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社会のインフラを担う企業への成長を目指して

Chatworkの山本正喜CEOに聞いた上場の意義、プロダクトの強さ

ボットがどこまで市民権を得られるのかわからない

大谷:この半年、SlackやLINE WORKS、Chatworkといったビジネスチャット系をわりと集中的に取材しましたが、APIで他社サービスと連携していくという方向性はおおむね似通っている気もします。ビジネスハブとして業務の中心になるというSlackは典型的ですが、確かに利用頻度の高いチャットの中からアプリを利用できる方が使いやすそうですし。ここらへんChatworkはどういう方向性なんでしょうか?

山本:ビジネスハブをどう定義するのかによるのですが、現時点での連携ってメールで来る通知がチャットに置き換わるという意味なのかなと。業務システムやCRM、SFAって、正直そんなにステータスが変わらないので、変わったときに通知来るのはとても便利だと思います。

ただ、ボットが業務アプリとやりとりしてくれる世界が、どれくらい便利なのかは正直まだわからないです。通知でリンクが来て、業務アプリにジャンプして直接触ったほうが専用インターフェイスなので、あえてチャットの中で操作するより楽だと思うんです。ボットの背後で動いているAIだって、まだそんなに賢くないですからね(笑)。

大谷:確かにボットがどこまで市民権を得られるのかは、使う側のリテラシに寄るのかもしれません。

山本:だから、通知はどんどん集約すべきだし、チャットを中心にSaaSを使うというのは間違いなく便利。その一方でチャットで全部完結させた方がよいのか、業務アプリの操作がどこまでチャットに集まればよいのかはわからない。少なくとも、スラッシュコマンドとか、メンション付けるとかがわからない僕らのメインターゲットにとっては、連携より基本機能を充実させた方が喜んでいただけると思います。

実際、お客さまから来る要望も、そういったコミュニケーション基本機能の改善がほとんどです。通知機能を細かく設定したいとか、お気に入りやタスク管理をもっと使いやすくしてほしいとか、そういうのばかりで、API関連の要望はほとんどパートナーさんからですね。

オープンチャンネルは素晴らしいけど、難しい

大谷:今回はチャットの基本機能みたいな話もしたくて、実はSlack、LINE WORKS、Chatworkってユーザーさんに聞くと、みんな「使いやすいから導入した」って言うんですよ。だから使いやすいの定義が違うんですよね。でも、事実としてSlackは難しいけど、Chatworkなら使えるという人も一定数います。

山本:Slackに関しては、正直チャンネルの概念が難しいと思います。オープンチャンネル、プライベートチャンネル、ダイレクトチャンネルなどそれぞれ概念が違いますし、デフォルトのオープンチャンネルだと気がつかず、うかつなことを話してしまったりするのかなと。

大谷:上司の悪口を言ってたら、本人が来るというやつですね(笑)。

山本:もちろん、組織内をガラス張りにして、心理的な安全性を確保しようというオープンチャンネルって、考え方は素晴らしいし、私も大好きです。でも、実践するのは難しい。複数のチャンネルを使い分けるのはそれなりにリテラシが必要。LINEでさえ、トークとグループは別ですからね。

その点、Chatworkは招待したユーザー以外入ってこないプライベートしかなくて、いわゆるダイレクトチャットもグループチャットも、全部1つのバケットに入っています。チャットの種類を区別しないように意図的に設計しています。だから、左のタブを上から順番に処理していけばOKです。スレッドもややこしいので付けませんし、マウスだけで操作も完結できますし、先日発表したリアクションで使える絵文字も6種類だけです。

大谷:あれには驚きましたが、使ってみると、確かにあの6つでおおむねカバーできるんですよね。リアクションに困ったら、「了解しました」か「いいね」って押しとけばいいんだと(笑)。

山本:Facebookも長らく「いいね」しかなかったと思いますが、やっぱり「了解しました」と「いいね」の汎用性の高さがすごいんです(笑)。Slackも、LINEも、絵文字のバリエーションやカスタマイズが売りだったりするのですが、6種類だけでもいろいろなニュアンスを内包できるんですよね。Slackのコマンドライン操作も、基本はIRCから引っ張ってきたテックカルチャーなので、普通の人には難しいと思います。

その点、Chatworkは日本企業の課題感やコンテキストにフィットするはずです。たとえば、Chatworkで宛先を入れると自動的に「さん」が入りますが、これって「役職じゃなくて『さん付け』で呼ぶ文化を拡げたい」という私の小さなこだわりだったりします。

大谷:「既読を付けない」というのもそうですが、プロダクトが働き方を定義しているようなイメージですね。

山本:Chatworkは使い方も絞り込んでいて、とにかくレールをしいている感じです。われわれが対象としているお客様の場合、使い方を決めてあげないと、リテラシのハードル越えられないんですよね。

最速の上場を目指したのはビジネスチャットがキャズムを超えるから

大谷:とはいえ、ビジネスチャットってまだまだこれからですよね。日本で普及しているとは言いがたいし、メール中心の会社は多いです。

山本:最近は赤字を抱えた上場を遅らせるところも多いですが、われわれが最速の上場を目指したのは「チャットがキャズムを超える日が近い」とみているからです。

総務省の調査によると、日本のビジネスチャットの普及率って23%だそうですが、いろいろなジャンルが含まれている気がするので、肌感覚としてはまだ10%くらい。IT業界やスタートアップではけっこう普及していますが、一般の企業には全然普及していないんです。

大谷:確かにLINEはドラマに出てきますが、ビジネスチャットはまだですね。やっぱりメール多い気がします。

山本:でも、普及の目安である16%のキャズムを超えたときに、その選択肢を提供している企業がきちんと上場しているってすごく意味があるんです。2011年にどこよりも早くビジネスチャットを始めて、日本で一番早く上場にこぎつけたというポジションが重要だと考えています。

大谷:ビジネスチャットが本当にキャズムを超えるのはいつ来るのでしょうか?

山本:まず、いまの30~40歳代が経営層に回ってくる十年後には強制的に変わります。とはいえ、人手不足や東京五輪、働き方改革の波で、現場にはものすごくハレーション(軋轢)が起こるはずなので、こうした課題の解決策の1つとして3~5年以内にはビジネスチャットに変わってくるのではないかと思います。

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