先週「楽しいは正義」をテーマにしたCybozu Days 2018が開催された。今回はカーニバルやサーカスをモチーフにしたようで、全体に楽しげな雰囲気がただよっていた会場は、中央に協賛各社の展示ブースが並び、それをとりまくようにセッション会場が配置されていた。各セッション個別のレポートは以後に掲載するとして、まずは会場全体の雰囲気と、展示ブースをめぐっていて感じたこと、目に留まった気になるサービスをお伝えしたい。
一輪車や竹馬に乗ったピエロが笑顔を振りまく異空間
ITの展示会と言えば、薄暗いか真っ白く明るいか、その両極端というイメージがある。明るさは異なれど、固く冷たい印象を受けるのはどちらも変わらない。今回のCybozu Daysは薄暗い方に属するが、固さや冷たさとは無縁だった。入口を入って最初に目に飛び込んでくるのは、サーカステントかバザールを思い起こさせる楽しげな全体装飾。
階段を降りて会場に足を踏み入れると、どこからともなく鐘や打楽器の音が響き、見上げるほど高い一輪車男や竹馬男とすれ違う。目が合うと帽子を傾けて挨拶してくれたりして、思わずこちらも笑顔になってしまう。Cybozu Days 2018の会場は、そんな不思議な空間だった。
「かゆいところに手が届く」というセリフを各ブースで聞く、その意味は
展示ブースを見て回っていて気になったのが、「kintoneのかゆいところに手が届くプラグイン/カスタマイズを提供しています」という言葉。「kintoneは、使い込んでいくと必ず『もう少しこうできればいいのに』という機能の壁に当たる」とはっきり言っている人もいた。筆者自身もkintoneユーザーであり、もっとこういう機能が充実していればいいのにと思うことは少なくない。
しかしこんなにもみんなが声を上げているのに、なぜCybozuはそれらの機能を実装しないのか。そう考えながらブースを巡っているうちに、いくつかのブースでヒントをもらうことができた。「kintoneで全部吸収してもいいんだろうけど、そうしたらここまでのエコシステムはできあがっていなかった」「みんなの要望を取り入れていたらSIerの活躍の場がなくなるし、機能盛りだくさんになってkintoneらしい使いやすさが薄れるだろう」。恐らく、kintoneは初心者が使いやすいように機能を絞り混んだまま進化し、個別に深堀したいユーザーに対してはSIerによる個別対応に任せてきたのだ。だからこそ、成熟といっていい年月を経た今もkintoneの利用開始ハードルは低いままだし、使い込んだユーザーを支えるためのエコシステムは拡大を続けている。
ちなみに展示ブースで多く聞いた話は、やはりカスタマイズ開発への対応。kintoneはもともとJavaScriptなどで自在にカスタマイズできるように作られているが、ノンプログラミングで業務を改善したいと思って導入した結果、プログラミング言語を学ばなければならないのであれば本末転倒。そこはプロに任せる方がいいと筆者も思う。「かゆいところ」がわかるところまで自分でやっているので、ゼロからシステム開発を依頼するよりずっと高いレベルからシステム開発をスタートできるはずだ。自分でアプリを作って業務改善につながれば良し、手の届かないかゆいところがあればSierを頼ってカスタマイズして使うも良し、というのがkintoneとそれを取り巻くエコシステムの魅力だ。
具体的な機能をパッケージにして提供している企業も多かった。これらは多くのユーザー企業から寄せられた「かゆいところ」に対応するものであり、それはつまりkintoneの苦手を補うものとも言える。複数社が提供しており、足を止める人も多かったのは、Dropboxやboxなどストレージサービスとの連携。筆者自身もkintoneユーザーなので気持ちはわかる。kintoneでは添付ファイルのサイズやそれを保存するクラウドストレージの容量がそれほど多くない。データを蓄積したり、大容量のファイルをやりとりする業務ではすぐに行き詰まるだろう。kintoneにもディスク増設オプションはあるが、ストレージサービスに特化したベンダーのように低価格で提供できるわけではない。餅は餅屋、ストレージが足りなければストレージサービスと連携すればいいのだ。
個人的注目は「クラユニ」、「リクシェア」とリコーの参入
気になるブースはいくつもあったが、それらをすべて紹介していたら連載になってしまうので、筆者が個人的に気になったトップ3を紹介したい。
まず紹介したいのは、ICTコミュニケーションズ。キンユニの愛称で親しまれるkintone向けの研修サービス「kintone University」を提供している企業だ。そのICTコミュニケーションズがサービスを拡大し、「Cloud University」の提供を始めた。Cloud Universityではkintoneだけではなく、サイボウズOfficeやGaroon、メールワイズなどのクラウド製品を幅広く扱っていく。面白いのはサイボウズ製品に限らず、それを活用するために便利なサードパーティ製品向けの研修も用意されていること。たとえばアールスリーインスティテュートが提供するkintoneカスタマイズサービス「gusuku Customine」向けの研修や、グレープシティが提供するプラグインkrew向けの研修も用意されている。幅広くなっただけではなく、より深く学びたいという要望にも応える。そしてここでも、サイボウズ製品を取り巻くエコシステムの横のつながりが生きていることを感じた。
次に紹介するのは、ノベルワークスの「リクシェア」だ。kintoneのかゆいところはカスタマイズで対応できるし、多くの人がかゆいと思っている部分にはプラグインを提供すれば解決する。しかし、多くの人がかゆい場所ってどこ? それをkintoneユーザー自身に問うというのが、リクシェアのコンセプトだ。kintoneを使っていて困ったことがあれば、リクエストとして投稿する。すでに同様の機能がリクエストされている場合には、「いいね」とSNSでシェア。いいねがたくさん集まると、ノベルワークスが対応プラグインを開発して製品として提供する。リクシェアで「いいね」を押してくれたユーザーは初期費用なしで使えるというメリットもある。
最後に紹介するブースは、製品そのものよりも「この企業が参入してきたのか」という点に衝撃を受けた。その企業は、ビジネス複合機で高いシェアを誇るリコー。複合機のメンテナンスで、全国に販売網を持ち、顧客との密接な関係から業務理解も深い。ユーザー企業の業務に精通した営業担当者がエンジニアと連携して提供する「リコーkintone支援センター」は、地方の中小企業にkintoneを広め、IT化を進めるかもしれないと期待される。業務にうまくITを取り込めていなかった地方企業にkintoneが広まれば、日本全体でIT化の底上げにつながるのではないか。そうなったらエコシステムもユーザーコミュニティもさらに広がるだろう、なんて夢を思い描いてしまうくらい、リコーの参入は筆者にとっては衝撃的だった。kintoneが複合機くらいに身近な存在になってくれるといいなあ。
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