ソニーの新技術「360 Reality Audio」とは?
CES 2019のソニーブースで目玉となっていたのが「360 Reality Audio」の技術だ。CES 2019出展内容は技術を中心したものでコンセプト展示とも呼べるが、CES 2019のタイミングで「Deezer」「nugs.net」「Qobus」「TIDAL」と4つのサービスと連動して提供することが発表された。
「360 Reality Audio」の技術の詳細をソニー株式会社R&Dセンター 基盤技術研究開発第1部門オーディオ技術開発部5課統括課長の知念 徹氏による解説を元にCES 2019の出展内容と共に紹介しよう。
360 Reality Audioとは、全方位からの音に包まれるまったく新しい音楽体験を目指したサウンフォドフォーマットだ。そのコンセプトとして掲げているのは、演奏や録音の現場、音楽の生まれた空間をリアルに再現すること。
音楽フォーマットとしての特徴は「オブジェクトベースオーディオ」であるということ。他社の技術ではドルビーが映画の世界で提供する「Dolby Atmos」がもっともメジャーな例だが、オブジェクトオーディオとは音情報を従来の2chや5.1chといったチャンネルベースではなく、3次元の位置情報を持った“オブジェクト”として収録して配信され、再生時に“レンダリング”により空間のなかに復元して再生する技術。
「オブジェクトオーディオ」では耳より高い位置や後方という位置も、意図通りに収録できるし、転送できる再生の際に鳴らすスピーカーの数が足りない場合や、ヘッドホン再生でも位置情報を元にバーチャライズ技術で再現される。
360 Reality Audioのターゲットは
ストリーミングサービス
それを踏まえた上で360 Reality Audioの特徴を解説すると、まず音楽体験、特にモバイル・ミュージック・ストリーミングをターゲットとしているということ。
また、音を配置できるのは360度の“全天球”。これは360度の表現にリスナーのより下方向の“南半球”も含み、従来にない足元方向の音の位置表現を可能にする。音源の圧縮方式にはオープンフォーマットである「MPEG-H 3D Audio」を用いており、オブジェクト数/ビットレートのによりレベル1では10オブジェクト(640kbps)、レベル2では16オブジェクト(1024kbps)、レベル3では24オブジェクト(1536kbps)を規定。
レベルに応じて通信容量にあたるビットレートも上がる設定で、どのレベルで提供するかは事業者が選択可能だが、レベル3のレートは現状ではWi-Fi向け、あるいは現在のモバイル通信よりも5G回線普及後を見据えた規格と考えて良いだろう。
360 Reality Audioの再生には、360 Reality Audioの制作環境と同じ360度全体の空間を取り巻くように配置され標準13個(耳の高さのフェイスレベルに5ch+高い位置に5ch+前方足元に3ch)のスピーカー構成が基本となっている。
ただし、これはあくまで360 Reality Audioの制作環境やサウンド・デザイン上の規定で、ターゲットとなるモバイル・ミュージック・ストリーミングではアプリで受信することになり、アプリ側にHRTF(頭部伝達関数)によるバーチャライズを標準で提供。専用のハードウェアを用意することなく、アプリ+2chのヘッドホンで利用可能だ。スピーカー数については対応したハードウェアと組み合わせることで、スピーカー構成数を任意に減らしたシステムも構築可能となっている。
スマホのスペックが上がったからこそ実現できた技術
なお、オブジェクトベースオーディオは基本的に再生側のハードウェアの負担が大きな技術で、再生機側でレンダリングする360 Reality Audioも例外ではない。特にオブジェクトの数がもっとも多いレベル3では、最大24オブジェクトをレンダリングし、13chのスピーカーに対してHRTF(頭部伝達関数)を左右の耳用に合計で26ch計算するという膨大な処理をリアルタイムで行なうことになる。
ただ、これも処理レベルとしては現在のスマホのミドルクラス程度のスペックから対応可能な程度。ある意味、そうした再生側(スマホ)の環境が整ってきたからこそ360 Reality Audioは発表可能となった技術とも言える。
ソニーは業界内に360 Reality Audioの制作、配信、再生まで、一気通貫のシステムを提供。ライセンスの認証をする訳ではなく、オープンなサウンフォドーマットとしてエコシステムを構築していこうというのがソニーの狙いだ。
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