主体的、創造的に課題解決できる人材育成が課題
三重県立宇治山田商業高等学校
明治41年の創立以来、一貫して商業教育を推進してきた宇治山田商業高等学校。現在は商業科、情報処理科、国際科の3学科を有し、「文武両道」と「挨拶は山商の宝」をモットーとしており、陸上競技、サッカー、野球など、部活動を通してのスポーツも盛んだ。本年度から3年間、文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型)」の指定校として、持続可能な未来を創造できるグローバルな視点を持った地域社会のリーダー育成に取り組んでいる。
そんな宇治山田商業高等学校では、商業科マーケティングコース2年生36名が起業家教育プログラムに参加。その背景やプログラムに対する期待などを、同校の廣島朗校長と塩谷正雄教諭に伺った。
──まず、今回のプログラムに参加しようと思った背景からお聞かせください。
廣島校長 これまで参加していた文科省の「多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」という事業が終わり、平成29年からは、そこで得た知見をどんな形で継続できるか、なんとか生徒にいろいろな考え方や発想を求める授業を展開していけないかとやってきました。そこに、ちょうど同じような発想の事業があると伺って、手をあげたんです。
一方で、本校のもうひとつの課題というのが、文部科学省の事業で、地域と連携して取り組む活動、「グローカル型」リーダー(グローバルな視点を持った地域社会のリーダー)育成の指定校にもなっており、SDGsの視点で、課題解決力、論理的思考力、地域への貢献力、語学力という「地球市民力」と、企画力、調整力、実践力、突破力、創造力を養う「未来創造力の育成」という、全部で9つの力をつけて欲しいと、生徒たちには求めております。
起業家育成は、商業教育にも内在する要素である思います。特にチャレンジ精神や、積極性、主体性、課題解決力といったようなものが大事だと考えます。
うちの生徒は、まじめに丁寧に一生懸命勉強する力はあると思うんです。一方では、自ら課題を発見していったりという力は、まだ弱いと言いますか、全体でみれば一部分になっていて、それを全校生徒に引き上げていくというのが、この文科省事業の位置づけで、そういった意味では、今回のプログラムに参加する目的というのも、このような力を子供たちが身につけていけるようなプランであればと考えています。
──商業高校と起業家教育の相性はどうでしょうか?
廣島校長 工業、農業等はモノづくりのプロフェッショナル。製品としての品質管理の方が主です。商業高校は、人づくりといわれていて、その人づくりの延長上には経営理念づくりというのがベースにあります。新しい学習指導要領でも、マーケティング含めて、このような学習の中心に「ビジネス」というキーワードがあり、そういった意味では、「起業」というのも商業には外せないキーワードになるかなと思っています。
ただ、どうしても従来の就職中心の、ある意味、雇われに行くという思考の進路指導というのはあって、そこから脱却して、さらに起業して経営するという視点を持って就職する──そういう生徒を育てるという意味では、この起業家教育は非常に大事だと考えます。すなわち、もう一歩上の段階の企業人を、やはり出口としては求められると思います。また、そういった精神をもった子供たちを輩出していく際、グローバル化も含めて考えており、国際科だけじゃなく、商業科も情報処理科も全員英語資格の取得を目標に取り入れたりといったことも合わせてやっています。
──今回、プログラムを受けているのはマーケティングコースの生徒たちですが、様子はどうでしょう?
塩谷教諭 マーケティングコースは、グループで話し合って共同作業していくことに特化して学んでいくので、共同でビジネスプランを作成する起業家育成というのは、効果があるのかなって思いますね。
マーケティングコースでは、1年生の時にビジネス基礎と簿記を勉強して、2年生で情報処理、パソコンなど、マーケティングの授業を受けます。そのうえで、ビジネス経済応用という授業ではビジネスプランなどについて学んでいく。商業高校なので、勉強したことを単発で覚えるだけでじゃなく、それまで得た知識を連動すること、応用することが大事になってきます。
マーケティングに関しても、そういった応用力が力になって、マーケティングの授業の大切さに気付ける。社会に出たときも、こういう仕事にしていくのなら、という風に、それまで学んできたものが、あの子たちの中でつながっていくといいですね。今後3年生になった時に、もっとこういう勉強しなきゃと率先して思ってほしいですし、課題研究に入った際、今回のメンバーが中心になって、プレゼン資料をつくったり、いろんなことを調べたりしてほしい。ほかのコースとか学科では、あまりやってこなかったことを、あの子たちは集中してやっているので、そういう力を発揮してまとめていってくれたらと思います。
──では、このプログラムに対して期待していることはなんでしょう?
塩谷教諭 子供らが主体的にいろんなことを調べて、それが日常生活でも、そういう商業の視点で物事を見れるようになってくれたらと思います。商業視点を身に付けた上で、今回のプログラムを受けた子は、たぶん、新しいプランとか、新しいもの見たら、なんでこれができたんだろうと考えるようになるんじゃないですかね。
今までだと、地域の課題なんて、高校生の時に考えたりしないじゃないですか。でも、今からそういうことに目を向けて、大学に進学したときや、それこそ将来的に起業しようとしたときに、うちの田舎は何ができていないのかというような、その地域のいろんな課題、今こういった力があったら解決できる何か、が見つけられれば、それが起業のきっかけになる。「知るきっかけづくり」をこういうプログラムで学んで、その後のその子の人生で、本当の意味での起業家としての力が付いていくっていうのが一番理想的ですね。
廣島校長 他の地方に行った生徒が、Iターンなどで戻ってきて、地元で起業してくれたらうれしいですね。生徒へのアンケートを見てると、地元をいいと思っている生徒は多いのですが、地元で働きたいかというと、地元企業の情報や地域のニーズなどが、まだ十分に分かっていないこともあって、地元での就労志望率は下がるんです。今後、大学へいっても、地元に帰ってくるといったことも高めていけるように、地域の人との触れ合いや関係性というのを築けていけるように、今後はそういった調査もしていかないといけないと思っています。
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