kintone活用で目指したのは人間と機械の分業
基本的に会計士の仕事は、業務設計、資料(領収書、請求書、通帳、売掛買掛帳、契約書など)の回収、仕分けの入力、品質の保証などのフローで成り立つ。従来は一人の会計士が一人の会社を担当していたので、業務の設計はあまりなく、資料のやりとりで取引を理解し、会計ソフトに仕訳ていく。そして、会計士の知識と経験によって決算書が生まれ、品質が保証されることになる。
ミッドランドが導入したkintoneは、おもに業務設計と品質保証の面で役立っているという。まずは膨大な量の情報を登録した顧客データベースを作り、担当企業のサービスや決算の時期からタスクを作成。職員の能力を鑑みながら、適切なチームをアサインする。いったんタスクをアサインしてしまえば、全体の進捗率をグラフで把握できる。「とにかくkintoneで業務設計をすることが大きなポイント」(小泉氏)。
資料の回収は目的に応じて手段を選んでいる。マンションを購入したり、相続が発生する場合は複雑な取引になるため、訪問や来社で質疑応答しながら資料を回収する。売上や仕入れのような反復的な取引の場合は、販売管理のソフトからAPIを経由して会計ソフトにそのまま流したほうが正確だ。
最近進めているのは、画像を用いた資料回収だ。顧客先にあるスキャナで資料を取り込むと、画像はGoogleドライブに保存される。このGoogleドライブの画像をロボットが検知し、スキャンをかけ、作業内容をChatworkで担当者に通知する。ここまでは完全にRPAで自動化されている。「AIは判断するにはいい脳ですが、記録や記憶には向いていない。私たちはkintoneを記憶や記憶の脳みそだと思って使っています」(小泉氏)。最終的にできたデータはCSVファイルで会計ソフトに登録され、過去の取引からの推定で仕訳が行なわれていく。
小泉氏がLawyTechのコンセプトとして強調したのは、人間と機械の役割分担だ。「簡単なものは簡単にやり、複雑なものは人間的に複雑にやっていく。これがLawyTechの考え方」と小泉氏は語る。
コミュニケーションに関しては、Chatworkをkintoneと連携させて使っている。顧客管理のアプリ内にChatworkの履歴を表示できるため、他のチームメンバーも顧客とのやりとりを追えるというメリットがある。「インフルエンザにかかったり、旅行に行っても、他のメンバーがフォローできます。Chatworkにkintone連携用のアカウントを作り、5行くらいのJavaScriptを書くだけで実現できます」(小泉氏)とのこと。これにより、一人ずつの負担が減り、働きやすい職場になったという。
多様性を受け止めるコストをテクノロジーで軽減
最後、小泉氏はLawyTechの母体となる哲学として「多様性」と「共存」を挙げる。「会計事務所のお客様は、20代の若手社長から80代の財産家まで、ものすごく多様です。多様なお客様とお仕事することは、人間性を育む上においてはものすごくいいことです」と小泉氏は語る。
とはいえ、多様性を受け入れる側は、多くのコストがかかる。そのコストの低減をテクノロジーでやっていこうというのが、LawyTechの概念だ。「パソコンやスマホを使い慣れないおじいちゃんにネットバンキングを使ってもらうことを、われわれは望んでいるわけではない。多様じゃないからです。じゃあ、そのおじいちゃんの通帳を1本ずつ手入力していくのか? これも多様じゃないです」と小泉氏。だったら、紙の通帳を受け取って、会計事務所がテクノロジーで入力を自動化すればいい。こういう関係や働き方などの環境をデザインしていくことが重要になるという。
そして、次の時代に進むために必要なのが「連携」というキーワードだ。「士業の仕事はインプットになる領収書や契約書、アウトプットになる申告書などは法律で決まっています。だから、日本全国で同じ仕事をやっているんです。みんなでバラバラにツールやソリューションを作っていくのは正解じゃないんです」と小泉氏は指摘する。1つの事務所でシステムを保有するのではなく、日本全国の士業で共有していくのが未来の姿だという。
当然、自分たちだけで仕組みを作るわけではない。「僕らのやっていることはまだまだ作り込みも甘いし、研究や開発中のものもあります。でも、今後はみなさんといっしょにやっていきたい。僕たちはライバルじゃない。中小企業を支援する同志です」と共存共栄を訴える小泉氏。がんばっている経営者に「心配するな、うまくいく」というメッセージを届けてほしいと伝えた小泉氏は、「LawyTechを通して、日本の新しい未来を見ていきたいと僕たちは思っています。僕たちはここから始めていかなければならないと思います」と語り、セッションを終えた。
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