ガイアックスのスタートアップ支援事業で生まれたメンヘラテクノロジーのCEOを務めるらんらんこと高桑蘭佳さん。自らの研究対象や起業の目的につねに彼氏がいるという高桑さんに、自身のモチベーションやスタートアップ起業の経緯について聞いた。
極私的な願望から生まれたテクノロジー活用の模索
高桑蘭佳さんは東京工業大学の大学院1年。これまでAIを使った自然言語処理を研究してきたが、そのテーマには、つねに自分の知見を広げてくれた社会人の「彼氏」が中心にいた。
「ライターの仕事もやっていたので、ネタとして『彼氏を束縛するAIを作ってみた』とか、『LINEの相手がおじさんか、女子なのか分析する』といった記事を上げてました。卒業研究も『Twitter上の彼氏宛のリプライを抽出して、親密度を分析する』といったテーマ。もともと彼氏にすごく依存していて、束縛したいという願望が強かったので、セキュリティ分野で攻撃者側に立ってみたら、こういう研究もありかなと思って」
「世の中を変えたい」「グローバルで戦いたい」「既存のビジネスを変革したい」。そんなメッセージが飛び交うスタートアップ業界の中で、高桑さんが抱える課題感は「彼氏との良好な関係をいかにつくるか」という極めて私的なもの。人類滅亡の危機に際して、世界か、彼氏かを選ぶときが来たら、高桑さんはあまり迷わず彼氏を選ぶタイプだ。しかし、その極私的な願望は、コミュニケーションをいかにコントロールするかというテーマに行き着いている。
「彼氏に対して、私が不満に思っていること、不安に感じていることを、どうやって解決するかに関心があります。彼氏は私じゃないので、私の気持ちを100%理解できません。でも、メンヘラって他者と自分の境界線があいまいな人が過剰に相手に期待したり、察しすぎることで病んでしまうことが多いんです。それをいかに改善していくかというテーマが根本にあります」
その1つの手段として注目しているのが、自身がチャレンジしているAIだ。AIを使えば、普通の人間がやっている言語よりもきちんと内容を伝達できるかもしれない。より高い解像度で相手に伝えられるかもしれない。これが高桑さんの仮説だ。
「修士論文も感情が含まれてしまう文章をいかにニュートラルにするかというテーマでやる予定です。もちろん、ビデオや音声などいろいろなメディアをまたいで研究できれば面白いんでしょうけど、私はとにかくテキストや言語という点からアプローチしたいと思います」
メンヘラを救いたいというより、自分を救いたい
そんな高桑さんは今年ガイアックスのスタートアップ支援事業である「スタートアップスタジオ」に応募し、見事法人設立の権利を勝ち取った。そこで生まれたのが現在CEOを務めている「メンヘラテクノロジー」である。
「もともと今すぐ起業したいと思っていたわけでなく、就活の途中でガイアックスさんを知って、インターンプログラムのつもりで参加しました。ここらへんはWantedlyにも書いているのですが、イベント制作会社の社長をしている彼氏を束縛するためには、私が仕事に入ってしまうのが一番早い。だったら、彼氏の会社の社外取締役になろうと思って相談したら、その条件が事業立ち上げを経験することだったんです。だったら事業を興してみようと。言うてしまえば、しょうもない理由ですけど(笑)」
メンヘラテクノロジーという社名は、あこがれのメディアアーティストである市原えつこさんのコメントから生まれたという。
「事業やサービスがどんどん変わる可能性があるので、どちらかというと抽象的で、自分が将来的にやりたいことを表現したいと思ったら、束縛したい気持ちをAIでなんとかしようと思ったり、そもそも自分が病みやすいメンヘラであることに行き着いた。ヒステリックだし、落ち込みやすいし。将来的にはテクノロジーを使って、メンヘラを受け入れられるような状態を作りたい。メンヘラを救いたいというより、自分を救いたいという気持ちでこの社名になりました」
当然、メンヘラとは精神疾患を意味する表現だけに、物議をかもしがち。実際に炎上にもつながっているが、もちろん馬鹿にする意図はないという。
「私自身も実際に精神疾患と診断された辛い時期もあったし、今も経過観察ですけど、数ヶ月に1回は病院には行っているので、メンヘラへの理解はあるつもり。最近、気づいたんですけど、社会適合できるメンヘラとできないメンヘラがいると思っていて、私は部分的に前者。24時間365日ずっとは無理だけど、1日くらいだったら、こうして話したりもできます」
今の学生は社会のことがわからないで辛い
メンヘラテクノロジーは高桑さんが純粋にスタートアップの立ち上げを学びたいということで生まれた会社だ。そのため、これまでやってきたAI系とは直接関係なく、就活に特化することなく、女子学生と社会人を引き合わせるサービスだという。「出会い系」とか、「就活のパワハラ・セクハラを助長する」とか、いろいろやり玉に挙がっているが、サービスの発端はやはり自分や身の回りの人たちの課題があった。
「大学の中にずっといると、社会人とふれあう接点が少ない。だから、キャリアについて考えるきっかけがない女子学生が就活するときにいきなり病んだりするパターンが多いんです。実際に私も大学のときはしんどかったし、社会人の彼氏と出会って世界が拡がったという実感もあります。すごい人だけじゃなく、いろいろな人がいるのを知って、自分の居場所ってどこにでもあるんだよという安心感をもらえた。この体験をもっと拡げたいというのがサービス立ち上げのきっかけです」
ITイベントやコミュニティで学生の登壇を見るのが珍しくない記者としては、昔に比べて今の大学生ははるかに社会人に接する機会が多いように思えるが、長期インターンをしたことある学生はまだ1%に過ぎない。SNS等を使って社会人と積極的にふれあう学生もいるが、取り残されている学生も多いという。
「サービスを立ち上げるのにあたって、女子学生にいろいろインタビューしたんですが、まず情報が多すぎるのが1つ。意識の高い人が目立ってしまって、自分にはインターンなんて無理だよなみたいに自信を失ってしまう子もいます。妹がちょうどそんな感じで、普通に就活し始めて、社会のことがわからなくて辛いという状態になっています」
そういう意味では、ビジネスモデルというより、やはりマッチング精度が重要になってくる。単に優秀なサラリーマン、意識の高い社会人を学生に引き合わせるのが目的ではないという。
「まだ検証中なので、仮説の段階でしかないんですけど、優秀な社員みたいな人には会わせたくない。むしろちょっとダメな人くらいに会わせた方が意味はあるのかなと思ってます。これを社会人に言うと、社会人なめてるのかと言われるんけど(笑)、ちゃんとしてない人がいることは学生も知っておくべき事実だと思うんです」
研究もサービスも半径数メートルの課題感から生まれる
大学時代のAIの研究と女子学生と社会人の交流サービス。一見まったく関係なく見えて、共通するのは半径数メートルの課題感。自分だったり、彼氏だったり、友人や家族だったり、身の回りの人たちとの距離や生きづらさを解消するのが高桑さんのモチベーションになっている。
現在、メンヘラテクノロジーはガイアックスの支援を受け、同じ志を持つメンバーと新規事業の立ち上げを進めているシード状態。事業が立ち上がるかもしれないし、ピボットするかもしれないし、はたまた実施しないかもしれないという点でリーンスタートアップと言える。
「スタートアップスタジオとして起業することで、ある程度ロードマップは引いてもらえるし、目標も設定してもらえるし、検証方法が適切かどうかもチェックしてもらえる。実際に事業立ち上げした人たちがいっぱいいるので、そういった人たちのサポートを受けて、立ち上げや成長を学びたいというのが私の願望です」
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります