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「スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE in 福岡」詳細レポート

「知財戦略」はスタートアップの資金調達になぜ大きく影響するか

2019年08月30日 18時00分更新

IT系スタートアップに特許は必要?

 最後のプログラムでは、野村證券 法人事業支援部課長の野口 勝彦氏、株式会社ドーガン・ベータ 取締役パートナーの渡辺 麗斗氏が登壇。進士氏の司会で、スタートアップ企業の知財戦略をテーマとしたパネルディスカッションが披露された。以下にはパネルディスカッションの様子を抜粋して紹介する。

 「IT系のスタートアップ企業に特許は必要かどうか」というテーマ。海外に比べると、特許訴訟が起こりにくいと言われている日本。しかし2016年には、日本のIT系ベンチャー企業間で特許侵害訴訟が起き、大きな話題となった。こうした訴訟問題に発展した時のために、IT系のスタートアップ企業にも知財戦略が必要なのではないか? というディスカッションだ。

 野口氏は「このケースでは、2017年7月に被告企業勝訴の第一審判決が出てそのまま確定し、間もない2017年9月に被告企業は株式公開を行いました。しかし、事業のコアとなる技術で侵害訴訟を起こされていたら、上場できなくなる可能性が高いと思います。上場に向かって動いているときに本業に関わる部分で訴えられると、株価がつけられなくなってしまうからです。このような事態に備え、反撃材料となる特許を保有しておくことは有効です」と話す。

 また進士氏は「本件をきっかけに知財の重要さに気づいたというIT系スタートアップ企業は多いと聞く」と話した。

知財戦略は、スタートアップの資金調達にも大きな影響

 続いては、「知財戦略はスタートアップ企業の資金調達にどう影響するか」というテーマ。

 渡辺氏は私が見ていたケースでは、事業に必要な基礎的な特許は取って事業を展開していましたが、その後で技術革新が起こり、特許を新たに取り直さないと、知的財産が守り切れない状況になったことがありました。特に技術革新の起こるペースが速い産業では、競合他社に、より有利な特許を取得される状況になっていないか、支援先企業の知的財産が守れているかは、ものすごく気にして見る部分ですよね」と話す。

野村證券 法人事業支援部課長の野口 勝彦氏

 また野口氏は「医療業界の分野では、数件の特許を持っているだけで、何千億円という売上が得られることがあります。医療の分野のように、少ない数の権利で事業が成り立つ市場では、むしろ、権利が守れていないと厳しいです。特許を持てていないなら、投資したくないと考えますね」と、医療業界の特許についても触れた。

内科に行かないといけないのに、外科に行くのはダメ

 「スタートアップ企業に必要な知財専門家とは?」というテーマ。進士氏は、「そもそも知財についてどう対処すべきか分からないから弁理士を訪ねるのに、スタートアップ企業が言ったことしかしてもらえず、困っているスタートアップ企業も多い」と話す。この問題はスタートアップ企業にとって深刻なようで、そもそも、何を依頼すればいいのかもわからないスタートアップ企業も多いようだ。

 弁理士の顔も持つ野口氏は「弁理士って、弁護士の知財版みたいな士業なんですよ。お医者さんと一緒で、自分たちにとって必要な弁理士を見つけるのって、すごく難しい。内科に行かないといけない症状が出ているのに、外科に行ったらダメですよね。言われたことだけをする弁理士って多いので、日頃からどんな弁理士がいるのか、情報収集をするしかないと思いますよ」と、例を交えながらユニークに話した。

株式会社ドーガン・ベータ 取締役パートナーの渡辺 麗斗氏

 渡辺氏は、「スタートアップ企業なら、弁理士の資格を持っている人を社員にするのもアリかな。弁理士を雇うというよりは、普段は他の業務をメインにしつつ、必要なときには、弁理士事務所に仕事を依頼できるような人。社内の目線で外部の弁理士と一緒に動ける人がいると、いい結果になると思いますよ」と、別の解決策も提案した。

参加者同士が積極的に名刺を交換する様子も見られた

 セッション終了後は、参加者同士の懇親会が開催された。一般来場者と知財専門家を招いて開催された本イベントだったが、合計で40名ほどの来場があり、積極的に名刺を交換する来場者の様子が印象的だった。

 特許庁による知財戦略の取り組みは、同庁が運営するスタートアップのための知財ポータルサイトIP BASEにも詳しく掲載されているので、興味のある読者はぜひ参照してほしい。

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