いま、一番食べるべきかつ丼
かつ丼にトマトとチーズってどうなんだ、という意見はごもっともである。ぶっちゃけ、見た目もそれほどパッとしない気さえする。いかにもチェーン店(の一部店舗)が考えた思いつきのオリジナルメニューです、という風情が濃厚だ。
しかし、これが580円で売っていていいのだろうか、という完成度に達しているのだから、驚くべきことである。正直、「何度も試作を繰り返し、ついにこの味にたどり着いた」という雰囲気はない。マーケティングの分析し綿密に計算されたものというより、単なるラッキーパンチなのではないか、たまたまこの完成度になってしまっただけではないか、という思いもなくはない。ただ、そんなことはどうでもいいと感じさせる、絶妙なまとまり具合のかつ丼である。
これよりおいしいかつ丼はない、とは言わないものの、「600円以内で、都内で食べられる最高のかつ丼は?」と聞かれたら、いや、かつ丼に限らず丼メニューのすべてを視野に入れても、間違いなく、富士そばのトマトチーズかつ丼を挙げる。アスキーグルメを担当している人間として、太鼓判を押したい。
……でも、ヒットする予感がしないんですよ
でも……これ、売れているのだろうか。自分は職業柄、当たりでも外れでもネタにできるだろう精神で食べたけれど、進んでトマトチーズかつ丼を注文しようとする人はそれほど多くないのではないかと不安だ。
作曲家のイーゴリ・ストラヴィンスキーが1959年に来日した際に、NHKのアーカイブで武満徹の「弦楽のためのレクイエム」を聴き、「intense(厳しい)」と評価したのがきっかけで、武満の評価は国内外で大きく上がっていった……という伝説がある。トマトチーズかつ丼が「intense」かどうかはともかく、こういうエピソードがほしい。ビッグネームがこのメニューを評価してくれないかと切に願う。
Image from Amazon.co.jp |
武満徹作品集 |
そうしなければ、キワモノだと勘違いされてすぐにも消えてしまいそうな佇まいなのだ。もったいない……。メディア側の人間として、この和洋折衷の四次元殺法コンビみたいなかつ丼の知名度向上に少しでも貢献したいと考え、本記事を書いている。
富士そばは店舗ごとにオリジナルメニューがあり、このように予期せぬ出会いもある。2018年の3月には、下北沢店の「かつ丼大盛+カレー+豚肉」という「よくばりコンボ」がネットで話題になった。あなたの近くの店舗にも、思わぬ大当たりがひそんでいるかもしれない。
富士そば 市ヶ谷五番町店のトマトチーズかつ丼、だまされたと思って食べてみてください。絶対にあなたの想像よりウマい。自分も最初は「だまされた」と思って半笑いで食べたのですから。2018年、(よい意味で)一番びっくりしたチェーン店のメニューかもしれない。マジで全店舗で展開したほうがよいです。ほんとうに。お願いします。
モーダル小嶋
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。ショートコラム「MCコジマのカルチャー編集後記」ASCII倶楽部で好評連載中!
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