週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ハコモノ行政から脱却し人や企業の「つながり」づくりを目指す政府

2019年06月19日 06時00分更新

 日本でもスタートアップ企業に対しての支援が活発になってきたものの、アメリカや中国をはじめとした海外では、すでに多数のユニコーンが創出され、日本はかなり遅れているのが現状だ。世界に通じる起業家の育成やアクセラレータ機能を強化しなければ、イノベーションは起こらないし、世界との差は広がるばかりである。

 そこで、注目されているのが海外でも各地で活発になってきている「エコシステム」の構築である。政府も3月にスタートアップエコシステム戦略に関する中間とりまとめを発表。官民一体となってエコシステム拠点都市の形成を早急に進めている。そこで、日本が目指すべきエコシステムはどうあるべきなのか、日本の現状と海外の動向について3人の識者にお話を伺い、今回から3回に渡ってお届けする。

 まず第1回は、長年に渡りベンチャー政策に取り組んできた内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付 イノベーション創出環境担当 企画官である石井芳明氏に、政府の取り組みについて伺った。聞き手はASCII STARTUPの鈴木。

内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付 イノベーション創出環境担当 企画官 石井芳明氏

――まず政府が考える「エコシステム」とはどういうものなのでしょう。

石井芳明氏(以下、石井):エコシステムって定義しづらい言葉ですが、森の生態系のように多様な生き物が共存する仕組みと考えていただければと思います。政府ではベンチャー支援を90年代から行なっていますが、最近はベンチャーのみに焦点をあてるのでなく、大企業、大学、ベンチャーキャピタル(VC)、金融機関といったベンチャーを取り巻く主体全体の仕組みをエコシステムとして支援するようになりました。

 そして、今検討しているベンチャー政策は、都市のエコシステムを強く意識しています。平井大臣(平井卓也内閣府特命担当大臣)が3月に官邸の会議で発表したプランでも、日本のポテンシャルを活かすためにエコシステム拠点都市を形成することが掲げられています。

 海外のユニコーンの多くは都市から生まれています。中国では83%が北京や上海、アメリカだとシリコンバレーやニューヨーク、ロサンゼルスで80%、イギリスやインドでも同様です。かつてシリコンバレーは、サンノゼからサンフランシスコの間に企業が点在していました。ところが、いまはパロアルト周辺とサンフランシスコ周辺に企業やVCが集中してきています。ベンチャーの中心が人の集まる都市部へ移ってきているんです。

 アナリー・サクセニアン著「現代の二都物語」では、人や企業のリアルなつながりが作られるソーシャルキャピタルが大事で、企業が存在する場が重要であるとしています。また、「クリエイティブ・クラスの世紀」(リチャード・フロリダ著)では、寛容な文化を持ち、クリエイティビティーの高い人が集まりやすい都市がイノベーションを生み出していると語られています。技術の発展で世界のどこにいても情報が獲得できる今日だからこそ、このような考え方を再検討し、拠点都市における人や企業のつながり、コミュニティーづくりによるエコシステムの形成に力点を置くべきと考えています。

――日本版の「都市エコシステム」はどう目指していくべきなのでしょう。

石井:平井大臣が渋谷や日本橋、福岡、大阪、名古屋、つくばなど各地へ出向いて開催するベンチャー関係者との懇談会でも、共通して話題となったのは都市のエコシステムの重要性でした。各地の潜在力をうまく活かせるように活性化や高度化し、効果が出るようにするとスタートアップがもっと生まれるのではと期待しています。現段階では、いくつかの都市を選ぶための論点や、政府としてどんな支援ができるか検討中です。

 昔の政策では、拠点を決めて大量にお金を投入して工業団地や施設を整備するハコモノ行政に走っていました。しかし、スタートアップのエコシステム拠点都市づくりは、コミュニティーづくりを応援する、規制緩和を加速する、世界への発信を手伝う、世界のキーパーソンやキーとなる企業とつなぐ、不足する人材を補うといった人的な支援、オーダーメイド型の支援になっていく気がします。

――課題になってくるのは、気概づくりだと思います。その辺りはどうなのでしょう。

石井:都市のエコシステムが活き活きとするためには、起業家やベンチャー企業、VCの存在、民間のエコシステムビルダーの活動が重要です。あわせて、自治体の首長の本気度と、現場でなにがなんでも実行する行政官がいることが大事だと思います。縦割り行政になっているところを横串で動けるプレイヤーも必要です。海外から人を呼び込める体制づくりも大切です。

――横串という言葉が出てきましたが、国において各省庁が一緒にエコシステムを組み上げていくということに対して、どのようなことが動いているのでしょう。

石井:そうですね。国の行政機関においても、エコシステムの形成に向けて、横串を意識した活動が大事です。ここにきて、これまでベンチャー支援を中心になってやってきた経産省のみならず、各省庁のベンチャー支援が加速しています。たとえば文科省では起業家教育を強化していますし、厚労省ではバイオベンチャーの総合支援を始めました。国交省ではスマートコンストラクションでベンチャーを活用していますし、農水省もベンチャーを応援のスキームを作っています。内閣府としても、各省庁の支援を連動させる、民間のキープレイヤーとうまくつなぐことをお手伝いできればと考えています。

 都市のエコシステムづくり、国の支援の連動で、民間の活動の環境整備をすれば、日本のスタートアップエコシステムの形成は進むと考えています。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この特集の記事