世界20都市のベンチャーコミュニティーを見てきたNTTデータ残間氏に聞く
世界を体感して知った大企業からみたスタートアップエコシステムの創発
政府もいよいよ大きく動き出した、ベンチャーのエコシステム構築。海外から遅れを取っている日本の現状に対して、どのような舵を切ればいいのだろうか。最終回は、2018年度も何度も海外のコミュニテイーへと足を運んだ「豊洲の港から presents グローバルオープンイノベーションコンテスト」、世界20都市で開催し多数のビジネス創発を実現、世界各地でのエコシステムを実際に体感してきた、NTTデータのオープンイノベーション事業創発室 室長である残間光太朗氏にお話を伺った。
――海外でイベントを毎年開催し、そこでエコシステムの重要性を説いてこられていますが、世界で見てきたエコシステムで感じたことはなんなのでしょうか。
残間光太朗氏(以下、残間):エコシステムですごいと思ったのはインドですね。インドのプネー大会では、グローバルネットワークを通じて世界最大の起業家育成支援を行なうNPO法人「The Indus Entrepreneurs Global」(TiE)とパートナーシップを組んで開催しました。TiEは、シリコンバレーで1万5000人を集めるアントレプレナーの大会を毎年開催するなどの活動をしていますが、メンターの皆さんは10万円程度の会費を支払ってボランティアで参加しているんです。
インドのスタートアップをメンタリングして、ある程度育つまでほぼボランティアで行なっていることについてお話を伺ったら「サンフランシスコで右も左もわからず単身で乗り込んで起業したときに、TiEが親身になって助けてくれた。その恩返しをしているだけ」とのことでした。
これぞエコシステムかなと思いましたね。お金とかではない世界で回っている。恩義に対するお返しをしてあげるという、いわゆる義理人情の世界が、エコシステムがうまくいくポイントであるということ。そして、現状の日本ではそれがまだまだ回っていないのかなと思いましたね。
――エンデバーも無償ですよね。
残間:恩義でやっているところがうまく回っているのが1つの成功例だと思います。ほかには、政府がエコシステムをうまく作っていこうと頑張っているのがリスボン(ポルトガル)ですね。現在「HCB」(Hub Criativo Beato)というプロジェクトが進行していて、巨大な工業地帯の廃墟を利用して、オープンイノベーションによるスタートアップコワーキングスペースを生み出そうとしています。
その中心にいるスタートアップ・リスボンは半官半民で、そこが政府に対して提案して採択された事業です。リスボンは近隣に比べて物価も安く気候もいいのでスタートアップの環境には最適で、ヨーロッパ随一のエコシステムを作ろうとしていると聞いています。このため、続々とスタートアップが集まっている状況です。
国を上げて成果を出そうとしているもうひとつはチリで、「チリコンバレー」構想ですね。スタートアップビザを発行して、何年間か住まわせ育てていこうとしています。このため面白いスタートアップが集まっていますね。国が主導権を握って、それを国の力にしようとしているところが多いですね。
一方で、企業がエコシステムを作っていこうという動きもあります。南米にはアクセラレーション施設がたくさん作られていて、たとえば、Itauというブラジルの大手銀行が「Cubo」という施設を南米中に展開しています。スタートアップや大企業を集めて、サンパウロではビル一棟を丸ごとオープンイノベーションエコシステムにしています。13階建てのビルを2フロアずつ「HealthCare」や「Fintech」などのテーマにわけて、各フロアに大企業が1社入ってスポンサーになります。そして、その大企業が必要なスタートアップをCuboが見つけてきてイノベーションを興そうとしています。一見、銀行とは直接関係ないこともどんどんエコシステムとしてやっていて、こうしたオープンイノベーションを促進する動きは急速に拡大しています。
あとは、リマのイノベーション・エコシステムは大学が牽引しているところが多かったように思います。ひとつは、4年前からSan Marcos大学が運営する「1551」というアクセラレータ施設で、大企業から課題をビデオで募集して、その課題を世界中からスタートアップを集めて解決策が提案されるような支援をしています。もうひとつは、Intercoopグループ配下のUTP大学が、30名ほどのイノベーションチームを結成して大学自体のイノベーションに取り組んでいます。そこで生まれた「UGO」というソリューションでは、シェアリングエコノミーで、大学の授業についていけない人に対して、アプリで補講ができるシステムを開発していました。
政府がやることもあるし企業もやることがある。ボランティアも大学もやる。いろいろなタイプが生まれてきていて、それが今や世界中で活発に行なわれている。シリコンバレーやイスラエルだけではない、イノベーションのエコシステムを自国につくることで、競争力を高めたいという意思がひしひしと感じられました。
――競争が始まっているというのがキーワードだと思うんです。フランスのパリにStationFができて、すぐに大企業もスタートアップも集まっているというスピード感がぜんぜん違うんですよね。リスボンも1年後にはすごいことになっているはず。でも日本国内ではなかなか起きていない。
残間:たとえばエストニアのようなコンパクトな政府なら迅速に一気にできるかもしれないけど、これまでの歴史を背負いさまざまな関係者がある日本では一気ににすべてを進展させるというのがなかなか難しいのかもしれませんね。でも日本でもまさに最近、ずいぶん活発化してきているように思いますよ。
――スタートアップとNTTデータ、そして顧客企業との連携、トリプルウィンの関係はまさにスタートアップエコシステムにあてはまると感じます。
残間:そうですね。少しでも我々から日本のエコシステム作りに貢献できたらと思っています。当社にとっても、お客様と一緒に新しいビジネスをつくることは非常に重要だと思っていますし、それによってエンドユーザーの顔を見れることや、なによりお客さまの課題感を深く理解することが大事になってくる。そういう意味でも、エコシステムを通じてエンドユーザやお客様、そしてスタートアップの皆様と一緒に課題感を共有していくのはものすごく重要な点ではありますね。
一例としては、地銀様ともAPI機能を有するデジタル基盤として「OpenCanvas」というサービスをやっていますが、プラットフォームとしてさまざまな参加者に共同で使っていただくことで、エコシステムになっていけるといいと思っています。NTTデータの価値は、課題から現実の具体的なソリューションまで実現することだと思うんです。エコシステムのプラットフォームとしてビジネス創発のアクティビティーから具現化までを、企業にも社会にも効率よく提供できるのが我々の使命ではないでしょうか。
――先のお話に出てきた、ブラジルの「Cubo」みたいな施設を各地域の地銀が手がけたら面白いのかなと思います。
残間:まさにそうですね。地域の課題を一番良くわかっているのが地銀様ですから、それを解決するエコシステムを手がけていくというのは大いにありだと思います。エコシステム競争というのは世界で同時多発的に巻き起こっていますが、その中身はまったく違うんですよね。20都市で大会を開催してわかったのですが、たとえば南米サンパウロで優勝した「TNH Health」というスタートアップでは、犯罪の多い町であるために、メンタルがやられている人が多いという課題感に基づいてチャットボットでメンタルヘルスの人たちと相談できるサービスが生まれているんですよね。そういった、世界中の異なる課題感のなかからスタートアップが生まれているので、一口にエコシステムと言っても、まったく違うエコシステムや生態系、スタートアップがいます。このため、日本は日本なりの課題感に合わせたエコシステム、育て方を考えるべきだと思います。
――システムとしてはほかの国のものを真似てもいいけど、日本なりの課題感に合わせたものにしなければならないですよね。
残間:日本の得意技としている、人と人をうまく結びつけるうまさが、オープンイノベーションの時代になったとき、和の精神として生きればいいなと思っています。もしかしたら世界の中で、いろんな課題感のあるスタートアップやエコシステムをうまく混ぜ合わせるのができるのは日本人だけではないでしょうか。国に閉じたものでなく、混ぜ合わせたほうがより面白いビジネスが生まれるはずですし、それによって世界に類のないグローバルなエコシステムづくりができればいいと思います。
今年度も「豊洲の港から」のコンテストはこれまでと同様にやっていきますが、よりビジネス化のスピードを早めたいと思っています。我々の課題感としては、イノベーションがすぐにビジネスにつながることが非常に重要だと思っていますが、スタートアップはそもそも社長だから迅速に動けるものの、大企業はなかなか動けないのが現状です。ですので、よりビジネスのリーダークラスの動ける権限を持っている人に集まってもらい、すぐにビジネスを始められるようにしたいですね。
イタリアのコンテストでは、大企業の社長クラスを数十人集めて、質疑応答もやるしスマホで直接優勝も決めています。だから話が早くて、やると決めたらすぐに事業化になって、昨年だけで4件が事業化しています。世界中をそういうような仕組みにしなければダメかなと思っています。
チャレンジングではありますが、グローバルレベルでビジネスリーダークラスを呼べればなお良いですね。グローバルにコミュニケーションもできるし、全世界を混ぜ合わせる場になればと考えています。
それがもしできたなら、日本式エコシステムの新しい形と、これまでにないような世界中のイノベータの知恵が結集された新しいオープンイノベーションによる革新的なビジネス創発ができるのではないかと、わくわく楽しみにしています。
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