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CES2011: ARM対応版次期Windowsはどうなる? MS幹部インタビュー

2011年01月12日 11時01分更新

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 かつて、日本マイクロソフトの社長を務めたDarren Huston(ダレン・ヒューストン)氏は、現在マイクロソフト本社のコーポレート副社長でコンシューマー&オンライン部門を担当している。同氏にグループインタビューする機会を得たので、その模様をお届けする。

ダレン・ヒューストン氏
2005年7月から2008年3月まで、マイクロソフト日本法人の社長を務める。現職は米Microsoftにて、コンシューマー&オンライン担当の副社長。

  私は、いまでも6ヵ月に1回は日本にいきます。家族は、日本にいたことを懐かしがっているようですが。日本法人の社長を務めたので、日本やアジアの状況にはいまでも興味を持っています。日本は今経済的な挑戦を行っている最中で、良くなっているのではないかと思います。
 ただ、中国の台頭があり、中国の人口はまだ増え続けているのに対して、日本はそうではありません。いまでも、日本のメーカーの方と会うことがあり、今回もCESで多くの日本の方とお会いしました。

———ARM版のWindowsは、“System On Chip(SoC)をサポート”ということですが、普通のWindowsのように使えるものになり、組み込み用に限定されるということはないのでしょうか?

 はい、ARM版のWindowsで普通のPCを作ることができ、用途は組み込みに限定されません。

―――なぜARM版Windowsを開発するのでしょうか?

 それは、ちょっと長い話しになります。ちょっとマイクロソフトの歴史から話すことにしましょう。元々マイクロソフトはコンシューマーカンパニーでした。その後エンタープライズ分野もサポートする企業になりました。

 かつては、エンタープライズ分野はアグレッシブで革新的なのに対して、コンシューマー分野は保守的なところがありました。エンタープライズ分野ではテクノロジーをどんどん引っ張り込むのに対して、コンシューマー分野では、メーカーなどがテクノロジーを広める努力をする必要があったのです。

 ですが、現在のコンシューマー市場にはデジタルカメラやデジタルテレビなどコンピュータと親和性のある多くのテクノロジーが入り込みました。いまでは、私の68歳になる母も「コンピューターのアドレスを、携帯電話に移すにはどうしたらいいの?」、「写真をインターネットに上げるにはどうしたらいいの?」といった質問をするようになりました。つまり、世の中は「デジタル化」されたのです。そしてこれは大きな変動になりました。

 かつては、エンタープライズ向けのPCのほうが高性能だったのですが、いまでは、個人が家庭で所有しているPCのほうが高い性能であることは少なくありません。技術の牽引役は、エンタープライズ向けからコンシューマー分野に移ったといえるでしょう。
 それでマイクロソフトは、コンシューマー分野に注力しはじめ、時代の主力は、エンタープライズITカンパニーからコンシューマーITカンパニーへと変わっていき、マイクロソフトもそういう選択をしました。

 もう1つの動きは、クラウドです。クラウドはインターネットそのものでなく、多くのデバイスを束ねる“布”のようなものです。たとえば、私の携帯電話(WindowsPhone 7のスマートフォン)は、Xbox Liveと連携することができるので、映画のアバターをXboxで途中まで見たあと、続きをWindowsPhone 7で見ることができます。これは、クラウドがあるからこそできる“シナリオ”です。
 世の中には、多数のXbox、PCがありますが、クラウドは、多数のデバイスでの経験をパーソナライズしてそれぞれの必要に応じた対応をすることができるのです。

 最後の要素はとても重要です。それは“増大する性能”です。たとえば、IntelのAtomは、小さなマザーボードの上にPCのすべてを搭載することができます。GPUやCPUがすべてチップの中に入り、指先に乗るほどしかありません。
 ギガワールドつまり、ギガヘルツのCPUにギガバイトのメモリ、そういう世界がコンシューマーでも利用可能になりました。多くの“知的”な機器には、ARMが使われています。ARMもまた性能を増大させたのです。
 こうした世界をサポートするのがWindowsの役目です。我々は、コンシューマーにフォーカスし、クラウドを使って、“知的”デバイスをWindowsでサポートします。もはや、機能の低い“ダムデバイス”はありえません。多くの機器がクラウドに接続し、巨大な“頭脳”を形作ることになるでしょう。

―――ARM版Windowsはどのように販売されるのでしょう?

 そのあたりについては、まだなにも発表していないのでお答えすることはできません。

―――アプリケーションをオンラインで流通させる「アプリケーションマーケット」についてはどうでしょうか? Windows Phone 7では、Windows MarketPlaceを開始していますし、AppleもMacintosh用のAppStoreを開始しました。

 それは、大変な仕事です。現時点では、何も発表していないので、私からお話することはできません。ですが、Windowsのアプリケーションは膨大で、これにすべて対応するのは困難な仕事になるでしょう。iPhoneのAppStoreは、モバイル専用のコンシューマー向けのソフトウェアだけです。
 ですので比較的簡単に作ることができます。また、Macintoshも同様にそれほど難しいものではないでしょう。しかし、Windowsのアプリケーションは、広い分野にまたがり大量の、それこそ世界最大の規模になっています。その大量のソフトウェアすべてを1ヵ所のマーケットプレースで扱うのはとても難しいと思います。

―――ARM版のWindowsを作ることでインテルのとの関係は悪くなってしまったのではないですか?

 いえ、Intelとマイクロソフトの“Wintel”のアライアンスはいまだに強固なものです。ARM版のWindowsは、インテルのすべての製品と競合するわけではありません。
 それに、コンシューマー市場は広大で世界で最も大きな市場であり、インテルでもすべてをカバーできるわけではありません。市場には、ARMを使ったさまざまなデバイスがあり、そこにARM版とx86版のWindowsが入っていくことになります。

―――より多くのデバイスに対応するために、“小さなウィンドウズ”を作るという方向もあったと思いますが。

 既にWindowsは、Vistaと7で十分に小さくすることができています。Windows7の開発時に、最低限の動作に必要な“mini Windows”を定義し、それに必要なモジュールやプログラムを追加するという構造にしました。なので、ネットブック用のWindows7を作ることができたのです。
 これからは、クラウドを使うことができるので、Windowsを大きくする必要はありません。日本語変換の辞書などもクラウド側に置くということも考えられ、さらに小さくすることもできる可能性があります。なので、別のバージョンのWindowsを作る必要ないと考えています。

―――ARM版のWindowsは、ARMのバイナリーコードしか実行できません。ソフトウェアの開発環境はどうでしょうか?

 それについてはまだ何も決まっていません。ですが、WindowsPhone 7の開発環境がVisual Studioでもできるし、Express版でもできます。マイクロソフトは、アプリケーション開発に必要なツールはすべてマイクロソフトから提供しています。なのでARM版だけが違うということはないと思います。

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