衛星データの産業利用を促進すべく、経済産業省とさくらインターネットが推進する、クラウド上で衛星データの分析ができる日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」。2019年2月のローンチから半年以上が経ち、ユーザーはすでに1万を超えており、開発者から高い注目を受けている。今回は、経済産業省とさくらインターネットのキーマンに集まってもらい、Tellusプロジェクトのスタートを語ってもらった。
Tellusで衛星データを気軽に使える時代が来た!
Tellus上の政府の地球観測データは使いたい放題。しかも、データ活用のためのアプリやコードを開発できる環境(IDE)も無料で利用可能。いずれはマーケット機能でツール(データ、アルゴリズム、アプリケーション)を公開したりしながら、新たなビジネスや面白い"何か"を創造できる。
そんなワクワクが詰まったプラットフォームが登場した。名称は、ローマ神話の大地の女神からとった「Tellus(テルース)」。陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の解像度10mの光学カラー画像、高性能小型レーダー衛星「ASNARO-2」の解像度1-2mのSARデータ、気象衛星「ひまわり8号」の可視/赤外領域画像といった衛星データや、アメダスの1分値データやスマートフォンの位置情報データ「Profile Passport」といった地上レーダー/センサーデータなど、多様なデータが、クラウドベースの「Tellus OS」で閲覧でき、Jupyter Lab提供のクラウド統合開発環境でデータの解析・分析ができる。提供開始後、現在は1万以上のユーザーが登録しており、注目度は非常に高い。
実は以前より、JAXA(宇宙航空研究開発機構)には「JAXA衛星利用推進サイト」(http://www.sapc.jaxa.jp/)があり、JAXA地球観測衛星による観測データを検索・閲覧・ダウンロードできる「G-Portal」や、JAXAの各Webサイトを横断的に検索できる「E-Search」(地球観測衛星データサイト検索システム)などを提供していた。全体で見ても9割近くの衛星データがすでにオープン化されており、ビジネスで活用してもらいというメッセージも定期的に発信してきた。
だが実際は、グローバルでの市場規模が2017年で約38兆円であるのに対し、2016年の日本の宇宙ビジネス市場は約1.2兆円。しかも「宇宙機器産業」になると、規模は畳産業と同じ約3500億円で、9割近くは官需が占め、なかなか民間での活用に勢いがない。
そうした現状を打破するため、内閣府は「宇宙産業ビジョン2030」の中で、2030年代の早期には市場規模を倍増すると目標を設置。実現するためには何をすればよいのか、経済産業省にて、有識者が集まり「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備に関する検討会」を発足、本格的な議論が始まった。
そして昨年、さくらインターネットは経済産業省の「平成30年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」を受託。衛星データを使って何かやってみたい、ちょっとしたアイデアも気軽に試せるプラットフォームを目指し、プロジェクトが立ち上がった。そんなTellusの誕生秘話や今後について、中心メンバーの國澤朋久氏(経済産業省)、小笠原治氏(さくらインターネット)、山崎秀人氏(さくらインターネット)が熱く語った。
予定調和のない議論から生まれたTellusの基本コンセプト
「宇宙産業ってリードタイムが長くて予算も大きいから、すぐにポンと何かをやろうという話にはならないんです。ならば、今のアセットを解放して何かできないかと考えたんです。JAXAには1990年代から撮りためたデータがありますしね」。そう話すのは、2016年にJAXAから経済産業省の宇宙産業室へ出向し、現在はさくらインターネットでTellusプロジェクトとTellusの開発・利用促進を行う異業種アライアンス「xData Alliance」のシニアプロデューサーを務める山崎秀人氏だ。
ただ、構想自体は以前からあり、一部データは公開されていたが、「だいち初号機は上限50シーンまでといった制限があったり、データ自体が非常に大きかったり、衛星画像専用の解析ソフトのライセンスが高額だったり、結局利用できるのは大企業の研究部門か国の研究機関の研究者くらいだったんです」と述べる。
さくらインターネットの小笠原治氏も、検討会に参加するまで宇宙にビジネス的な魅力を感じなかったと正直に話す。
「宇宙は面白いし、研究が進めばいいなとは思っていたけど、ビジネスプレイヤーとして興味が湧くポイントがなくて。でも、検討会に参加する上で自分なりに調べてみたら、日本の宇宙産業の現状が見えてきて、データの利活用やコンピューティングの必要性もわかり、AWSパブリックデータセットといった海外事例からデータセンター事業者ホスティング事業者の取り組みも知りました。さくらのコンピューティング能力を提供することでユーザーが成功するという絵が見えたとき、本気でやりたいと思いました」(小笠原氏)
これまでの枠に捕らわれない発想が重要と考え、検討会は慶応大学大学院政策・メディア研究家特別招聘教授の夏野剛氏を座長に、ディー・エヌ・エーの代表取締役社長兼CEOの守安功氏、パスコの衛星事業部事業推進部長の石塚高也氏など、利用するユーザーの視点で議論できるメンバーを中心に集めた。
「私は2017年7月から宇宙産業室に配属になって、3回目から検討会に参加したんですが、予想外のところから話題が盛り上がったり喧々囂々の議論に発展したり、それがむちゃくちゃ面白い(笑)」。経済産業省の國澤朋久氏は当時を振り返り、予定調和のない世界で自由闊達に意見を交わす会議に一瞬で引き込まれたという。
案を具体化する中で、國澤氏はユーザーに使ってもらえる、使いたくなるプラットフォームを用意することと、民間事業として成立させるためのビジネスモデルの構築は重要課題と捉えていたと述べる。
「まずは委託事業として3年間、使われないデータを使われるデータに変えるための仕掛けを考えて、以降もきちんと収益性が出る民間ビジネスの基盤を作る。さくらインターネットからの提案は、経済産業省が押さえておきたいと考えていたポイントを踏まえていて、すっとハマったと思いました」(國澤氏)
「結局のところ、データを無料でオープンにしたところで、そのデータから生まれた結果を活かすようなビジネスモデルがないと続かないんですよ」。小笠原氏は指摘する。
「さくらはコンピューティングやデータセンターがあって、問題なく対応できる。でも、それだけだとユーザー任せになってしまう。じゃあデータを見るためのオペレーション環境と開発環境、これらを販売するためのマーケット、さらにはプラットフォームを使いこなしてもらうためのeラーニングなどの教育コンテンツをセットで提案するのはどうかと考えました」(小笠原氏)
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