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SlackやTV会議よりも現地の打ち合わせの方が多い

アステリアの社員はシンガポールの国際テレワークで何を学んだのか?

2019年04月23日 10時30分更新

 最近は「在宅勤務」と聞いても珍しくはないが、EAIツールを手がけるアステリアが導入したのが「国際テレワーク」だ。せっかくなら異国で生活して国際感覚を養ってもらおうというもので、売り上げの半分を国外にするという経営目標にも良い効果をもたらすと期待する。第一号として、シンガポールで2週間の国際テレワークを実施したアステリア広報・IR室 長沼史宏氏に現地で話を聞いた。

シンガポールオフィスのエントランス

日本と違うのはスピード感 10日間で作ったネットワークで次々と人に会う

 4月でも日中の気温は30度を超えるシンガポール、アステリアのシンガポールR&Dセンターは世界の名だたる銀行のロゴが並ぶ高層ビル群の一角にある。一帯はCentral Business District(CBD)と言われているビジネスエリアだ。

アステリアのオフィスがあるCBD

 長沼氏は会社が契約するコンドミニアムから30分かけてこのオフィスに通勤する。ここでは日本から駐在している木村大樹氏(シンガポールR&Dセンター長)、香港出身でアステリアの香港の開発拠点に勤務していたジャッキーさん、そしてアステリアが現地で採用する社員2人を含む4人が机を並べている(アステリアは2014年に現地法人を設立、2018年1月には香港のR&Dセンターをシンガポールに統合している)。ここでは、同社のモバイル向けコンテンツ管理システム「Handbook」やIoT統合ソフトウェア「Gravio」などの開発が行なわれている。長沼氏は2週間、空いているデスクを利用して仕事をする。会社からは渡航費が支給され、コンドミニアムに滞在できる。扱いとしては出張と同じだ。

4人が机を並べて働くアステリアのオフィス

 訪問したのは夕方4時過ぎ。長沼氏はちょうど別室で、東京本社で行なわれていたミーティングに参加していた。同社が事務局を務める一般社団法人 ブロックチェーン推進協会(BCCC)が青森県の東京事務所と挨拶を兼ねた打ち合わせ中。スクリーンの向こうの参加者の話を聞き、長沼氏からも情報提供を行なっていた。東京との時差は1時間なので、お互い負担を感じない時差だ。

テレビ会議に参加中の長沼氏

 よくよく聞くと、シンガポールに来て10日目を迎えていた長沼氏がオフィスにいることは少なく、短期間で構築したここでのネットワークを活用して、打ち合わせに出かける毎日だという。シンガポールは多くの欧米大手金融機関がアジアの拠点としており、ブロックチェーン関連で重要な企業や人に簡単にアクセスできる。その日も、「明日の朝は、こちらで知り合った人とお茶。そのあとはミートアップで知り合った会社を訪問する予定」と忙しい。

 テレワークなので日常の業務を遠隔でやればよいが、いざシンガポールにくると以前ブロックチェーン関連のイベントで知り合ったシンガポールの知り合いに会い、次々とネットワークが広がったという。シンガポール国立大学の近くにあるサイエンスパークも訪問した。ブロックチェーンや仮想通貨で有名な会社がひしめくエリアだという。

 長沼氏は、「先週末は、ニューヨークに本社があるPRエージェンシーと打ち合わせができました。ブロックチェーンやフィンテックに特化しているエージェンシーで、いろいろ教えてもらえました」と笑う。そのエージェンシーとのミーティングは近くのWeWorkで行なった。「直接会って話せたことは大きな違いですね。日本から電話でというのもできなくはないが、顔を合わせて話ておくことはいい機会になりました」と語る。

 フットワークの軽さが奏功し、7月にBCCCが企画しているブロックチェーン関連者を集めたシンガポールツアーでの仕事を発注するなど、すでに成果もあった。「スピードが違いますね。日本だと『じゃあ一度持ち帰って、後ほどお返事します』となることが多いが、こちらではすぐに話がまとまります。自分にとっても相手にとっても時間は貴重と尊重しており、生産性がとても高いです」と長沼氏。「話すスピードも速いので、大変なんですけど」と苦笑した。一方で、準備不足も感じたようだ。たとえば、シンガポール入りしてから、イーサリアムの考案者Vitalik Buterin氏がシンガポールでミートアップがあったので、行ってみたが、満席ですでに入れなかったという。

テレワークは福利厚生で語られることも多いが、どこにいても仕事は仕事

 ビジネスのやり方やスピードが違うだけではない。一歩外に出れば、外は英語や中国語、マレー語などが飛び交う。通貨も違うし、交通機関の勝手も異なる。滞在して10日を迎えたところで、やっと慣れてきたと言う。「Grab(こちらで人気のライドシェアリングサービス)を使いこなしてます。『こんなサービスがあれば便利なのに』という気づきも、日本にいればなかったでしょうね」と続けた。

 日本のスタッフとは常時Slackでやりとりしている。ほとんどが事足りるが、重要なことがあればTV会議で顔を見せて話しているという。不都合はまったくないようだ。「シンガポールにいるが、家から仕事をするのと同じ感覚」と長沼氏。業務報告も一切ない。「アステリアには、遠くにいるから管理できないという発想はありません」と言い切る。

 だがこれは、アステリアが長くテレワークを行ってきた経験があるからかもしれない。以前から、エンジニアの自由な発想を重視し、『会社に来なければならない』ということはなかったというが、「テレワーク」として推奨を始めたのは2011年の東日本大震災がきっかけだ。根付かせるために、月に一度の強制テレワークをやるなどして慣れてもらった。その後も「猛暑テレワーク」、気候状況で交通機関に支障がでると予想された時の「豪雪テレワーク」「台風テレワーク」、あるいは帰省ラッシュを避けて帰省できる「ふるさと帰省テレワーク」と折に触れて推奨している。「(猛暑など)会社に来るだけで疲れることもあるなら、家で仕事をしてもらってもいい。事業継続性という点でもテレワークは重要」という。

 経験を重ねただけあって、現在では会社に来なければ仕事をしていないと思われる……などの恐怖感を感じている社員はいない。「テレワークは福利厚生の面で語られることがありますが、どこにいても仕事は仕事」と言い切る。なかなかテレワークをしなかった管理職も、社長(平野洋一郎氏)のプッシュにより意識がだいぶ変わったのだそうだ。

シンガポールのメンバーと長沼氏

 このように、経営陣が積極的であることが同社のテレワーク成功の背景にある。今回の国際テレワークも、アジアの中心であるシンガポールという環境に身を置き現地の空気を感じることで、イノベイティブな発想につながるのでは、という執行役員副社長CTOの北原淑行氏のアイデアだ。同社はビジネスの海外比率を半分にするという目標を掲げており、ロンドンのデザイン会社を買収したり、シアトルにオフィスを持つなどのことをしてきた。海外の顧客も増えつつある。「会社として世界に広がっていこうという段階で、社員にも感性を養ってほしいという副社長の願いがありました。これに社長も賛同して実現しました」と長沼氏は説明してくれた。

 技術面については、VPN、端末は会社支給のものを使うなどのルールがあるという。資料の共有はHandbookを使うなど自社のソフトウェアの利用機会も増えているとのことで、製品の改善につながりそうだ。

 アステリアの国際テレワークは希望制。希望者が多いそうだが、初年度である今年は10人ぐらいを対象とする予定だ。

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