モバイル、無線、有線問わずネットワークにつながることはもはや「当たり前」。大事なことはその基盤を活用し、ユーザーにどのような「体験」を提供していくかだ――。
米HPEの一部門であるAruba Networks(Aruba)は、2018年9月4日から6日にかけて、アジア太平洋地域の顧客・パートナー向けカンファレンス「Aruba Atomsphere 2018 APAC」を開催した。その基調講演において、Arubaの創業者で会長を務めるキールティ・メルコート(Keerti Melkote)氏は、たびたび「Experience」(体験)というキーワードを強調し、単なる製品やサービスではなく、体験を提供するプラットフォームを実現することが同社の役割だと語った。
Arubaは、無線LANアクセスポイントとそのコントローラを軸に、有線ネットワークなど幅広いネットワークソリューションを長年にわたって提供してきた。近年は、クラウドを活用した一元管理機能「Aruba Central」や、企業向けセキュリティ製品群「Aruba 360 Secure Fabric」など、より包括的なソリューションを提供している。
だがメルコート氏によると、差別化ポイントは技術だけではないという。同氏は、豆という「製品」やコーヒーの配達といった「サービス」を超えた「体験」を提供することで成功を収めたスターバックスコーヒーを例に取り、ユーザーにとって大切で、激しい競争の中で高い価値を生み出すのは「体験」であると説明。プラットフォームもまた、技術的に優れた製品やサービスだけでなく、体験を提供していく基盤にならなければならないとした。
このプラットフォームはスマートかつデジタル化されていることが不可欠な条件だ。だが、だからといってデジタルの世界だけで完結するものではない。Internet of Things(IoT)の普及を踏まえ、さまざまなデバイスやセンサーと連携しつつ物理的な世界との橋渡しを行うことで、よりよい経験を提供できると同氏は説明した。
好みや意図に応じて最適な環境を実現する「スマート・デジタル・ワークスペース」
メルコート氏が一例としてあげたのが「スマート・デジタル・ワークスペース」だ。
「テレカンファレンスを行なうときには、会議室に行ってPCをつないでいろいろ設定し、つながるのを待ってカンファレンスIDを設定し……という具合に、実際に会議を始めるまで数分、時には十数分もの時間がかかり、ストレスが溜まるものだ」と同氏。これに対し、スマート・デジタル・ワークスペースが実現できれば、会議室の予約と連動して会議用のアプリはもちろん、マイクやスピーカーといった必要な機器の設定までが自動的に行われ、時間が来たら速やかに打ち合わせを行えるという。
といっても、すでに時間や場所を問わない新しい働き方の実現を目指すソリューションは多々あるし、テレビ会議の自動設定もその気になれば容易に実現できそうなものだ。だが、Arubaのアジア太平洋地域担当CTO、アモル・ミトラ(Amol Mitra)氏は「リモートワークはスマート・デジタル・ワークプレイスの一側面に過ぎない」と述べ、Arubaの提案するソリューションのポイントを説明した。
1つは、無線LANアクセスポイントやビーコンからオフィス内の詳細な位置情報を把握し、ユーザーの居場所を把握した上で必要な設定を実現できることだ。大きなオフィスならば、たくさん並ぶ会議室の中から自分が予約した部屋までの道案内も行なえる。また、デジタルの領域だけでなく、スマートライトやスマートデスクといったさまざまなデバイスや什器類とも連携できる。自分好みの明るさ、自分好みの椅子の高さを調整し、物理的な環境についても最適化し、よりよい居心地を提供する仕組みを実現していくという。
「つまり、個人のニーズに合わせてパーソナライズされた体験を可能にするのがスマート・デジタル・ワークプレイスだ。いつでもどこでも働けるだけでなく、よりインテリジェントにすることで、生産性、効率性を向上させる」(ミトラ氏)
ただ、そんな環境を実現するには、堅牢で高速なネットワークインフラの存在が大前提だ。さらに他にもいくつかの条件が必要となる。Mitra氏は「5つの『S』が必要だと考えている。Scalability、Speed、Security、それにSkypeのようなユニファイドコミュニケーション、そしてSmartであることだ」と述べた。
特にポイントとなるのはスマートの「S」だ。ネットワーク機器から得られる情報を基にユーザーの意図を判断し、今何が必要か、何が重要かを判断。その結果に基づいて、重要なセッションを優先するQoSを動的に適用するといった制御がシームレスに行えれば、ユーザーはストレスを感じることなく、快適にサービスを利用し続けることができる。Arubaではネットワークトラフィックを収集し、バックエンドで機械学習(ML)や人工知能(AI)を活用して解析を行うことで、そんなスマートなネットワークを実現していくという。
普段はシンガポールで働いているミトラ氏。シンガポールといえば政府が無線LANを整備しており、接続性という意味では申し分のない環境だ。けれど「サンタクララにいけばテスラが使え、テスラの中を私のワークスペースとして利用できる。オフィスから出て、テスラの中でテレカンしながら帰宅するといったことも可能だ。電話をかけるのと似ているように思えるけれど、オフィスと車、家をまたいでシームレスにコミュニケーションができるというのは全く異なる体験だ」同氏は述べ、ただ「つながる」という段階を超えた新たな体験を提供していきたいとした。
ちなみに、Arubaが世界15カ国で7000人を対象に行なったデジタルワークプレイスに関する調査結果によると、デジタルツールの導入が進んだ職場で働く従業員の仕事の満足度は、そうでない職場に比べて高く、生産性向上を実感している割合も73%に上ったという。
ユーザー視点で「快適に使えているか」をモニタリング
Arubaではこうしたプラットフォームを一般的な企業のオフィスだけでなく、医療機関や学校、店舗、ホテル、工場、あるいは自治体などさまざまな分野に提供し、ユーザー体験の向上につなげていく狙いだ。そのため、802.11ad標準に準拠したアクセスポイントの提供だけでなく、クラウド側からソフトウェアベースで拠点側WANならびにLANの制御が行える「SD-Branch」など、さまざまなソリューションを提供していくとした。
新たにポートフォリオに加わったのが、南アフリカのCAPE Networksのソリューションだ。2018年3月の買収によってラインナップに加わった。
これまでArubaが提供してきた「Netinsight」などの製品はネットワーク視点で遅延や性能といったサービスレベルを確認するものだったが、CAPE Networksはユーザー視点で「快適に使えているか、否か」をモニタリングし、サービスレベルを保証する。センサーをネットワークに追加すると、TCP/IPやDNSの状況だけでなく、その上でOffice 365やGoogle Appsといったクラウドサービス、あるいは自社独自のアプリケーションを快適に利用できてるかどうかを計測し、人の顔をかたどったアイコンで表示する。もし満足いくレベルに達していない場合は、Netinsightと連携してより適切なネットワークパスを探し、設定変更が必要ならば提案する……といったことも可能になるかもしれない。
こうした自社のラインナップにパートナー各社のソリューションを組み合わせることで、「セキュアでスマートかつシンプルな体験プラットフォームを実現し、顧客のビジネスを支援していく。物理とデジタル、エッジとクラウドを橋渡しし、よりよい体験を作り出し、ひいてはビジネスバリューを作り出していく」とメルコート氏は基調講演を締めくくった。
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