テレワークデイズ浜松2019は中身の濃いパネルディスカッションからスタートし、いくつかの企業が自社のテレワークの取り組みを紹介するセッションが続いた。トリを務めたのは、会場を提供してくれたNOKIOO(以下、ノキオ)の代表、小川 健三さんだ。「地方発ベンチャー企業が取り組むワークスタイル『ノキオスタイル』」と題して、同社が考える理想の働き方や、現在実施している施策の数々を紹介してくれた。背景には、東京の企業とはまったく違った視点と戦略があった。
要素だけではなく、核となる考え方をしっかり持つことでテレワークが活きる
ノキオは2011年IT受託開発からスタートしたベンチャー企業。今ではマーケティングソリューション事業、女性活躍推進事業、クリエイティブチームの3チーム体制となり、創業当時は100%だった受託開発の売上比率も60%程度にまで下がっている。それだけ自社のクリエイティビティを高めてきたということだが、その成長を支えているのが「ノキオスタイル」と呼ばれる独自のワークスタイルだ。
「創業当時から、働き方を作れる会社を目指して取り組んできました。現在のワークスタイルは3つの要素から成り立っていますが、その中心には核となる考え方があります。要素技術だけ真似して取り入れても、核となる考え方がなければ施策は上滑りするでしょう」(小川さん)
ノキオのワークスタイルを構成する要素とは、IT・ツール、組織・人、環境・機会の3つだ。その中心に、ノキオならではの働き方に関する強い考え方がある。それをわかりやすく説明するために小川さんは、20世紀型の働き方と21世紀型の働き型を対比して紹介した。
「20世紀型の働き方は、いかに効率よく早く正解に辿り着くかを模索していました。しかし21世紀を迎え生活は多様化し、ビジネスの世界においても正解がない世界で戦わなければならなくなりました。そこでは単純な効率化よりも発想力やコミュニティ、情報編集力などが重視されます。AIが人間の仕事を奪っていくなどという話を聞くことが増えましたが、AIが奪っていく仕事は20世紀型の働き方で得られるものです。逆に言えば、21世紀型の働き型では人間にしか得られない成果を求めています」(小川さん)
核となる考え方はオープンマインド、コラボレーション、性善説ベースなど。特に面白いのが性善説ベースで従業員を見ていくというもの。場所と時間を共有できないテレワークのスタイルでは、相手が本当に仕事をしているのかどうかが見えにくい。
「見えないと、あいつ仕事してるかな、さぼってないかなと疑心暗鬼に陥りがちです。しかし、仕事ができる環境を与えれば、人は働くものだという前提でものごとを考えています」(小川さん)
これは、テレワークデイズ浜松2019の別セッションでも取り上げられた話題だった。そのセッションでは、「サボる人はオフィスにいてもサボります。働く人は、働ける環境さえ与えれば働きます。どちらも場所は関係ありません」と語られていた。確かに、見えなければサボると思いがちだが、私など上司に見るれていても友人とのチャットに興じていた(まだサラリーマンだった、20年前の話だが)。そして、今もフリーランスでサボり放題である。サボる人はどこにいてもサボるし、働く人は見張っていなくても働くものなのだ。
基本はクラウド、コラボレーションはハイブリッドで創造性を後押し
核となる考え方をしっかり持てれば、環境に応じて必要なツールは決まってくる。ノキオではMicrosoft Teamsを基本にオンラインコミュニケーションを行なっているとのこと。部署やプロジェクト単位でチャネルを分けてはいるが、基本的にはすべてオープンチャネルにしている。社内に隠しことがなく、気になった人がいつでも情報を共有できるようにしてあるのだ。もちろん、経理や人事などごく一部の情報は関係者のみに権限が絞られている。
「気軽に発言して、ちょっとしたことでもコミュニケーションを取りやすいようなルールを設定しています。チャットの発言に『いいね!』をつけることで、既読代わりにしています。ただ見たというだけではなく、内容を認識したら『いいね!』を押すというルールです」(小川さん)
オンプレミスのサーバーは廃止し、クラウドストレージをファイルサーバとして利用。バックオフィス業務もほぼクラウド化し、クラウドだけで対応できないものはクラウド経由でアウトソースしている。数々のクラウド化、オンライン化施策を執る一方で、人と人との交流に関わる部分ではハイブリッドな施策を推し進める。
「ミーティングはオンライン、オフラインのハイブリッドです。オフィスにいる人だけなら対面で、テレワークの人を交える場合はTeamsで、社外の人も巻き込む場合はZOOMでと、ツールを使い分けています。オフィスもコラボレーションを促すことを念頭において作っていますね」(小川さん)
働く場所の指定はないが、オフィスで働く方が集中できる人、対面で進めた方がいいプロジェクトのためにオフィスは用意されている。フリーアドレス制で見晴らしがよく、誰と誰がしゃべっているかもわかりやすい。ショートミーティングができるスタンディングデスクもあり、ちょっと気になったことがあればすぐにちょっとした対話ができるように工夫されている。
移動の多い人のために、駅近くにサテライトキャンピングオフィスも設置しているとのこと。顧客は駅周辺の市街地に多いが、本社オフィスは駅からやや離れている。顧客訪問の合間にちょっとした業務をこなすために、一旦オフィスに戻るのは非効率だ。そこでサテライトオフィスを設けるというのはわかるが、サテライト“キャンピング”オフィスとは一体どういうことだろうか。
「事務用の什器ではなくキャンプ用の椅子やテーブルを使って、非日常的な空間を演出しています。駅前に設置することで移動ロスを減らすだけではなく、キャンプ用品を使うことで創造的な話やコラボレーションができる場にもなっています」(小川さん)
また、サテライトキャンピングオフィスと本社オフィスは常時大画面のビデオ会議システムで結ばれ、同じ場所にいるかのように呼びかけて会話ができる。場所が離れていても、工夫次第でコラボレーションは強化できるということを体現しているようだ。
コラボレーションとイノベーションのため最適化し続けるのがノキオスタイル
人と人とのコラボレーションはハイブリッドな施策になっていると先に書いたが、中には完全にオフラインの施策もある。その中でも、ランチをからめた施策がなかなか興味深いものだった。ひとつは、社内の人的交流を促すラウンドロビンランチ。もうひとつは、社外の人とも交流を深めるランチセッション。
前者はその名前の通り、従業員同士を総当たりで組み合わせてランチに行ってもらうというもの。同じ会社にいても、業務範囲が遠いとなかなか会わない人が出てくるが、総当たりでランチを共にしてもらうことで社内の人事交流を図っている。ランチをとりながら気楽な話をしてもらうことで、知らなかったスキルの持ち主に出会うこともある。何かのときに、「あの人に頼めば解決してくれるかも」と思い出すこともあるだろう。なお、これは会社の施策として行なわれているので、ランチ代は会社が負担するそうだ。総当たりということは従業員の人数と同じ回数だけ、ランチ代を会社が負担してくれるということだから、ちょっと羨ましくもある。
もうひとつのランチセッションは、社外の人がノキオのWebサイトを通じてノキオメンバーを指名し、一緒にランチに行くというもの。これは、ランチというフランクな場でノキオについて知りたいことを聞いてもらうための施策であり、その目的通りの効果を出している。応募者の半数が人材応募のための情報収集を動機としており、実際に2年間で60件のエントリーにつながった。また、ランチセッションで出会った人のうち15%は、その後何らかのビジネスのつながりとして生きているという。
「小さく固まらず、社内外の人との交流を通じて社員の成長が促され、ビジネスのつながりも広がり、結果的に売上にもつながっています。また、地方企業では難しい人材採用において大きな力になっています」(小川さん)
ランチセッションのように直接人材採用につながる場合もあるが、ノキオスタイルという柔軟な働き方を推進していること、コラボレーションを促す仕組みを持っていることなどを強みとして、Uターン人材や若手人材の採用を増やしているという。
「今後、地方では若手人材の確保は必ず課題になります。首都圏で当たり前のようにテレワークを経験した人は、Uターンしても同じような柔軟な働き方を望みます。その点で出遅れている地方企業の中で、いまはノキオが一歩抜きんでており、目に留まる可能性が高くなっていると感じています」(小川さん)
いくつもの取り組みを積み上げた結果、人材不足に陥るどころか順調に規模を拡大しつつ、売上も伸ばしているノキオ。金額は出せないと言いつつ、成果を現す数字をいくつか示してくれた。
「ひとりあたりの残業時間は13時間から7時間半と、この1年間で約半減。生産性については、売上高を従業員一人当たりで割ってみると、この2年で15%向上しています。人数は増えているけれど、それを上回る成長ができているのです。しかも残業時間は減っていますから、労働時間あたりで計算すると29%の成長率ということになります」(小川さん)
これだけの成果を上げつつも、現在の姿が最良の最終形ではないと小川さんはいう。ノキオスタイルとは核となる考え方をしっかりと持った上で、ビジネス環境の変化に追従して、働き方自体を変化させ続けるものだという。今はテレワークがメインとなっているが、今後の環境変化によってノキオの働き方がどのように変わっていくのか。大変興味をそそられる部分だ。
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