次世代の食を見据えたイノベーションをサポートする
大谷:日清食品グループのIT部門としては、今後どのような活動を立ち上げていくのでしょうか?
成田:いまの中期計画計画が来年度で終了するのですが、日清食品グループは次を見据えてITの観点でも非常に先進的なことをやろうとしています。自分がそれをやれたら相当楽しいだろうなと思ったところも入社のきっかけとして大きいです。
喜多羅:次期の中期経営計画では、ネット企業と比較しても働きたくなるようなワークプレイスを作るほか、グローバルで事業をしっかり見られる経営ダッシュボードを打ち出してます。ダッシュボードを作るためには、もう一度基幹システムの横方向での標準化を進めなければならないし、そもそもグローバルのダッシュボードを実現できる企業は日本でもあまりないので、われわれもそこにチャレンジしていきます。
成田:日清食品グループはまだまだメール文化ですが、これをチャットに変えていきたいです。ネット企業はSlackを多用していて、メールと異なるスピード感をを実現しています。それだけではなく、さまざまなツールと連携して、システムにわざわざログインしなくても、チャットから業務処理が行なえるようになっています。勝手にデータが集まり、ユーザーに処理を求めてくるみたいな流れは作っていきたいと思います。
喜多羅:あとは情報セキュリティ。われわれはコンシューマーと直接接しているビジネスなので、さまざまなスレット(脅威)から情報を守っていかなければなりません。また、今後の新たなデジタル化の取り組みの中で、データをきちんと守っていかなければなりません。こうした中、流行言葉になりつつありますが、うちも「ゼロトラスト」に取り組んでいこうと考えています。
成田:日清食品グループは、「食品メーカーもテクノロジーを活用して、イノベーションをやっていかなければ、今後は会社として生き残っていけない」という危機感を経営陣が切実に感じています。
実際、日清食品グループは2019年を「デジタル元年」として、先端テクノロジーを活用した工場を「スマートファクトリー」として稼働し、AIやIoTを積極的に活用していこうとしています。事業の側面でもこうした新しいことを始め、先ほど喜多羅さんが話したとおり、コーポレートでも新しい取り組みをスタートさせています。ここらへんの一連のチャレンジが、私が日清食品グループに惹かれた理由でもあります。
喜多羅:私たちは継続的に食の安心・安全を届けていく必要があります。たとえば工場では、異物混入や商品事故のリスクを下げるために、できるだけ省人化して人が関与する作業を減らしていきたいと考えています。お客様の商品への期待値はどんどん上がっているので、コストを上げずにより安心安全な商品をご提供しなければなりません。加えて、昨今の採用難は工場も例外でなく、人手不足に対応するためにも省力化を進めています。このような状況で、新しい取り組みへ移行していくこと、テクノロジーを活用して課題を解決していくことが、会社にとっての大きなチャレンジだと思います。
大谷:確かに人口減少もありますし、グローバル化もありますし、食品メーカーは大きな岐路に立っているイメージです。
喜多羅:人口も減少していますし、食数自体も長い目で見たら減っていきます。若い人たちにはさまざまな選択肢があり、私たちもその中で勝ち残っていく必要性があります。昔は家に帰ったら、ラーメンがあって、それを自分で作って食べていたのですけど、今はコンビニに行けばなんでも食べられます。こういう時代では、今までにあるカテゴリを伸ばすだけではなく、食という概念自体から考え直さなければなりません。われわれはこれを概念として「Beyond Instant Foods」と言っています。
最近、1日に必要な栄養素の1/3量以上が1食で摂れる、「オールインパスタ」を発売しました。栄養素をそのまま配合してしまうと、長期保存で劣化したり、調理過程で流出したり、味がよくなかったりと、実は難しい。でも、オールインパスタは、われわれの独自技術を用いて、麺の中心に栄養素を閉じ込めることで、栄養摂取とおいしさを同時に実現しています。次世代の食を考えたとき、われわれはどうやってこうしたイノベーションをサポートしていくかが会社としてのミッションになると思っています。
喜多羅さんからは「ホワイトスペースを見つけてくれ」と言われている
大谷:次に成田さんになにをしてほしいかという期待を教えてください。
喜多羅:世の中で起こっている、いろいろな新しいこと、イノベーションを目利きして、社内に持ち込むということができていません。だから、社外にいろいろなネットワークをお持ちで、イノベーションを目利きできる成田さんには、まず事業の実態を見てもらい、その上でわれわれが考えつかなかったような新しいソリューションやアプローチを出してもらいたいと思います。
そういった意味では、成田さんにはまず事業を見てもらいながら、DXを1歩先、2歩先に進めるために、組織自体もいじってほしいし、他の組織も見てもらいたいと思っています。
大谷:そういった役割って、いわゆる生え抜きでは難しいんでしょうか?
喜多羅:中にいる人は、今までのプロセスが当たり前だと思ってしまう。だから、そもそも発想の第一歩が出てこないんです。僕は比較的アウトサイダーだし、成田さんにもむしろ外の人の視点で仕事してほしいと思います。これはうちの安藤徳隆COOからの依頼でもあり、先日も成田さんに「変わらないでください」と言っていました。
成田:安藤COOからは「今やっていることが、必ずしもいいことではない。ほかの会社のやっていることで、よいことがあれば、どんどん変えてくれ」と言われました。中期経営計画もありますし、喜多羅さんからは規定路線以外の「ホワイトスペース」を見つけてくれと言われてます。
大谷:確かに先ほど話していた中期経営計画って、今までの日清食品グループの既定路線からできた計画ですものね。
喜多羅:そうなんです。馬力がほしいのであれば、正直言って若手を入れてゴリゴリコードを書いてもらったほうがいい。でも、われわれは馬力ではなくて、視点がほしいんです。さまざまなパースペクティブが多元的に積層されて、新しいことにつながることを期待しています。
確かに肩書きとしては「次長」です。他の会社で本部長まで務めた方に次長と付ける失礼さは重々認識しているので、とにかく肩書きはあまり気にせず、「成田さん」というロールを作ってほしいと思っています。
大谷:成田さんはネット企業からの転職になるのですが、不安はないのでしょうか?
成田:不安はほぼないですね。逆に自分の知らないことばかりなので、いろいろ学べる期待の方が大きいです。喜多羅さんに期待されていること、日清食品グループに新しいことがもたらせなければ、私が入社する意味はないと思っています。
大谷:社内や現場のニーズはどうでしょうか?
喜多羅:社内も私が入った頃と今は全然違います。当時はITに対する期待値も違うし、システムは業務のニーズを満たすのが当たり前で、標準化なんて発想もありませんでした。当時は現場で仕様が決まって、最後にIT部門に問い合わせが来ます。でも、基幹システムを入れ替え、現場のニーズに細かく対応してきたことで、営業や生産などからも業務案件が出てくるようになりました。
結局、ビジネスアジェンダが明確で、現場ときちんとにぎれれば、どのようにやるかという手段に関しては、抵抗はないのかなと。うちで言えば、「原価を下げる」「欠品を減らす」「廃棄ロスを減らす」というビジネスアジェンダを満たすのであれば、ソリューションに対する抵抗はあまりないと思います。
大谷:では、喜多羅さんが入ってもう6年経ちますが、けっこう地盤にあたるものが変わってきたんですね。
ネット企業からエンプラへ 今後は逆のキャリアパスも
大谷:先ほど岩崎さんの話も出ましたが、成田さんが日清食品グループにジョインするということで、こうした新しいキャリアパスも増えてきそうですね。
喜多羅:もともとネット企業とエンプラ企業で大きな溝があって、IT部門同士の交流ってなかったんです。それを東急ハンズからメルカリに移った長谷川秀樹さんが打破してくれたのですが、今後はCIOやIT部門長だけではなく、さまざまな階層で交流が進めばいいなと思います。
成田:確かにネット企業とエンプラの溝ってあるんですが、今後は境界線が希薄になっていくと思います。エンプラもいずれはテクノロジー的にネット企業をフォローしていく立場になるし、逆にエンプラが普通にできているのに、セキュリティやガバナンスなどネット企業がこれから整備していかなくてはいけないことって、実はけっこういっぱいあります。だから、今後は両方の観点から交流が進んでいくのではないかと思います。
喜多羅:スピード感は確かに重要なのですが、やっぱり守りの部分も必要なのですよ。
成田:先ほどネット企業からエンプラへの「逆もある」という話をしましたが、成長過程にあるスタートアップにエンタープライズの人が来て、足場を固めるという話は増えていくと思います。
大谷:期待しております。ありがとうございました!
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