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技術検証と妄想、熱意が詰まった「横田deGoプロジェクト」を振り返る

顧客体験にこだわった「Developers.IO CAFE」が生まれるまで

2019年02月21日 07時00分更新

横田deGoからDevelopers.IO Cafeへ!なぜリアル店舗にこだわるのか?

 シーズン3では約半分のメンバーが交代したが、一部が専任となった。店舗での利用を前提に、基盤は木から鉄になり、貼り付けはガムテープから養生テープになった。また、導入する技術もイチから見直した。「WiFiか、Bluetoothか」「電源利用か、電池か。「有線LANか、シリアルか」「機械学習か、信号処理か」など、まっさらな状態で検証。「新しければいいというわけではない。体験を実現するために、どうすれば適切なテクノロジーを選択できるか」(横田氏)が重要だという。

 たとえば、動体検知の導入だ。今までの重量センサーや画像検知では、ユーザーが商品を右から取ったのか、正面から取ったのかまではわからなかった。そのため、棚に伸ばした腕をリアルタイムで撮り、元画像とその差分をとって信号判定している。どの方向から取ったのかは、結果はテキストコンソールで出力される。また、2人が同時に棚に腕を伸ばした場合はコンフリクトする可能性があるので、注意深くチェックできる。これも前述した「問題の極所化」だ。

棚に伸ばした腕と向きを動体検知する

 続いて、なぜリアル店舗にこだわったのか? の話。横田氏は、「こうした技術検証は研究室の中か、がんばってもビルの自社食堂に閉じることが多いと思います。でも、これではいいデータが得られない。実際にお客様に使ってもらうことで、そこでのカスタマーフィードバックを高速にサービスに反映させる。おっ、これAWSじゃん」と語り、「Amazonの文化をハックせよ」のタイトルを回収する。サービスをラウンチし、顧客からのフィードバックを高速に回すことで、いいサービスに仕上げていく。Developers.IO CAFEはここまで見据えてスタートしたわけだ。

Amazonの文化をハックせよ

 店舗探しでは秋葉原の店舗や飲食店を100件以上確認し、10件程度を実際に内見してみた。居抜き物件で、契約書を確認し、コンセプトを数件プレゼンしたが、ビルのオーナーにはちんぷんかんぷん。しかし、現オーナーは寛容だった。「『JR赤羽駅に似たようなレジレス店舗があるので、見に行ってほしい』とお願いしたら、実際に見に行ってくれ、『面白いですね。やりましょう』というのっていただけました。だから、ビルのオーナーがいなければ、店舗は実現しませんでした」とのことで、12月の初旬に無事契約を締結できた。

 もちろん、実店舗はオープンまでが大変だ。店舗やスタッフの採用、コーヒーマシンや冷蔵庫・冷凍庫など什器の準備、保健所や消防署への届け出、店舗設備の充実、営業時間や鍵管理、出退勤管理、メニュー作成、仕入れなど。さまざまな事業者のサポートもあり、なんとかなった。そして、年末年始の16連休中は、横田氏が事業の数字やマーケティングを考えた。「Developers.IOは毎月60万人くらいの方に見てもらっていますが、この方たちにどういった魅力的なコンテンツをオフラインでつなげられるか。オフラインでつながることで、オンラインのコミュニケーションを活性化できるか。小売りや飲食業の方の多くが考えていることだと思います」(横田氏)。

実店舗オープンで見える世界

 アプリ開発や運用体制の整備は、オープンまで間もない2019年1月中旬からだ。顧客向けのアプリ、スタッフ向けオーダー管理アプリ、デジタルサイネージのほか、継続的なデリバリ環境の構築、ロゴやグッズのデザインまでアサインされた社内のスーパークリエイターが担当。社内テストを進めて、体験を繰り返した後、デブサミ直前の2月12日にめでたくDevelopers.IO CAFEが秋葉原にオープンした。

Developers.IO CAFEは毎日新しくなっている

 横田氏は、「正規化や標準化は大事ですが、体験重視のサービスやシステムを作る場合は、あまりこだわりすぎない方がよいと思いました。社員には、『ちゃんと設計しましょうと言ったら負けだからな。それは本当にスケールするときでいい。雑でもいいから、まずは体験を実現しよう』と言いました」と語る。クライアントがいないため、お伺いも必要ない。必要な機能を着々とリリースしたことで、技術研修半年、システム構築2ヶ月というスピードを実現したという。圧倒的なスピード感だ。

 オープンまでの流れを説明した横田氏は考察に入る。Developers.IOやスライドにもまとまっている内容は以下の通りだ。

  • 答えにないプロジェクトは仮説検証を高速に回すしかない
  • ソフトウェアだけで解決できる世界はごく一部。すべてをオールインワンで自ら考えて動かすことで、新しいことができる
  • 多くの実験と失敗でデータを蓄積し、学習してサービスに反映させることでよいものができる
  • 最終的にはソフトウェアモデルと厳選されたセンサーが残る
  • ソフトウェアはAWSが提供してくれているので作るのではなく使えばよい

「IT企業が実店舗を運営してみました。いい気づきがありました。今は事業会社のIT化が進んでいるが、その逆もあってよいのではないかと思います。ITの会社が事業会社になったっていいじゃないですか」と横田氏は聴衆に訴える。

 横田deGoでスタートしたDevelopers.IO CAFEのプロジェクトは、まだスタートしたばかりだ。オープンから2日だったが、1日目は122回、2日目は157回の体験が得られ、リピータも10%を超え始めているという。こうして記事を書きながらも、さまざまなデータや気づきが横田氏のタイムラインを賑わせており、Developers.IO CAFEは日々進化を続けている。

今日も進化を続けるDevelopers.IO CAFE

 「Amazon Goを作る」という彼らの挑戦は、セッションを聞いた自分にとっても想像以上にエキサイティングだった。小さく始めて、実験を繰り返し、失敗を重ね続ける。リアル店舗で実利用者に使ってもらい、フィードバックを反映させる。Amazonの文化をまさにハックし、技術検証と実践を経て、自らの血肉にしていく。われわれがこのプロジェクトから学べることは数限りない。

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