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NetApp Insight 2018基調講演レポート

先駆者たちが語るデータドリブンなビジネスの価値と課題感

2018年10月25日 08時00分更新

 2018年10月22日~25日、ストレージベンダーのネットアップは年次イベント「NetApp Insight 2018」を米国ラスベガスで開催した。「データドリブン」をテーマにしたジョージ・クリアンCEOの基調講演は、製品やテクノロジーよりも、データのもたらす価値と課題感がテーマとなった。

NetApp Insight 2018の基調講演

データドリブンを追い風に成長基調に戻るネットアップ

 EMCがデルと統合されたことで、大手としては唯一の専業ストレージベンダーとなったネットアップ。25年前、「Data ONTAP」というストレージ専用OSをコアに据えたエンタープライズNASベンダーとしたスタートした同社だが、パブリッククラウドの台頭を経て、現在はジョージ・クリアンCEOの元、市場での生き残りをかけて大きなビジネス変革を進めている。

 このビジネス変革の中心となるのが、クラウド、オンプレミスを統合的に管理できる「Data Fabric」戦略になる。ハイブリッドIT・マルチクラウド環境で分散したデータをシンプルに統合するData Fabricにより、ビジネス価値につながるデータの適材適所での利用が可能になる。特にクラウド分野はパブリッククラウド上にData ONTAPストレージを展開できる「Cloud ONTAP」、AWSやAzureなどのパブリッククラウドとシームレスにデータを行き来させる「Cloud Volumes」、異なる環境で統合的な管理を実現する「Cloud Insight」など、さまざまなサービスを着実に拡充してきた。

イベント中、何度も目にすることになったData Fabricの概念図

 既存のハードウェアビジネスの縮小により、ネットアップにとってビジネス的にタフな状況が続いたのも事実だ。しかし、早くからクラウドの台頭を予測し、Data Fabricに邁進してきた結果として、その成果がいよいよ芽を吹き出しつつある。また、AIやIoT時代のガソリンとして、デジタルトランスフォーメーションの必須要素として、データ管理が企業の大きな課題となってきたのもストレージのエキスパートである同社のビジネスの追い風となっている。

 こうした中、開催された今回のNetApp Insight 2018では、「データドリブン(Be Data Driven)」をテーマに掲げ、成長基調に戻ったネットアップを印象づけるものとなった。23日の基調講演に登壇した米ネットアップ ジョージ・クリアンCEOは、今日デジタルトランスフォーメーションがビジネスの最重要課題になっていると指摘し、マーケットリーダーのうちデータドリブンな企業が年々増えていることを紹介した。データ駆動のデジタルビジネスは新たな顧客の獲得や収益の増大、運用の効率などを実現するという。

米ネットアップ ジョージ・クリアン CEO

 こうしたデータドリブンな企業になるための条件として、クリアン氏は「デジタルトランスフォーメーションにはITの変革が必要」「スピードこそが新しい尺度」「ハイブリッド・マルチクラウドこそITアーキテクチャのデファクト」「データセンターからデータファブリックへの移行」という4つの視点が必要になると説明。その上で、ネットアップのオールフラッシュアレイやストレージOSの実績、ハイパースケーラーのクラウド事業者から選ばれたテクノロジーパートナーであることをアピールし、「データドリブンな組織は世界を変えている。でも、多くのプロジェクトはビジネスの再定義や戦略から始まるのではなく、小さな一歩から始まるものだ」と聴衆に訴えた。

先駆者たちがが語るデータドリブンな企業のビジネス

 こうしたデータドリブンな企業として、今回登壇したのがネットアップ製品を古くから採用している映画会社のドリームワークスだ。来年に公開予定の「How to Train Your Dragon: The Hidden World(邦題:ヒックとドラゴン3)」の予告編が流れた後に登壇したドリームワークスアニメーションのケイト・スワンボーグ氏は、「ここに出てくる雲1つ、水の一滴、主人公の毛の1本にいたるまですべてコンピューターによって作られている」と語る。

米ドリームワークスアニメーション Technology Communication and Strategic Alliance Senior Vice President ケイト・スワンボーグ氏

 1つのシーンが何万ものフレームで作られるCGアニメ映画は1本あたりのファイルの数が数億に上る。しかも、こうしたCGアニメ映画を同社は1年に2本並行して作るため、ファイルはどんどん増えているという。こうした膨大なファイルを管理し、パブリッククラウドと連携し、どこからでもアクセスできる基盤として利用されているのがネットアップのData Fabricだ。

 スワンボーグ氏は「われわれはネットアップの単なる顧客ではなく、いっしょにエンジニアリングしており、リアルタイムのコンテンツクリエーション環境をクリエイターに提供し、もっと生産性を上げるためのインフラを作っている」とネットアップの技術や人に対する厚い信頼感をアピール。クリアン氏も「ドリームワークスの想像力をファイアウォールやデータセンターから解き放つことができた」と応じる。

 一方、後半にゲストとして登壇したのは、ライフサイエンス会社のWuXi NextCODEのHAKON GUDBJANSSON氏だ。パブリッククラウドやオンプレミスでシームレスにデータボリュームを扱えるCloud Volumesを導入したWuXi NextCODEは世界最大級のゲノムデータベースを保有しており、遺伝子データと経過的な個人情報を掛け合わせた検証を製薬に活かしている。データベースは利用するためのAPIやAIサービスと統合され、クラウド上で展開されている。

WuXi NextCODE CIO HAKON GUDBJANSSON氏

 GUDBJANSSON氏は、昔は人の遺伝子配列を解析するのに10年かかったが、コンピューターの処理能力の向上や解析手法の改善で、今では数時間で実現できるという。「2025年のゲノムデータの総容量がYouTube動画の20倍にあたる40EBに拡大する」とのことで、ゲノムデータは膨大。しかし、このビッグデータと個人の臨床データを掛け合わせることで、創薬や薬のターゲットの特定、高価な臨床試験前のトライ&エラー、副作用の検査に役立てることができるという。

増え続けるゲノムデータはYouTubeと比べても膨大なサイズになる

 もちろん、こうしたサービスを実現するにはパワフルなファイルシステムが必要で、まさにこれがネットアップに依存する理由だという。WuXi NextCODEはネットアップのCloud VolumesをAWS上で利用しており、従来は時間がかかりすぎていた全ゲノムから変異した細胞を探すというクエリを45分以内で行なえるようになったという。「ファイルシステムのスケーリングは簡単ではないが、Cloud Volumesを使えば、複雑さを軽減することができ、管理の負荷を減らすデプロイをパブリッククラウド上で行なえる」はGUDBJANSSON氏と語る。

無制限に進化するテクノロジーをどう取り入れるのか?

 興味深かったは、データドリブンにアクセルをかけるユーザーのみならず、懸念を持ちかけるゲストもきちんと登壇したこと。90分の基調講演のうち、約30分を費やしてデータドリブンの可能性とともにテクノロジーとのつきあい方に警鐘を鳴らしたのはフューチャーエージェンシーCEOのゲルト・レオンハルト(Gerd Leonhard)氏だ。数々の著作を持つレオンハード氏は、ウォールストリートジャーナルから未来を予想するリーダーと呼ばれる著名人だ。

フューチャーエージェンシーCEO ゲルト・レオンハルト氏

 冒頭、レオンハルト氏は、「人類はこの20年で、過去300年よりも大きな変化を遂げることになる」と指摘。すでにスマホが脳の代わりになり、現実がVRやARで拡張され、今後はロボットが当たり前の存在になっていく。「トム・クルーズの『マイノリティレポート』のように、データの中に入って、1000倍近くのスピードで仕事するのが普通になってくる。SFがフィクションではなく、事実になっていく」とレオンハルト氏は語る。

 こうしたテクノロジーにおいて、データは新しい石油、AIは新しい電気、IoTは新しい神経になり、62兆円の経済効果を生み出すという。「AIやコグニティブを定義すれば、いわばデータをナレッジにするもの。もはやコンピューターはプログラミングの必要がない。コンピューターは学習する機械になる」とレオンハルト氏は語る。とはいえ、ナレッジをいくら溜めても、人間のような理解は難しい。「IBM Watsonは1分間に120万ページを読めるけど、哲学の本をいくら読ませても哲学者にはなれない」(レオンハルト氏)というわけだ。

データは新しい石油、AIは新しい電気、IoTは新しい神経

 AIによりデータはナレッジとなり、コンピューターやロボットが人間の作業を代替する近未来。しかし、こうした新しいテクノロジー産業にはさまざまな副作用がある。レオンハルト氏は、「テクノロジーは道徳的に中立である」というウイリアム・ギブソン氏のコメントを引き合いに出し、「アルコールと同じで、テクノロジーも取り入れ方が重要。YES or Noではなく、バランスである。無制限に進化するテクノロジーを人間らしいやり方で使わなければならない」と警鐘を鳴らす。

 こうしたテクノロジーとのつきあい方を考えるのがガートナーが2019年のホットトピックとして掲げる「デジタル倫理(Digital Ethics)」だ。「人類の幸福のためにどのようにテクノロジーを使えばよいのか、ヨーロッパで委員会を立ち上げ、われわれも日々考えている」(レオンハルト氏)。その上で、フェイクニュースやデータのセキュリティに問題を抱えるFacebookを例に挙げ、倫理的に正しいかどうかを特定の事業者に依存する恐怖をアピールした。実際、レオンハルト氏は4ヶ月前にFacebookをやめたという。

 レオンハルト氏は、テクノロジーの取り入れる上で、今後は機械ができること、人間ができることを考え続けなければならないと強調する。計算能力を高め続けるコンピューターに対し、睡眠しないと働き続けられない人間は効率からはほど遠い存在。しかし、機械に任せられる「ルーティン」を、終わらせられる判断ができるのは人間しかいない。「Amazon.comのジェフ・ベゾスはデータを信じているデータドリブンな人物だが、重大な決断はアナリスティックではなく、直感、ハート、ガッツでしていると言っている」というレオンハルト氏は、将来子どもたちが学ぶべきは倫理、イノベーション、クリエイテビティと指摘。「われわれはテクノロジーを取り入れても、テクノロジーになってはいけない」という著書の一文を披露して、講演を終えた。

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