週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

No Maps 2018で開催のセッション「空撮が引き出す地域観光のポテンシャル」

ドローンを生かしきれていない日本 北海道空撮事情から見える潜在能力

 地域の美しい風景を伝える観光プロモーションの手法として、ドローンを使った空撮が注目を集めている。セッション「空撮が引き出す地域観光のポテンシャル」では、ドローングラファの伊藤広大氏、北海道放送北海道放送編成局メディア戦略部長兼「北海道ドローン紀行」プロデュ―サー 山岡英二氏、様似町商工観光課長 原田卓見氏が登壇。司会は、No Maps実行委員会 事務局長 廣瀬岳史氏が務め、クリエーター、メディア、自治体の3者の立場から、空撮による地域プロモーションの可能性についてそれぞれの思いを語った。

 まずは上記のYouTube映像を見てほしい。伊藤氏が制作した「ODYSSEY」は、北海道の名付け親、松浦武四郎が辿った北海道160ヵ所のうちの140ヵ所を空撮した作品。「北海道150年記念式典」のオープニングで上映された。

 ドローングラファーの伊藤広大氏が、北海道でのドローン空撮を始めたのは約1年前。地元の宗谷地方を撮影した作品が「Japan Drone 2018」のグランプリと審査員特別賞を受賞したのをきっかけに、北海道150年記念式典でのオープニング映像「ODYSSEY」の制作を手掛けることとなった。9月6日の北海道胆振東部地震を受け、何か北海道に貢献できることはないか、と海外のコンテストや映画祭に応募したところ、数々の賞を受賞、いくつかの映画祭からも声がかかっているそうだ。「公開してたった1ヵ月でこれだけの反響があった。ドローン映像は北海道を世界に知らしめるきっかけになるのでは」と伊藤氏は期待する。

ドローングラファーの伊藤広大(ひろき)氏

世界では高評価、しかし日本の映画祭ではドローン撮影禁止という現状

 伊藤氏によると、ドローン撮影の魅力は、「3次元の躍動感と鳥目線の神秘性に満ちた、ダイナミックな映像が創れること。とくに自然の景観表現には相性が抜群にいい」と語る。しかし、日本国内の映画祭などでは、ドローン空撮作品がなぜか禁止されている場合が少なくない。

 国内でのドローン空撮の価値を証明するためにも、伊藤氏は、世界的なコンテストへの応募や、道内の空撮映像をGoogleやバイドゥ、SNSなどにロケーション情報に紐づけて登録するなど、情報発信のツールとしての利活用を進めている。

 ドローン空撮そのものをどう扱うかの課題はテレビメディアにもある。北海道放送(HBC)でも、2018年7月から1分間のドローン映像の番組「北海道ドローン紀行」をスタートさせたばかり。しかし、国内の放送局でドローン専門の番組を放送しているのは、HBCのほか、鹿児島「かごしまドローンTRIP」と読売テレビ「ドローン絶景紀行~空を旅しません?」の3番組だけで、ドローンに特化した番組はまだ少数だ。

 「放送局がドローンを使う理由は、ヘリで撮影するよりもコストが安いから。ドローンの特性、映像の質の違いを理解できていない」と山岡氏は指摘する。

北海道放送北海道放送編成局メディア戦略部長兼「北海道ドローン紀行」プロデュ―サー 山岡英二氏

「ドローンネットワーク」でコンテンツの充実と撮影者の育成に取り組む

 メディアでのドローンコンテンツが増えづらい要因として、撮影スタッフの不足が挙げられる。国内でドローン空撮をするには、安全に飛ばすための操縦スキル、撮影地の許可や申請の知識が必要だ。放送局が自社で撮影スタッフを養成するには時間や人材のコストがかかる。そこで山岡氏が提案するのが、一般の視聴者に広く撮影協力を募る「ドローンネットワーク」の形成だ。

 これまでも災害時には、ネットやSNSに投稿された個人の映像を提供してもらうことがあったが、これを平時にも広げ、各地の映像を撮影してもらう形だ。

 「いまは個人が手軽にウェブやSNSに発信できる時代。個人がつくった映像とメディアが独自に製作したものをうまく融合させることで、コンテンツにも深みが出せるのではないか」と、ドローンパイロットらと連携し、ネットワークづくりを模索しているそうだ。

安全性を確保しながらドローン空撮を可能にする環境づくり

 続いては空撮コンテンツの活用について。北海道の様似町は、2015年にユネスコ世界ジオパークに認定された「アポイ岳ジオパーク」を観光資源としての活用に取り組んでいる。こうした隆起や浸食によってつくられた自然の地形を理解するには、地形をなめるような映像が撮れるドローンに空撮は非常に有効だ。

 その一方で、ドローンの空撮には落下事故などの不安がある。アポイ岳のような自然保護区域にはとくに厳しい規制がかけられており、自治体は撮影を規制する方向へ傾きやすい。原田氏は、「安全性を担保しつつ、撮影しやすい環境を整備することが必要かもしれない」と、自治体としての課題を提示した。

様似町商工観光課長 原田卓見氏

ドローン空撮による観光プロモーションを進めていくために必要な条件

 現在、国内でドローングラファーとして活動している人は少なく、クリエーターの育成も課題だ。

 また、HBCなどメディアが媒介となり、YouTubeなどから優れた作品の発掘・紹介、ドローン撮影講習会の開講など、クリエーターの育成をサポートする活動も進めていきたいという。

 自然を撮ることは、都市部での撮影とは環境が大きく異なる。事故や自然破壊を起こさないために、ドローンの操縦や撮影技術に加えて、登山のスキルや気候、自然保護の最低限の知識も必要になる。事故が起きた場合の保障や保険の制度なども必要だろう。自治体側の環境づくりとしては、ドローン撮影に適した場所へ案内するノウハウの蓄積や人材教育、地元住人への理解を得るための情報提供などが求められる。

 北海道には豊富な自然資源があり、撮影地としてのポテンシャルは高い。この素材を生かし、発信していくため、技術とリテラシーをあわせて学べる場を北海道の中に作っていくことが重要だ。No Mapsでも道内の高校でのドローン教育などを計画しており、ドローン人材の育成をしかけていくとのこと。ドローンで北海道の観光がどのように変わっていくのか。次回のNo Mapsでの報告が楽しみだ。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この特集の記事