欧米諸国に比べ、低い日本の起業意識
日本は起業後進国と言われる。経済産業省中小企業庁のまとめた2017年度版の「中小企業白書」によれば、日本は米、英、独、仏といった国々に比べ、もう何年にも渡って開業率で大きく水をあけられている。
また、同資料の起業意識の国際比較という項では、グローバル・アントレプナーシップ・モニター(GEM)の調査から、以下のグラフのような統計も出ている。
18歳から64歳までの成人を対象としたこの意識調査では、かろうじて「起業に成功すれば社会的地位が得られる」という認識だけは他国を少し下回る程度だが、「周囲に起業家がいる」「周囲に起業に有利な機会がある」「起業するために必要な知識、能力、経験がある」といった、醸成環境が整っていないと感じていることや、それに伴って「起業することが望ましい」とする意識すら、欧米諸国のそれと比べ、かなり低い水準に留まっていることがわかる。
長らく続いた終身雇用制度や年功序列型の昇進制度から脱却できていないなど、日本でなかなか起業家意識が育たない理由はいくつかあると思われるが、実力成果主義やビジネスのグローバル化を背景に、わが国でも起業家育成に本気で取り組むべき時期がきている。
起業家教育事業とは?
「令和元年度起業家教育事業」は、経済産業省中小企業庁(以下、中企庁)が実施している、高校生を対象とした起業家を育成するためのトライアル・プログラム。KADOKAWAが中企庁より受託し、グループ会社である角川アスキー総合研究所が運営している。
この事業では、「起業家マインドの醸成」と「起業家教育ネットワークの構築」を目標に、全国の高等学校5校において、地域の課題の解決や学校の授業に合わせたトライアルを実施。このトライアルを受けて起業家育成のための標準カリキュラムを作成し、これまで高等学校における若年層向け起業家教育に取り組むことができなかった学校に対して、作成したカリキュラムを展開し、起業家育成を全国的に普及させる狙いだ。
国の政策としては、開業率を米国・英国レベルの10パーセント台に引き上げることを目的としており、開業率向上のために、起業家に必要とされるマインド(チャレンジ精神、探究心等)と、起業家的資質・能力(情報収集・分析力、リーダーシップ等)の向上を通じて、将来の創業者の育成のために起業家教育を推進している。
トライアルで実施されるカリキュラムには、地域の起業家による講演や、ビジネスアイデアの立案、事業計画書の作成などが含まれ、約20時間をかけて起業について学んでいく。最終日に行う発表では、外部の審査員を招聘し、生徒の発表へのフィードバックも行われる。多くの高校生にとって遠い存在である「起業」を身近に感じてもらうこと、そして、自分たちの身近な疑問や課題、やりたいと思うことをビジネスで実現する方法を学ぶことで、生徒にとってキャリアの選択肢を広げ、生き方、働き方の多様性を育む内容となっている。
今年度のトライアルには、全国5つの高等学校が参加。宮城県立涌谷高等学校、長野県立小諸商業高等学校、三重県立宇治山田商業高校、鳥取県敬愛高等学校、鳥取県城北高等学校の5校だ。それぞれ立地や環境も違う各校だが、それだけに本プログラムへの参加理由や、独自に抱える問題も様々。
そこで、各参加校の教員の方にインタビューを行い、起業家教育における、現在の教育現場にある問題や地域の課題、実際に授業を受ける生徒たちのマインドなどを伺ってみた。
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