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災害大国日本を救うべくITでできること

IT・AIを防災にどう活かす?ヤフー、レスキューナウ、スペクティが語る

2019年07月12日 09時00分更新

SNSにアップされる災害情報をリアルタイムに判断するスペクティ

 今回のセミナーを主催するスペクティは代表取締役社長 CEOの村上 建治郎氏が登壇した。SNSにアップされた事件・事故などの緊急情報をリアルタイムに配信してくれるサービスを提供する。国内だけではなく、海外でもOKで、言語にも依存しない。地図で絞り込んだり、フリーワードと期間で検索して、過去のデータを掘り起こすことも可能だ。

スペクティ 代表取締役CEO 村上建治郎氏

 東日本震災以降、この流れは加速しており、SNSから視聴者撮影動画をピックアップされることは増えているが、しかし、Twitterの日本語投稿は1日で5億件。これだけの数のツイートを人間が24時間監視するのは不可能だ。「だいたいはやばいとか、うわーとしか書いてないので、キーワード検索も効かない」ということで、AIの活用を進めている。

 具体的な解析では、まず動画の中になにが映っているかを画像認識する。消防車や煙、火などを検知し、火事という事件と判断する。スペクティはコメントも解析しているが、複数のツイートから複合的に判断しているという。

画像認識のみならず、コメントなども分析し、複合的に判断する

 たとえば、最近のSNSはプライバシー保護のため、位置情報を付加することが少ない。そのため、写真に写り込んだ看板や標識を解析したり、タイムライン上に近いコメントを調べ、市区町村レベルまで場所を特定しているという。こうしたAI関連の技術は特許となっており、また、Twitterだけでなく、Facebook、Instagram、YouTubeなど4つのSNSに完全対応しており、異なる世代の情報を収集できている。

 世界40カ国、国内約250社がスペクティを採用しているが、報道機関や自治体のほか、企業ユーザーが増えているという。たとえば大手航空会社は、全国の空港で発生する事案や飛行機内のトラブル監視などでスペクティを用いている。また、大手電力会社は停電が発生した場所や原因の特定、影響範囲などの情報収集、官公庁は災害や被害情報の覚知のためにスペクティを導入。一般の人たちが現地からアップしてくれるSNSからいち早く情報を得て、現地に着く前に準備できるのが高い評価を得ているという。

 最近取り組んでいるのが、AI開発プラットフォームの「SIGNAL」だ。AIによる服装診断を盛り込んだめざましテレビの「AI天気」。渋谷のスクランブル交差点のお天気カメラの画像を解析し、歩行者の服装を診断するというものだ。教師データの収集やディープラーニング、AIモデルの構築などはすべてSIGNALが用意している。

SNSのデマ情報をどのようにはじいていくのか?

 とはいえ、SNSにはデマ情報がつきものになる。「一般の人の投稿なので信憑性も疑わしいし、これからAIでいろいろなフェイクがつくることができる。これから先、本当か嘘かをデマを見破るのは難しくなる」と指摘。大規模災害だと特にデマが増えてくるため、こうした情報をしっかり見極めることが重要だという。

 災害時のデマのパターンは、世間を騒がせたい「オオカミ少年」、ある種の偏見に基づく「ヘイト」などがある。これらは検出しやすい部類だが、情報として間違っていない「勘違い」は本人も嘘をついていないため、検出するのが難しい。たとえば、地震の後に京セラドームにひびが入っているというツイートがあったが、実際はひびではなく足場が組まれただけ。「勘違いを見抜くのは難しいし、加工をしているわけでもない」(村上氏)。

勘違いを見抜くのがもっとも難しい

 こうしたAIによるデマ判定のアプローチとしては、テキストのパターン学習、類似画像のマッチング、デマ情報を投稿するIDのブラックリストなどを複数の階層でデマのデータベースを構築している。車が横転している写真が拡散した台風24号のときは、過去の画像と一致したという。ただ、ある程度のスクリーニングは可能だが、現時点ではデマと言い切るのはまだまだ難しいため、人による確認が必要になるという。さらにデマ情報の注意喚起も進めており、フェイクが拡散しないよう促している。

 また、伝言ゲームが多かった。拡散力が高いのは「タイムリミットがある情報」「関係者が言ったという情報」「LINEのようなクローズドなSNSで拡散する」の3つが特徴としてあった。実際、北海道地震では「6時間後に水が止まる」という情報がLINEで拡散してしまい、水を買い求める人がスーパーに殺到してしまったという。こうした伝言ゲーム的なデマは、特にLINEで拡散しやすい。

伝言ゲームでのデマの拡散

 なぜLINEでの拡散が危険か? TwitterのようなオープンなSNSの場合、ウソだと気づいた人が否定しやすく、発信元も特定しやすい。一方でSNSのような情報の場合は、うちわで拡がるため、否定されにくく、1対1や少人数でのやりとりを介して情報が拡がるので、情報が書き換わりやすい。「停電するとTVが見えないし、公式情報を見ないので、口コミやSNSしか情報源がなくなる」(村上氏)。これに対処するには、公式情報をいち早く出して、デマを打ち消すことが重要だという。

防災ほどAIが活躍できる分野はない

 最後、村上氏はAIを使った防災対策事例を披露する。たとえば、神戸市ではドローンを用いて、スペクティのAIアナウンサーである荒木ゆいが多言語で避難を呼びかけるという実証実験を進めている。これは南三陸町で防災無線で最後まで避難を呼びかけていた職員が津波の被害に遭ってしまったことからの教訓があるという。また、台風のときは防災無線のために役所に向かうことすら難しいという。「職員の方も被災者なので、本来は逃げなければならない。でも、多くの防災無線は人が発声しなければならないので、これをAIが代替するということで、注目をいただいている」(村上氏)。

ドローンを用いた多言語での避難誘導実験

 また、東京大学や広島大学と連携し、建物の倒壊危険性の早期判定をAIで行なう実験を進めている。これは今まで専門家が判定していた建物の倒壊の危険性を、ひび割れの写真から判定するというもの。たとえば、熊本地震では広域に建物の被害をチェックしたので、倒壊の危険性を判定するのに4ヶ月かかっていた。でも、これならドローンで写真を撮って判定もできる。村上氏は、「最終的には専門家が見る必要があるが、優先度の高いもの、判定の難しいものからチェックできる」と語る。

 さらに日本気象協会とは、SNSや車載カメラ、街中のカメラから得た写真を用いて、路面状態を判定する実験を進めている。「現在、自動運転の技術研究においては、路面状態の把握がまだ手つかずなので、今の技術だと冠水していても走行してしまう」と村上氏は指摘する。その他、河川の水位を見て、リアルタイムに水害を判定したり、被害を予測することも可能になるという。「実際に災害が起こると、ハザードマップ通りにならないことも多い。だったら、リアルタイムに決壊を検知して、被害を予想した方が正確になる」と村上氏は指摘した。

路面状態の把握をAIの活用で実現する

 最後、村上氏は「防災ほどAIが活躍できる分野はないと思う」とアピール。地震、台風など多くの災害に見舞われる日本において、社会的な意義も高い防災分野でのITの活用は地味ながら非常に重要と感じられた。

■関連サイト

初出時、小野氏の名前と台風21号の上陸時期を誤って記載しておりました。お詫びし、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。(2019年7月12日)

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