Office 365の連携でシングルサインオンを実現
2つめのセッションは、システムコンサルタント 萩澤佑樹氏による「Office 365との実践的な連携パターン」だ。Office 365とkintoneを併用している顧客は多いそうだが、情報が体系的にまとまっておらず、もったいない状況だったという。
「サイボウズは真新しいサービスと連携するのはみんな好きなんですけど、ないと困るサービスが意外となかったりするんです。そこを私たちが拾いました」(萩澤氏)
Office 365とkintoneを連携させる際のニーズとしては、ID/パスワード管理やユーザー管理の負荷を軽減したり、アプリ間のデータ連係といったものがあった。これらの課題をいろいろな手法で解決する方法を紹介してくれた。
ID/パスワード管理を簡単にするためには、シングルサインオンを実現した。Office 365にサインインすれば、kintoneでは認証しないようにしたのだ。サインインしていない状態でkintoneを開くと、Office 365にリダイレクトとされる。これで、複数のアカウント情報を管理する必要がなくなった。
ユーザー情報の連携は、Active Directoryユーザー情報を引き出してきて、cybozu.comのユーザーに同期するツールを用意した。このツールをJavaの実行し、スケジュールを設定するだけでいいのだ。ちなみに、このツールはcybozu developer networkで公開されている。
kintoneとOutlook間でのデータ連携は3つの方式が紹介された。
「kintoneはSFAやCRMとして使われ、Office 365はグループウェアとして使われることがあります。そういった場合に、kintoneの情報とOutlookのメールやカレンダーを連携させたいというニーズがありました」(萩澤氏)
さぁ、JavaScriptカスタマイズかと思いきや、そうではないという。kintoneからOutlookに行くのか、Outlookからkintoneに行くのかとか、リアルタイム処理が求められるのか、求められないのか。バッチ処理でいいのか。プログラミングをするのかしないのか、など、実現方式はたくさんあるという。
kintoneのデータをOutlookの予定表に登録するなら、Microsoft Flowのkintoneコネクタを利用できる。レコードを更新/削除したり、ステータスの変更、レコードコメントの追加などをトリガーとして動作を設定できるのだ。
「kintoneからOutlookのメールを送受信するなら、JavaScriptでカスタマイズします。あらかじめ、Azure ADからアクセストークンを取得し、マイクロソフトのGraph APIにリクエストしに行くのがポイントです。kintoneからメールを送れるということが実現できます」(萩澤氏)
Outlookの中にkintoneのデータを表示するなら、Outlook側の話になるが、ここで使うOutlookアドインも開発しているそう。Outlookのアドイン開発も、kintoneのカスタマイズ開発と同じようなスキルでいいとのこと。この内容もcybozu developer networkで紹介されている。
紙社会の病院でWeb化を提案
最後のセッションはシステムコンサルタント兼病院事務部 総務課 野田慎也氏による「紙社会の病院にウェブ化の波を提案してみた」という内容。開発者目線というよりは、どちらかというとユーザー導入事例という切り口で紹介してくれた。
「実は本業があります」と野田氏。兵庫県にある100床未満規模の病院で、総務課長兼医事課長を務めており、副業で週1回サイボウズの関西SCに勤務している。
医療福祉業界共通のIT事情として、書類はとりあえず紙で、ITリテラシが低く、院内の連絡手段はPHS、極めつけは外部との連絡手段は電話とFAXといった問題点が挙げられた。そこで野田氏は全部kintoneを使えば解決するのでは、と考えたのだ。
「当初、コストの問題がクリアできませんでした。100人くらい職員がいるんですが、コミュニケーション基盤としての用途では1ユーザー1500円というコストがNGでした。それで、「ここりんく」というサービスの形で、電子カルテ連携を行ってくれて、経営指標を可視化できますよということでOKが出ました」(野田氏)
「ここりんく」はシステムクレオが開発している病院経営改善グループウェアで、経営者向けのダッシュボードのようなアプリとTODOリスト、PDCAサイクルを回すアプリなどが用意されている。競合となるような専用ソフトは数百万~数千万するが、「ここりんく」はkintoneベースなので比較的安く抑えられたという。しかも、kintoneなので、野田氏の目論見通り、そのほかのアプリも使い放題となる。
従来は、電子カルテから手動で引き出したデータをエクセルで集計して経営指標を抽出していた。医療機器の管理台帳もすべて紙かエクセルだったそう。それが、kintoneと「ここりんく」を導入したことで、自動で電子カルテサーバーとkintoneが連携し、その日に行った診療行為や検査の件数を取り込み、リアルタイムに前日の売り上げなどを確認できるようになった。さらに、毎月作成していたエクセル資料作りが、「これ見てください」で終わるようになった。導入効果は大きかったと野田氏。
病院に導入したところ、kintoneのUIはすんなり受け入れられたそう。ただし、50代60代のドクターやナースの中には老眼の人がいて、見えないという意見はもらった。「kintoneは全体的に色が薄く、コントラストがはっきりしてないので、この辺が見えないよと言われて悩みました。そこで、老眼用プラグインを導入して、文字が太字になったり赤くなったりするようにしました」(野田氏)
業界課題の、紙からの脱却とITリテラシーの向上は実現したので、今後は院内・院外コミュニケーション基盤としての利用拡大を目指していきたいと締めてくれた。
1コマで3つのセッションが行なわれたので、少し駆け足のところも多く、それぞれじっくり聞いてみたい内容だった。もうプラットフォームとしてできあがっているイメージのあるkintoneだが、細かい部分では今でも進化し続けていることを再認識。今でも機能追加要請が何千件もあるというのだから驚きだ。いろいろと勉強になったセッションだった。
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