kintone hive osakaの事例セッションの最後は、三重県伊勢市の地場SIerであるコムデックの生田智之氏。地方ならではのITの課題、顧客管理一点突破で成功させたkintoneの活用事例、そして今後チャレンジするkintone活用の方向性について丁寧に説明した。
キラキラ観光地からは見えにくい伊勢のIT事情
「挑戦しないことは失敗と同じ。どうせ倒れるなら前のめりに倒れたい!」をモットーにする生田氏は、奈良出身。大学の時に三重県に引っ越し、コムデックでITコンサルティングを展開している。
コムデックが本社を置く伊勢市は、観光地として名高い。令和初日には17万人の観光客が伊勢神宮に訪れたということだが、「近鉄の伊勢市を降りて、キラキラ観光地ゾーン側に降りれば、テレビや雑誌で見た感じ。でも、間違って反対側に降りるとなにもない。田んぼと工場ばかり」と生田氏は語る。そんな普通の田舎である伊勢の中小企業は、ご多分に漏れず高齢化と人手不足で、休みもとれない状態だという。
もう1つの課題がITリテラシの低さ。「みなさん、キラキラ観光ゾーンでご飯食べたり、おみやげを買ってくれるんですが、伊勢の会社は情報管理もアナログ、コミュニケーションもアナログなので、結局そんなにお客さんをさばけない」ということで、概して低所得という課題がある。当然、kintoneもまったく知名度がなく、「なにそれ?」と言われている状態だ。
そんな伊勢において22年間ITの導入を支援してきた地元密着型SIerがコムデックだ。「伊勢からITで日本を元気にする」を謳うコムデックは、ハードウェアやクラウド導入、ITサポート、情報提供まで幅広く手がけており、16人のメンバーが専門分野で顧客をサポートする。「地方は勉強会も全然ないので、大阪や東京で仕入れた情報を地元のみなさんに伝えたいと思う」と生田氏は語る。
課題だった顧客管理に全勢力を注いだら?
では、ITで顧客は元気になったのかというと、残念ながら元気になっていないというのが生田氏の見立て。「いろいろな情報がお客様をかえって混乱に陥れ、ITの苦手意識に拍車がかかっている。ツールを導入しても効果が出てない」(生田氏)。さらによくないのは情報共有を進めたいコムデック自体が顧客管理をできていなかったこと。「お客様から、あれどうなってる? いつできんの?と言われる始末。これはやばいと思った」と生田氏は振り返る。
今まで部署ごとにいろいろな提案やアイデアは持っていたが、お客様に届けていなかったこと、ツールが各人でバラバラだった。この課題感からkintoneへの顧客管理につながる。もともと2014年頃からkintoneは一部使っていたのだが、これを機に顧客の情報をすべて登録したデータベースを作ることに着手した。また、今までホワイトボードと付箋で行なっていたハードウェア事業部のプロジェクト管理も、なるべく使い勝手を変えず、kintoneで進捗がわかるようにした。
コムデックの顧客管理で大事だったのは、顧客のメリットから考えたこと、そして個人ではなく全体の最適化を中心に据えたことだ。「Evernoteも、Excelもやめ、ルックアップと関連レコードにこだわって、お客様に関わるすべての情報をkintoneに登録することにした」(生田氏)。登録された情報はCTIとも連携させており、電話がかかってきたら、自動的に顧客情報が表示される。「お客様からもうちのことよくわかってくれてるねというお褒めの言葉をいただいたり、どうやったら活動履歴をまとめたのか教えてほしいと言われたり、一番うれしいのはお客様が別のお客様に紹介してくれたこと。地方では紹介にまさるものはなしで、いい効果が出てる」と生田氏は語る。
前述したとおり、コムデックのkintoneは4年間、アクティブに活用されることはなかった。しかし、一念発起して顧客管理を徹底するために、明確な目的を作り、便利な顧客管理アプリを増やしたことで、効果が得られたという。2019年に入ってからは、間接部門でもExcelからkintoneへの移行が進んでいるという。「Excelに情報を登録しても、納期は教えてくれない。でも、kintoneは通知で教えてくれる」(生田氏)といったメリットのほか、過去の業務履歴がまとめて残るのも評価が集まっているという。
「記録より記憶」と「探し物をなくす」
長らく停滞状態が続いていたコムデックで導入が進んだのはなぜか? 現場を見回りながら、使い方をチェックしている生田氏は、2つのルールを仕込んだという。
1つ目は「今すぐ登録する」。「とにかく合い言葉は『記憶より記録』。とにかくすぐにkintoneに登録して、登録したら忘れていいよと」と生田氏は語る。もう1つは「脱検索・脱一覧表示」。生田氏は、「みなさん、はさみやホチキスを探すのは仕事ですか? 紙の書類を探すのは仕事ですか?」と問いかける。もちろん、仕事ではないので、探し物に時間をとられるのはやはりナンセンスだ。そのため、よく使う情報はショートカットやグラフからアクセスできるように心がけているという。
実際、コムデックは30以上のスペースがあり、アプリも160個を超えている。そのため、よく使うもの、一番力を入れているはトップページに貼っていく。しかも業務のフォーカスはどんどん変わっていくので、まめに更新している。さらに仕事をすぐに登録することで、チームの仕事件数や時間もリアルタイムに把握できるようになる。もちろん、マネージャーはつねに日報を見ているので、登録していない人はすぐわかるし、月次の振り返りも容易になる。業務の可視化に大きなメリットが出ているようだ。
現状コムデックのkintone活用は、「アプリのアイデアがどんどん出てくる」というレベル1から、「仕事に必要な情報がkintoneに一元管理されている」というレベル2まで進んだところ。今後は「正確な意思決定/行動をすばやく行なえる」というレベル3、さらに進捗に対してどこまで進んでいるかを知るためのインジケーター(指針/指標)として活用するレベル4まで進めていきたいという。
生田氏は、「われわれも顧客管理を中心にkintoneをなんとかここまで活用することができた。この成功事例をもっといろんな方にシェアして、コミュニティを地方に拡げていきたい。元気になった会社同士がkintoneでつながると、地方も元気になると思う」と語り、大阪のkintone hiveの事例セッションの最後を飾った。
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