブズ

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります