日高屋はウソを言っていない
中華料理にマッチするバジルチキンライスだ
さて、日高屋のバジルチキンライスに話を戻す。これをガパオライス(タイのカウ パットガパオ ガイ)だと思うと、かなりがっかりするかもしれない。「思っていたのと違う!」となるだろう。緑色の葉こそたくさん入っているものの、香りは薄いし、そもそも完全にあんかけご飯の風情になっている。
ただ、それは悪いことなのだろうか。どれだけ食べてもなかなか釈然としない自分をよそ目に、盛田さんは一口、もう一口と食べ進めて、「これはあくまで、日高屋としてのバジルチキンライスであって、勝手にタイ風だのなんだのを期待するのは、ぼくらの間違いではないかしら」と、無表情で小さく言った。
たしかに……。日高屋は、「これはタイ風のガパオライスです」などと一言も言っていない。あくまで、バジルチキンライスなのだ。期間限定メニューを開発するにあたって、わざわざタイ(風)料理を出さなくとも、「熱烈中華食堂 日高屋」なのだから、中華料理に寄せるのは当然ではないか。
バジルチキンライスには、半ラーメンか、餃子6個が付けられる(単品で頼むより20円オトクになる)。ラーメン、餃子と食べるご飯……そう考えれば、「中華料理店が作ったラーメンや餃子に合わせても違和感がないあんかけご飯」と考えるべきなのだ。
中華丼や天津飯と似たような感覚で食べられる。ラーメンや餃子と一緒に食べてもイケる味付けにはなっている。タイ料理ではない不思議の味。でも中華料理チェーンにあると考えると、納得できる味。
「だったら、ポスターにあしらっている花のイラストや草の模様はなんだ?」と主張する人もいるだろう。しかし、具体的な文言は一つもない。「中華料理店が作ったラーメンや餃子に合わせても違和感がないあんかけご飯のポスターに、花と草をあしらってなにが悪い」と言われればそれまでではないか。盛田さんは、「花と草はポスターの彩りでしょう?」とつぶやいた。返す言葉はなかった。
食事をすませて日高屋を出たぼくは、盛田さんに「バジルチキンライスに対して、思っていたのと違う! と言うのは、こちらのワガママなのかもしれません」と打ち明けた。盛田さんも小さくうなずいていた。勝手に「タイのガパオライス」を想像して押し付けることは、その場に合わせて一生懸命に働いている若い人に対して、「なんだか違うんだよねえ!」と自分の考えをゴリ押しする頭の固い中年がやりそうなことに思えて、過去の自分が、少しだけ恥ずかしくなった。
このバジルチキンライスを認められない人もいると思う。もちろん、「何がなんでも認めろ」とは言わない。けれど、「思っていたのと違う!」と考えず、先入観を捨てて食べてみたときに、中華料理チェーンのメニューとして見つめると、また違ったものが感じ取れるのではないだろうか。そんな気がしている。
モーダル小嶋
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。ショートコラム「MCコジマのカルチャー編集後記」ASCII倶楽部で好評連載中!
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