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「スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE in 福岡」詳細レポート

「知財戦略」はスタートアップの資金調達になぜ大きく影響するか

2019年08月30日 18時00分更新

福岡で開催! スタートアップ×知財コミュニティイベント

 「スタートアップの資金調達と知財戦略の関係をつくる スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE in 福岡(特許庁ベンチャー支援班)」のレポートをお届け。主催は特許庁のベンチャー支援班、ASCII STARTUPが協力して開催したイベントだ。

 弁理士をはじめとした知財関係者と、スタートアップ企業側の関係者、双方が、スタートアップ支援のための知財戦略に関する理解を深め、意見を交換することを目的とした勉強会。同様の趣旨の勉強会が東京で開催された際のレポートも掲載しているので、合わせてチェックしてほしい。

 この日のイベントは2部制。1部では、特許庁によるスタートアップの知財戦略についての取り組みが紹介されたほか、福岡を拠点にするベンチャーキャピタリストより、大学発ベンチャーの知的財産の課題について講演があった。2部では、スタートアップ企業の支援に関わるゲストが登壇。スタートアップ支援経験に基づいたリアルな視点から、より実践的なスタートアップの知財戦略に関し、ディスカッションが行われた。

 会場となったのは、日本有数の繁華街として知られる天神駅からも徒歩圏内の活気あるエリア、福岡市中央区大名のFukuoka Growth Next。同施設は官民共働型の施設で、スタートアップを支援することを目的として運営されている。シェアオフィスやコワーキングスペース、イベント会場に加え、税理士、司法書士、弁護士など専門家への相談ができる「スタートアップカフェ」も併設し、福岡を拠点とする起業家たちに親しまれている施設だ。

スタートアップの生命線は知財
国内では守るための戦略が足りていない

  進士氏によるスピーチの模様をレポート。

 「スタートアップ企業は、人、設備や製品、お金が不足していて、販売網やマーケットもないことが多いため、スタートアップ企業の企業価値は知的財産に集約されているといえます。アメリカのスタートアップ企業では知的財産を守るための取組は当たり前ですが、日本のスタートアップ企業は知的財産に対する意識が低いという状況にあります。例えば、特許取得件数をみると、アメリカのスタートアップ企業と比べて、日本のスタートアップ企業の特許取得件数はどの技術分野でも少ないという調査結果があります。

特許庁総務部企画調査課 課長補佐 ベンチャー支援班長 進士 千尋氏

 特許庁が2017年にスタートアップ企業を対象に実施したアンケートでは、知財戦略が必須と言われるライフサイエンスやバイオテクノロジーの分野でさえ、創業時に知財戦略を考えていたのは45%に過ぎず、それ以外の分野では21%しか考えていなかったという結果が出ました。

 ただし、知的財産を守るために、どのような技術も特許出願すればよいというわけではありません。特許は出願から1年半で技術が公開されるので、ただ出願するだけでは、技術の流出につながる可能性もあります。例えば、審査の結果、特許と認められなければ、出願し公開された技術が模倣され放題になってしまうのです。

 技術を特許化するのか、ノウハウとして秘匿するのかをまず考える必要があります。加えて、特許化するにしても、特許権により参入障壁を作り競合他社がマーケットに入ってくるのを防ぐのか、特許を他社に積極的にライセンスすることで、マーケットの拡大やライセンス収入の増加に結びつけるのか、など取得した特許をどのように活用していくかを各事業モデルや技術の性質に応じて考えなければなりません。事業にあわせて知財の保護、活用方法を考える知財戦略が必要なのです」(進士氏)。

スタートアップ企業にとっては、知的財産が企業の価値になる

 また進士氏は商標権についても触れ「プロジェクトを進めて、商品やサービスをローンチし、ようやく売り上げが上がってきたときになって、誰かの商標権を侵害していたことが判明したら、大問題になってしまいます。せっかく認知度が上がった商品名の変更が必要になったり、企業のブランドイメージが傷ついてしまうことを防ぐためにも、商品やサービスの名前をつける前に、まずは他者の商標権を調べることをおすすめします」と解説した。

 知財戦略の重要性をわかっていても「どうすればいいのかわからない」「難しそうだからそのままにしている」というケースも多く見られるほか「どうにかしたいけど、誰に相談すればいいのかわからない」と、何も手を打てていないスタートアップ企業が多く見られるのが現状だという。

 特許庁ベンチャー支援班では、こうした状況を改善するために、「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」を展開している。知財の専門家とビジネスの専門家によるメンタリングチームが、ベンチャー企業と一緒になって、ビジネスに連動した知財戦略を構築するというものだ。

特許庁ベンチャー支援班では、「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」を展開

 2018年IPASに参加した企業の成果事例として「『特許を取っているから大丈夫』と考えていたが、専門家が見ると、事業をカバーするために十分な特許が取得できていなかった」ケースや、「『うちの技術は特許にならない』と考えていたが、本人たちも気づいていない部分に技術の優位性があり、専門家のアドバイスを受けて特許出願に至った」ケースがあったそうだ。

ベンチャーキャピタルが指摘する
大学発ベンチャーの落とし穴

 続いては、福岡市を拠点とするベンチャーキャピタル企業、QBキャピタル合同会社 代表社員の坂本 剛氏によるセッションの様子を紹介。

 坂本氏は、福岡ベンチャークラブの理事や、複数の投資先の社外取締役を務めるほか、九州大学知的財産本部で大学発ベンチャー支援を行なうなど、スタートアップ支援のスペシャリスト。

 坂本氏は、大学発ベンチャー(大学の教官や学生の研究成果を中核技術として事業化されたスタートアップ企業)における、知的財産の扱い方について、ベンチャーキャピタルの目線から話した。

QBキャピタル合同会社 代表社員の坂本 剛氏

 「大学発のスタートアップ企業ってすごく多いのですが、投資するにあたっては、大学から綺麗にライセンスや譲渡をしてもらえるかが課題になることもあるのです」(坂本氏)。

 ベンチャーキャピタルがスタートアップ企業に投資する際は、コア技術を独占的に持っているかどうかが鍵になるという。大学と共同で権利を持っている場合、事業を拡大するにあたって、大学に権利を譲渡してもらう交渉をすることもあるそうだ。

 「でも、権利を譲ってほしいという話を大学に持っていくと、大学は儲けたいと思って『1000万円で譲る』などと言ってくることもある。これはスタートアップ企業にとっては、いじめじゃないか? と思うこともあります」と坂本氏は話す。

 知的財産の所有については、ベンチャーキャピタルの支援を受けるときだけでなく、大企業との共同研究や協業の話が持ち上がった際にも問題となることが多いようだ。

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