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大企業のスケジュール感にもイノベーションを……

オープンイノベーションというエコシステムを体感

2019年05月08日 08時00分更新

オープンイノベーションを進めるときの課題と対応

 まずは残間氏から、なぜオープンイノベーションを取り込まなければいけなかったのか? というお題が振られた。

 「元からイノベーティブなことは大好きでしたが、実は、オープンイノベーション的な素晴らしさに気がついたのはつい最近です。いろいろなオープンイノベーションのイベントに参加してエコシステムを組み、いい意味でお互いを利用するというのがいかに素晴らしいかと体感しています」(徳山氏)

 「農産物は中身の料金より送料の方が高いということも起こります。大量に運べば、送料の比率が下がるというのは誰が考えてもわかると思います。その中に、規格外といわれている今は価値がないが、実際には価値が付くだろうという農産物を盛り込んで運ぼうとすると、受け取る場所や時間に制約が出てきます。もし、市場という仕組みを活用できれば、24時間受け取れます。そこで、関わるプレーヤーの方々と資本業務提携を結んで推進しているのです」(左今氏)

 「イノベーションはやりかたが重要です。スタートアップだと、『破壊』を打ち出せばベンチャーキャピタルから高バリュエーションで大きな資金を得られます。そして有能な人材を集めて、マーケットを壊すというやり方が1つ。我々はそれよりも、過去に積み上げてきた人や資本というアセットを使って展開していった方が国外に対しても差別化できるんじゃないのかなと思い、大企業と提携しています」(田村氏)

 オープンイノベーションを進めていると、当然、課題感や想定と違うということがでてくるもの。次は、大企業と仕事を進める際の難しさはあるか? というお題が振られた。

 「大企業にいると、上役を説得するハードルが高かったです。特に、イノベーティブなものであればあるほど、本当にそんなことできる? とか、それ儲かるの? といわれます。血気盛んな若いときは、短気な方法を取ったこともありますが、その当たりのバランス感覚は必要だと思います」(徳山氏)

 「ベンチャー企業単体でやっているとうまくいかないことだらけなので、基本的にはいろいろ協力させていただくのは前提です。ただ、うまくいかなかった時に、やっぱり今までのやり方の方がいいんじゃないの、となると僕らがやっている意味がなくなってしまいます。とは言え、確かにな、と思うところもあるので、どこまで融合させるのかというジレンマはあります」(左近氏)

 「基本的にはないのですが、スケジュールが大変だという印象はあります。スケジュールの1.5倍から2倍は見積もらないと、うまくいかないです。スタートアップは先行投資しているので、基本赤字です。2倍のスケジュール感だとあっという間にキャッシュがクラッシュしてしまいます。そのスタートアップの危機感を大企業の方が意外と理解されていません。ファイナンスに至るプロセスはどの会社も見積が甘いですね。大企業のスケジュール感にはイノベーションを起こしてほしいです」(田村氏)

 大企業の立場から言うと、大企業だと既存の延長線上の仕事しか出てこないので、スタートアップのビジョナリーな人と仕事をすることにより、引っ張り上げてもらえると残間氏は語った。

 最後に、ベンチャーから大企業へのメッセージというお題が振られた。

 「イノベーションを本質的に研ぎ澄ますと誰にもわからないような凄いモノを作りたくなりますが、オープンと付くと融合も入ってきます。そのため、言葉の定義を曖昧にしながら大企業とお付き合いすると、かみ合わなくなるという感触は多々あります。我々は、オープンイノベーションでみんなで仲良くというのが大事だと言うことはわかっています。ただ、我々の技術は本当にそんなことができるの? というところから入っている技術ですので、そこを理解していただければと思います」(徳山氏)

 「うちの会社のミッションが、「未来に“おいしい”をつなぐインフラの創造」となっていて、インフラを作っているつもりでいます。食のマーケット規模も76兆円もあると言われているのに、儲かっているとか、みんなが目指すという業界ではありません。大企業から見たら、やりようがかなりあるフロンティアだと思います。なにかしら、一緒にやりたいと思っています」(左近氏)

 「我々の競合は日本にほとんどおらず、ヨーロッパやアメリカの企業になります。グローバルなトレンドとしてリアルなデータとクラウドが接続されるのは目に見えています。リアルの移動データをどのように分析して、個に対してフィードバックするかという仕組みは今後非常に重要になります。日本だと、広告しかピンときませんが、海外だとスマートシティのような都市開発よりのイノベーションが起きています。我々も日本だけを見ているわけではなく、ヨーロッパやタイのお客さまへの導入を進めているのですが、そういうところに一緒に行ける会社を探しています」(田村氏)

 最後の質疑応答では、「豊洲の港から」を始めとするNTTデータのオープンイノベーション活動を立ち上げた残間氏への質問が出た。「大企業のNTTデータの中で、どうやって会社とスタートアップを巻き込めたのか」という内容だ。

 「結構、草の根から始めました。6年前、本当に小さいプロジェクトからはじめています。そこから小さい成功を積み重ねることによって、外側のお客さまに信じてくれる方々が増えてきました。その方々の意見が、段々上に上っていっていき、ブームが起きました。自分たちだけで内部から動かすというのは難しいです。外部のお客さまをうまく味方につけて、動かしていきましょう」(残間氏)

 個人認証と農業、位置情報というイノベーション最前線で10~11年間走り続けているプレーヤーである3社と、まさに生粋のイノベーターである残間氏の掛け合いはとても楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまった。今後もこの4社が取り組むオープンイノベーションは注目を集めることだろう。

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