週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

xData Allianceには新たにシスコとシャープが参加

衛星データの民主化を推進する「Tellus」がいよいよ始動

2019年02月22日 07時00分更新

 2019年2月21日、「日本初の衛星データプラットフォーム」を謳う「Tellus(テルース)」が運用を開始した。オープニングイベントでは、経済産業省と事業を受託したさくらインターネットが、衛星データを容易に利用できるTellusのユーザー開発とビジネス創出への想いを熱くアピールした。

衛星データを活用した新しいビジネスの創出へ

 衛星データプラットフォーム「Tellus」は、経済産業省の「平成30年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」の受託事業として、さくらインターネットが開発したサービス。JAXAや民間企業から提供された衛星データのほか、衛星データを扱うためのツール、アプリケーションの開発環境などがクラウド上で提供され、無償で利用できる。また、トレーニングやデータコンテストなどの教育コンテンツ、オウンドメディアまでも用意され、開発者の裾野を拡げるという。ちなみにTellus(テルース)はローマ神話の大地の女神から命名されており、衛星データの利用を通じて、地上に豊かな未来を創り出したいという願いが込められているという。

 ラウンチイベントの冒頭、挨拶に立った経済産業省 製造産業局 局長の井上宏司氏は、これまで衛星データが限られたユーザーしか利用できなかった点を指摘。「衛星データは高額で、特別なソフトが必要だったため、知識のあるユーザーしか使えなかった。しかし、データ処理技術の進化により、衛星データをまったく新しい形で活用しようという動きが出てきた」と語る。

経済産業省 製造産業局 局長の井上宏司氏

 こうした中、衛星データを活用しやすいプラットフォームとして経済産業省が構築したのがTellusになる。「だいち2号(ALOS-2)やASNARO-1など日本の最先端の衛星データを自由に利用できるようになる。また、地上で得られるさまざまな経済データを利用できるツールも提供する。これにより、衛星データを活用した新たなビジネスが生まれることを期待している」と井上氏は語る。

 たとえば、衛星データを気象データを組み合わせ、太陽光パネルの最適な立地場所を探したり、衛星データと海水の状況を解析することで、最適な漁場を探すことが可能になるとのこと。今回発表されたTellusは1.0というバージョンだが、経済産業省としては今後2年間でさまざまなデータを用意し、ユーザーのフィードバックを活かした機能強化を図っていくという。

 世界の宇宙産業は成長著しい状況だが、日本では政府の需要が大半を占めており、市場規模も1.2兆円程度にとどまっている。この宇宙産業を拡大し、民間での利用を促していく起爆剤となるのが、今回発表されたTellus。「衛星データの持つ高いポテンシャルを最大限に活用し、宇宙利用の分野を拡大し、さらに新しいロケットや衛星のプロジェクトを推進する。経済産業省としては、こうした好循環を生み出したいと考えています」と井上氏はアピールする。

Tellusが目指すのは「ユーザーの開発」

 Tellus 1.0について説明したさくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏は、「私は今年で41歳ですけど、もともと高専に通って、ロボットを作っていました。小さい頃からものづくりにあこがれ、ものづくりの仕事に就きたいと考えていました。でも、この30年間、日本のものづくりは厳しい状況にあると思っています。でも、日本のものづくりはレベルも高いし、世界屈指の技術を持った衛星が数多く打ち上げられています」と第一声を上げる。こうした衛星データやものづくりのためのデータを多くの人に使ってもらいたいというのが、田中氏の思いだ。「衛星データを簡単に使えるようになり、使う人が増えることで、たくさんのビジネスが生まれる。そんな世界を作りたい」(田中氏)。

さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏

 田中氏はこれから重要になるのは「システムの開発」よりも「ユーザーの開発」だとアピールする。「イノベーションは技術革新と言われていますが、実際には新しい技術と既存の技術を組み合わせることで、社会に変革を起こすことです。ですから、開発者を作り、事例を作り、社会を変えるビジネスを作る。こういう開発がTellusにおいて一番重要なポイントでした」と田中氏は語る。

 これまでの国のプロジェクトはシステムを開発して、納品して終了だった。しかし、多くのユーザーが利用しているスマートフォンは、どんどんバージョンアップしていく。Tellusでも、システムを開発するだけではなく、ユーザーが開発し続けることが重要になるという。

 田中氏にとっても、これまで衛星データを「特別なモノ」という認識があったという。しかし、われわれは日々天気の情報を得て、宇宙のデータをさまざまな形で利用している。その点で、Tellusの目的の1つ目は、衛星データを使えることがそもそもの前提となることだ。「今でも衛星データは購入できるが、開発者が使えるというのは前提になっていない。日本の素晴らしい衛星データを当たり前のように使える状態にしていきたい」と田中氏は語る。

 2つ目の目的は衛星データを民主化することで、失敗が許されるスピードとコストでチャレンジできることだ。「今までは衛星データを購入しても、失敗したら無駄になってしまうし、逆に言うと失敗しないようにするためにプロジェクトを慎重に進めていた。でも、Tellusにより、すごいスピードで開発でき、失敗してもコストがかからない。強いて言えば、無駄にするのは時間だけにする。技術を持った人がすぐに試し、アジャイルな形で失敗を繰り返し、ビジネスを作れば新たなユーザーを開発できる」(田中氏)。

 そして3つ目は「異なるデータの組み合わせにより、イノベーションが生まれること」だ。Tellusは、さまざまなデータを1つの画面で組み合わせることができるほか、複数のメンバーで開発したり、開発した成果物をマーケットプレイスで販売することも可能になる予定だ。

「かもしれない」の可能性がTellusの面白いところ

 セッションの後半、田中氏はログイン画面から「TellusOS」を開く。TellusOSを開くと、Google Mapのような地図画面が現れるが、拡大して見るとはるかに高分解能。それもそのはず、高性能光学衛星ASNARO-1は地上分解能が50cmだ。「今までは渋滞しているかどうかわかるくらいだが、台数や車種まで特定できるようになるかもしれない」と田中氏は語る。また、光学衛星データだけでなく、マイクロ波を用いて地表面を観測するSAR(合成開口レーダー)衛星ALOS2のデータも用意される。ともにクラウド上のオープン&フリーなデータとしては世界初を謳う。

 衛星データも、MODISの地表面温度データのほか、ひまわりの気象データ、GSMaPの降雨量データ、AW3Dの標高データも提供される予定。今後は人流、地域統計、SNS、解析雨量などの地上データも提供され、複数をかけあわせて解析するが可能だ。「データには3つのレイヤがある。IoTとして活性化している地上データ、2つ目が人が持っているスマホのデータ、そして3つ目のデータが衛星データ。この3つを1つの画面で掛け合わせられるのがTellusのメリット」と田中氏はアピールする。現時点でのデータ利用は無償だが、今後は民間企業が提供する商業衛星データなどを購入し、Tellus上で利用できる機能も整備する予定だという。

 データのマッシュアップは利用方法も無限大だ。たとえば、SAR衛星の地表データをRGBで可視化すると、われわれが普段見ている上空地図になるが、異なる波長でとられた植生指数データを可視化すると、植生や密度がわかる。また、人流データと降雨データを掛け合わせれば、降雨とともに人の流れが追えるはずだし、SAR衛星のデータと組み合わせれば、さらに新たな観光地が見えるかもしれない。「先ほどから私は『かもしれない』を連発していますけど、なにが起こるかわからない。これがTellusの面白さです」(田中氏)。

高分解能な光学衛星やSAR衛星のデータが用意される

左がRGBでの可視化、右が植生データとのかけあわせ

人流データを組み合わせた例

 今回は開発環境もクラウド上で実装した。これまでは衛星データをダウンロードし、機械学習を使うのであれば、GPU搭載のサーバーを調達する必要があった。しかし、Tellusでは、Jupiter Notebookをベースに、Pythonでそのまま開発できる。「宇宙から見たデータを見ることで、どこに雪が降っているか、その雪がサラサラなのか、カチカチなのかを見極めることができる」と田中氏は語る。

トレーニングの申し込みは1000人超!Tellusにはすでにユーザーがいる

 TellusはインターフェイスとしてのOSや開発環境、バックエンドのコンピュートインフラのみならず、ユーザーを開発するためのさまざまな仕掛けが用意されている。衛星データ利活用のナレッジを発信するオウンドメディア「宙畑(そらばたけ)」もその施策の1つだ。Tellusといっしょに育てた結果、去年に比べてUU7400も2万3400になり、PVも2.5倍に膨らんだという。

オウンドメディア「宙畑」も成長中

 また、SIGNATEと組んで「Tellus Satellite Challange」というコンテストも実施した。2回のコンテストの投稿者は233人、述べ投稿数も3975件にまで及んでいる。さらに技術トレーニング「Tellus Satellite Boot Camp」も実施しており、東京、大阪、福岡、山口、札幌で165人が受講した。申込件数は1000人を超えており、関心の高さが伺える。「通常、サービスのローンチはこれから開発者を増やしますという話になりますが、Tellusに関してはもう開発者がいます」と田中氏は語る。

 最後、田中氏はTellusの新しさとして、「高解像度・高精度の衛星データが無償で利用できる」「解析のための高性能なコンピューティング環境がセットで提供される」「できたものが商用利用できる」の3つを挙げた。

xData Allianceには新たにシスコとシャープが参加

 続いてさくらインターネット フェローの小笠原治氏は、Tellusの開発や利用促進を目的とした「xData Allience」について説明した。

さくらインターネット フェロー 小笠原治氏

 昨年、Tellusの発表とともにスタートしたxData Allianceは21社でスタート。データ利活用・収集をメインとする企業ならず、スタートアップの参加を促進するベンチャーキャピタルや、ディープラーニングを駆使するAI系の企業も参加しているという。

 たとえば、メルカリの研究開発組織であるR4Dでは、衛星データを利用して植生や土壌などの地表面を検証し、営農による変化量や効果量を数値化する技術を研究中。また、メタップスは衛星データとブロックチェーンを用いて仮想空間にもう一つの「地球」を作る「EXA(エクサ)」というプロジェクトを推進している。

 また、同日付でシスコとシャープの参加が発表され、アライアンスへの参加は23社となった。シャープは「SHARP 8K Lab」で培ってきたデジタル画像のアップコンバージョン技術とAIを活用し、衛星データを高解像データに変換。これにより、Tellusをより使いやすくするという。

xData Allieanceにはシスコとシャープが新たに参加

 世界的に成長を続ける宇宙産業の業界において、米国では1000以上のスタートアップが生まれているが、日本では30にとどまるという。こうした中、ユーザー開発を掲げたTellusによって、どんな新しいビジネスが生まれるのか? AIやIoTを用いたデータの利活用やインフラ事業者であるさくらインターネットの新しいチャレンジという点でも関心は尽きない。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう