進路多様校として子供たちにできるだけ多くの選択肢を示したい
宮城県涌谷高等学校
宮城県涌谷高等学校は、第一次世界大戦が終了した大正8年、大正デモクラシーの影響による女性解放の風潮のもと、前身である遠田郡立涌谷実科高等女学校として設立され、昭和23年に現在の学制改定により宮城県涌谷高等学校に移行した、創立100周年を誇る老舗高校だ。
老舗とはいえ、全普通教室のWi-Fi整備といった校内のICT環境を充実させるなど、新しいものを取り込む意欲は高く、本トライアルへの参加も、今年度から取り組むことになっていた「総合探究」という授業での、生徒の自発的・自律的な思考プロセス教育を取り入れるという考えと合致したためだという。
涌谷高等学校では、3年進学コースの生徒55名がプログラムに参加。話を伺ったのは、浅水啓一郎教頭、三浦学教諭、伊藤潤一教諭の三方だ。
──まずは、涌谷高等学校の特色について教えてください。
浅水教頭 本校は就職も進学もある進路多様高校なので、ここでの学びが直接子供たちの進路に繋がるため、難しい立ち位置にあります。
子供達には、どんな進路を選ぶにしても、将来的にここでの学びを活用してもらいたいと思っていますが、普通高校の進学校の抱える課題として、当たり前ですが教科に力を割いて、芸術科目が充実しないということがあります。我々は進路多様校ということもあって、取り組みとして、書道、美術、音楽において全て専任の教諭を配置しています。
もともとは女子校からスタートしている学校ですので、女子が多い年もあります。そうしたときには、看護や福祉の系統に多く就職していく傾向があって、芸術科目を取り入れることで情操教育にも良いという考えで取り入れています。
就職進路では、一年生から地元企業の探求を行い、2年生になって、インターンシップの延長で将来のことを考えて、三年生で選んでいくという、三年間のトータルプランになるんですが、社会人講話なども含めて三年生に向かっていくというキャリア教育になっています。
──本プログラムの施行にあたり、苦労されたことなどはありますか?
浅水教頭 実はあまりないんです。というのも、ここは地域に一つしかない高校ということで、地元の企業や、町役場が非常に協力的なんです。先日も町の方で、高校がコアになって街を活性化するという取り組みがあったんですが、町が主体なのに、県立高校である本校を招いてもらったりといったことがありました。学校の中での意識改革という面での苦労というのはあるかと思いますが、それは担当教諭にお任せしています。
ただ、まとめて20時間のプログラムというのは、いいところと悪いところがあるかと思います。他の教科のカリキュラムの間を縫ってこの20時間を確保するのはなかなか難しいところがある。色々な行事をやりくりするのはなかなか大変で、ここと決めてやってしまうしかないのが実情です。
「総合探求」は横断的な学習と言われ、様々な教科を横断してやることがいいと言われています。今回は「総合探求」の時間だけでやりくりしてますが、横断的な学習であることを先生方にも理解してもらい、生徒にもわかってもらい、国語や理科、社会などそれぞれの科目の中で、こういったことをやろうという発想ができるといいなと思います。現状では、教科ごとにカリキュラムが重なっているので、なかなか難しいですね。
伊藤教諭 今回参加したのは、三年生129名いる中の55名で、大学、短大、専門学校、看護学校への進学を希望している生徒たちです。生徒の中には、自分は進路が決まっていて起業しないし、関係ないだろうと考えて、やる気を示さない生徒も若干いるので、そういう子が置いて行かれないように気をつけないといけないなと思っています。この活動を通して何かしら生徒のきっかけになってどんどん学んで自立していくような生徒が増えるといいなと思います。
──このプログラムに取り組む上で学校として期待されていることはなんでしょう?
三浦教諭 将来的に起業するということでなくても、子供達が社会に出て働いた時、似たようなことを何かしら考えなければいけない状況がくると思います。その時のアイデアの出し方や、周りの人との協力の仕方であったりとか、そういうことの練習になればいいなと思っています。そこで練習したものを自分たちの進路に置き換えて考えることができると、先生が一人一人個別にやっている進路指導よりも、子供たちにいい選択肢を与えてあげられるのではないかなと思いました。
今回の課題設定は生徒の興味があるところに置きましたが、生徒のキャリア教育につなげたり、自分の興味のある仕事など、そっちの視点に置き換えて考えていくと普通校でも取り入れやすいんじゃないでしょうか。
もともと「総合探究」の授業カリキュラムは私の前任者と考えたんですが、まず自分のことから、次に地域のこと、そこで一年は完結。そこからグローバルに学んでいこうということでSDGs(2015年の国連サミットで決められた国際社会共通の目標。貧困を失くそう、飢餓を失くそう、など17の目標と、169の具体目標で構成される)を学び、そこから地域に戻るんですが、涌谷町ではない地域として修学旅行で、別の地域の人が何を考えているのかを知る。三年生になってキャリアと接続しながら、メタ認知をすることを目指したプログラムなんですが、今の所はまだ到達していないのが実情です。
今の三年生は実験的な形で様々なプログラムを受けてもらいましたが、自分の将来を見据えた上での考えを今回の起業家教育で学んでもらえればと思います。
せめて20時間かけてプログラムで学んだんだと言うことに気が付いてほしいし。学んだことを大学で生かそうとしてメモを取っている子もいますし、今はまだ何も響かない子もいると思います。そういった子でも、3年後、4年後、気が付いた時に思い出して、ちょっとでもプラスになってもらえればいいなと思います。
伊藤教諭 高校生は、まだ大人に比べて柔軟な思考ができると思いますので、彼らの柔軟な思考と大人の方々からの助言を受けて、スタートした時点から、大きな変容が見られるといいなと思います。その変容が授業の効果だと思いますし、それが卒業後の大きな力になるんじゃないでしょうか。
浅水教頭 こういったプログラムは、子供の探求心や自律的、自発的な成長を促すものだと思っています。プログラムにそれぞれの狙いや目標があるのはいいのですが、起業をするにしろ、しないにしろ、子供たちが自発的、自律的に成長できるものであることを期待しています。
私は、自分のキャリアが専門高校が長かったので、普通高校の生徒に何を求めるかといえば、最後に自信を持ってきちんと自分の意見を発表できることなんです。普通高校では、人前で何かを発表する機会がとても少ない。20時間目が終わって、自分たちのプランを発表する際に、みんなにわかりやすく説明できるようになれば、自分の目標としてはそこで十分かなと思っています。
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