週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

第32回NEDOピッチ「脱プラスチック・脱石油特集」レポート

脱石油、脱プラスチックを目指すスタートアップ企業の取り組み

2019年09月03日 15時00分更新

神奈川県川崎市のK-NICで「第31回NEDOピッチ」が実施された

脱プラスチック・脱石油に向けた国内の取り組みとは

 神奈川県川崎市のK-NICで「第30回NEDOピッチ」が実施された。同イベントは、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共催による、オープンイノベーションを創出することを目的としたピッチイベントだ。第31回のテーマは「脱プラスチック・脱石油特集」。

Bioworks株式会社の海洋生分解性プラスチック「Plax」を使用した製品

 近年、プラスチックの海洋生態系に及ぼす影響が深刻視されていることもあり、トレンディングなテーマだ。2019年の6月に開催されたG20大阪サミットでは、安倍 晋三総理大臣が、途上国の廃棄物管理に関する能力構築とインフラ整備等を支援していく旨を表明している(大阪ブルー・オーシャン・ビジョン)。

 脱プラスチックの実現に向け、注目を集めているのが「ポリ乳酸」や「デンプン樹脂」といった「海洋生分解性プラスチック」だ。経済産業省では、「海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ」を策定し、官民一体で連携し、海洋生分解性プラスチックの開発・導入普及を促進していくとしていることから、今後は国内でもますます注目される技術になることが予想される。

 この日集まった、脱プラスチック・脱石油に取り組む5社のスタートアップ企業のピッチの様子をレポートする。

環境エネルギー株式会社

 一番手は環境エネルギー株式会社。同社は2013年に設立し、今年で6年目を数える企業だ。広島県福山市の本社に加え、東京の事業所、福岡県北九州市の研究所と、国内3拠点で営業する。

 同社の中核となるのが「廃プラスチック油化事業」と「新バイオディーゼル事業」。

環境エネルギー株式会社 顧問の菅尾俊介氏

 現状、廃プラスチックは主に焼却処理をされている。焼却時に発生する熱エネルギーを回収して利用していることから「サーマルリサイクル」とも呼称されるが、「本当にリサイクルと呼べるのか?」という議論や、環境に与える影響などが問題視されることもあるそうだ。

 同社が開発した装置「HiCOP-200」は、触媒による接触分解方式を採用した廃プラスチック油化装置。触媒を用いて、廃プラスチックを接触分解し、炭化水素油を生成できるというもの。「反応が穏やかで安全性が高い」「ワックス分の全くない炭化水素油が高収率(80%)に取れる」といった特徴があり、普及が進めば、廃プラスチックを燃料や化学原料として再び使えるようにするサイクルを構築できる可能性を持った装置だ。

 「HiBD-β」は、触媒を使用した接触分解により、廃食油や不純物を含む油脂から、オレフィン・パラフィンを主成分とする炭化水素を高効率で生成できるというもの。従来の方式である「BDF(FAME)方式」と比較すると、分解時に使う水素の量を7分の1程度に抑えられ、ランニングコストが大幅に削減できるという特徴があるという。また生成した炭化水素は、流動点が低いため、軽油とブレンドしなくてもディーゼル燃料として使用できるという特徴を持つ。

Green Earth Institute株式会社

 Green Earth Institute株式会社は、非可食バイオマス(植物の茎や葉など)を原料としたバイオ燃料や、飼料添加物になるようなアミノ酸、石油化学由来ではないグリーン化学品を製造する技術を持ち、その技術をプラットフォーム化することを目指して活動する企業。

 Chief Business Officerの加藤 淳平氏は「バイオマスに由来するプラスチックは、今はあまり使われていませんが、近い将来に大転換が起きると思っています。そんな時代が来たときに、プラットフォーム技術を提供できれば」と話す。

Green Earth Institute Chief Business Officerの加藤 淳平氏

 同社の中核技術が「増殖非依存型バイオプロセス」と呼ばれるもの。遺伝子改変した菌体を用い、非可食バイオマス由来の糖を原料として化学品や燃料を製造できる。既存の技術では、発酵のプロセスで菌の増殖を伴うため、増殖のために余計なエネルギーを消費するという課題があった。同社の技術は、菌の増殖が起こらず、余計なエネルギーを消費しないため、生産性を高めることが可能だという。

 また、稲わらといった非可食バイオマスを原料とすることができるため、食料や飼料と競合しないのも大きな特徴。同社の技術が浸透すれば、従来は捨てるしかなかった廃棄物から化学品や燃料を作ることが常識となる世の中になるかもしれない。

Bioworks株式会社

 Bioworks株式会社のピッチ。

 同社の「Plax」は、100%バイオ由来の「改質ポリ乳酸コンパウンド」だ。バイオ由来のプラスチックの課題が、熱耐性がなく、40℃ほどで変形してしまうことだった。同社は2015年にPlaxを製造するための技術を開発(詳細は明かされていない)。結果として、140℃までの熱に耐えられる透明な樹脂に仕上がっているという。

 「石油由来のプラスチックでも、140℃までの耐熱性を持つ透明な素材は存在しないため、石油由来のプラスチック製品と比べても、用途の幅が広がる」()とし、射出成形(溶融した材料を金型内に注入し、成形する)やブロー成形(溶融した材料をパイプ状に射出し、空気を吹き込んで金型に押し当てて成形する)といった、従来のプラスチック製品で用いられる既存の製造設備をそのまま流用できるのも大きな特徴。

Bioworks 代表取締役 CEOの今井 行弘氏

 同社は2018年末から株式会社TBMの子会社になっており、「LIMEX」の共同開発もしている。LIMEXは石灰石を主原料とした紙やプラスチックの代替素材。水や木を使わずに、紙の代替製品を作成できるほか、プラスチックの代替製品としては、石油の使用量を容積比で半分程度に削減できるという特徴があり、コスト面でも優位。

 普及促進のため「この素材をプロデュースしてくれる会社があれば、ぜひ声をかけてほしい」と今井氏は話した。Plaxの実物も触らせてもらったが、見た目や質感も、ほとんどプラスチックと変わらなかった。PlaxやLIMEXはすでに民間の企業に使用された実績も持つが、今後ますますの利用が期待される。

株式会社グリーンネットエンジニアリング

 株式会社グリーンネットエンジニアリングは竹活用ビジネスを専門とする企業。社長の佐野 孝志氏は、東京大学研究員の顔も持つ。

 「従来の竹利用といえば、燃料と発電ばかりで、エネルギー利用は良いが、材料供給側からみると廃棄物利用とされてしまい、価格はキロあたり4〜5円でとても事業にならない。弊社の事業では枝葉を落とし、4メートルに切るだけでキロあたり15〜16円にできる。また、特殊竹粉製造機では、乳酸発酵竹粉を1日あたり1.5トン生産でき、キロあたり300円で農業者に売れる。

 伐採業者にも、粉末製造業者にも、粉末利用の農業者にも利益を生み、各々事業として成立つ。農業者は収量が2割向上、作物糖度もアップ、輪作障害減少になる。畜産飼料添加物では、さらに高く売れる。黒毛和牛の餌では死亡率低下や体重増加でセリ価格もアップする」(佐野氏)

 佐野氏によれば、バイオマスプラスチックは石油原料の代替にしても、キロあたり500〜600円とコストが倍以上になるので普及しにくい。竹粉の特殊処理方式では、300円台までコストを下げられるという。70%の竹粉高濃度混入でも射出成形が可能と、幅広い用途に拡大できるとアピールした。

 このほか竹粉エキス利用の化粧品も開発しており、健康食品にも進出を目指している。第一次開発の竹粉製造機についても、生産性・品質を維持してコストを大幅削減し、プラスチックの大量需要に対応できる量産化計画を持ち、この販売も事業の要とする。竹林の管理に手を煩わせている自治体や民間企業、団体にとっては、要注目の企業ではないだろうか。

日本環境設計株式会社

 日本環境設計株式会社は、主に衣類を中心としたリサイクル技術の開発や再生材を用いた商品開発をしている。パタゴニアや無印良品と協業しているほか、設立から12年で社員数80名、資本金は26億円と、急成長を遂げたことでも注目を集める企業だ。

 同社は、回収した服のポリエステルの分子構造を解き(解重合)、単量体に変えたあと(モノマー化)で、染色剤といった不純物を取り除いて再結合する(重合)という技術を持つ。同様の技術そのものは、研究所規模での開発が進められているところもあるといわれるが、同社の場合すでに北九州市に生産工場を持ち、2018年冬季からの稼動を開始。年間1200トンもの再生ポリエステルの生産を目指している。

 商業利用が可能な再生ポリエステルの生産能力を持つ工場は世界でも珍しいらしく、海外の企業からも問い合わせがあるようだ。

日本環境設計 沖田 愛子氏

 綿とポリエステルの混紡製品からポリエステルのみを取り出せるほか、コスト面でも、従来のポリエステルと比較してわずかに高くなる程度で、小売価格に大きく影響が出るほどではないという。

 欧米の製造業を中心にリサイクル可能な素材での商品開発に向けた指針が示されていることもあり、リサイクル技術により脱石油の製造を国内外の企業と手がけたい考えだという。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この特集の記事