近所の買い物からスポーツ走行までこれ1台で!
運転席に座り、イグニッションを押すとスポーツモードが起動する。これまた車から「お前わかっているよな」という意志を強く感じる。そして低く力強い排気音。見た目や内装、そしてTYPE Rという称号。ステアリングは重く、シフトはスコッと軽く入る。これは絶対に手ごわいに違いない。
先日、FF市販車最速のライバルであるルノー「メガーヌR.S.カップ」を試乗した際は、あまりの硬派ぶりに驚いた。シビックRも同じ系統であることは疑いようがなく、覚悟を決めて恐る恐る走りだしてみた。
しかし覚悟は杞憂に終わる。普通のCセグメントに比べれば硬めに感じるところはあるものの「え? 本当にスポーツグレード? これ、車間違えたのかも?」と疑ってしまうほどの、とてもよい乗り味と扱いやすさ。扁平率30というタイヤにも関わらず乗り心地がよいのは、振動減衰の効果をリアルタイムで連続制御できる「アダプティブ ダンパーシステム」を搭載しているから。Moduloグレードでも思ったが、ガチガチこそスポーツ車両という時代は終わりを迎えたことを改めて感じた。
驚くのはMT車に慣れていなくても扱いやすいこと。本田技研工業本社のある青山一丁目から青山通りへ進めると、さすがに信号の多さで「MTは面倒だなぁ」と思わなくもないが、思ったほどは苦痛に感じない。そのまま渋谷へ進むと東横線の旧高架下から長い渋滞の上り坂が始まる。当然ながら坂道発進が必要となるところ。「苦手なんだよなぁ」と覚悟を決めてサイドブレーキを引こうとすると、シビックRのセンターコンソールにはサイドブレーキレバーがない! 電子サイドブレーキなのだ。
ではどうやって坂道発進するの? というと、ブレーキから足を離しても一定時間自動で止まっていてくれるヒルスタートアシスト機能を搭載しているので、平地と同じ感覚で発進できる。MTに慣れていなくても比較的ラクに走れるのだ。
さらにレブマチック機能によって、加減速によるシフトショックは少ない。シビックRは「はじめてのMT車」にピッタリといってよいほど、ユーザーフレンドリーだった。こういう機能が付くと文句を言う人もいるだろうが、誰もがヒール&トゥができる上級者ではない。みんながMT車が操れる、愉しめるというのは歓迎すべき事で、シビックRのハードルを低くしてくれる。もっとも、パドルシフトなら更に低くなったかもしれない。このシビックRなら、休日はパパがドライブ、平日はママのお買い物という使い方もできそうだ。
普通のファミリーカーのように扱えるいっぽう、+Rモードにすると、話はまったく変わってくる。アクセルレスポンスは俊敏となり、サスペンションは硬く引き締まる。レブマチックシステムの介入も減り、TYPE Rの本性が姿を表す。
一般道ではその顔をのぞかせることは少ないが、首都高C1内回りの、たとえば銀座付近のアップダウンのあるS字は、スリルを伴いながらも高いスタビリティーで駆け抜けていく様は圧巻の一言。ニュルで鍛えたという脚の凄味を感じる。さらに柱間を抜け江戸橋JCTへと続く短い直線の上り坂でアクセルを開けると、まるでカタパルトから解き放たれたかのような、まるで引っ張られるかのように前へ行こうとするクルマの意志に怖さと共に「Powered by HONDA」の文字が頭を過る。
軽くパニックになりながらも、クルマをもっとも左側の車線へ滑空させ、上野方面ではなく、さらに左側の北池袋方面へ向けてブレーキング。ドリルドローター特有の音を聴きながら減速し、シフトダウンした後にステアを切ると、右側のコンクリートウォールに恐怖を覚えながら「アンダーステア出ないで!」と祈るものの、心配無用。ロール量が少なく、クルマは思い描いたラインをトレースしていく。一般道では大人しかったクルマとは、とても思えないアグレッシヴな走りには驚くほかない。このジキルとハイドぶりには思わず顔がひきつってしまった。
【まとめ】売ってるうちに保護しておきたいクルマ
シビックは英語で「市民の」という意味。ホンダがコンパクトなボディーサイズに対してゆとりある居住空間といった、すべて「市民の」ためのクルマを徹底して追求するという思想は、今も息づいている。そんな日常使いを可能としながら、ホンダスポーツらしいドライバーを主語とするスポーツな走りも愉しめる。
人間知らない方が幸せなことは多々あるが、シビックRはそんな1台。このクルマを知ってしまうと、ちょっと他には戻れそうにない。筆者の頭の中は、試乗が終わった今もシビックRのことでいっぱいだ。そして「いつまでもあると思うなTYPE R」という言葉が背中を押そうとしている……。消費税が10%に上がったのに。
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