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日本のパッケージベンダーはクラウド戦略をまだ迷っている

クラウドに行く企業、クラウドをやめる企業、それぞれの事情

2018年09月06日 07時00分更新

 先週、パブリッククラウドを導入するサイボウズと、パブリッククラウドをやめて自社データセンターに戻したDropboxという、まさに対称的な2つの記事を掲出した。記事の希少価値という点でDropboxの記事の方が関心が高かったのだが、行くか戻るか正直迷っているというユーザーの心持ちが見えて興味深かった。

サイボウズもDropboxも、選択の理由は「サービスの強さ」

 8月29日に掲出した「kintone.comのAWS移行プロジェクトが狙う全員参加のDevOpsQA」は、北米のkintone.comをAWSで構築するプロジェクトを披露したCybozu Meetupのレポートになる。

 サイボウズのクラウドサービスであるcybozu.comは2011年のサービス開始当初から自社データセンターで運用してきたが、北米でのkintone.comは2019年からAWS上の運用に切り替える。単に基盤をAWSに入れ替えるだけではなく、自社データセンターでの機材の制約やレガシー資産を一掃しつつ、コンテナを全面的に導入。あらゆるロールのメンバーを集めてプロジェクトを構成し、開発・運用・テストまでをDevOps化していくというチャレンジ精神にあふれたプロジェクトだ。北米でいち早くリリースされる最新のAWSサービスをプロダクション環境で使えるという点も、エンジニア魂を振るわせるようだ。イベントでは「全員集めてモブプロ」「CIの過程でVPCを削除して毎日作り直し」「サービスを管理するサービスを開発」など先進的な取り組みも披露され、参加者の強い関心を惹いていた。

 サイボウズは以前からグローバル展開を標榜しており、今回の北米でのkintone.comもこうした動きの1つと言える。日本とまったく異なったブランディングを展開している北米のkintone.comだが、今回はシステム自体もクラウドネイティブ化し、草刈場になりつつあるノーコード・ローコードの市場に食い込んでいこうという強い意思が感じられた。サービスを強くするための積極的なクラウド採用という文脈だ。

 一方、8月31日に掲出した「AWSをやめたDropbox、自社DCに移行した背景とメリットを語る」はAWSをやめて、自社データセンターに戻したDropboxの発表会記事だ。パブリッククラウドへの移行はこの数年の潮流とも言えるので、AWSをやめたという事例はさすがにレア。読者の関心も非常に高く、技術系レポートにしては異例のPVを得ることができた。

 Dropboxも自社サービスを強化するためにAWSをやめている。発表会では、エクサバイトクラスに膨らんだデータの効率的な運用や高い性能、セキュリティを実現すべく、自社データセンターに独自のストレージシステムを構築し、ネットワークまで自分で張り巡らせた同社の工夫の一端が伺えた。

 ご存じの通り、クラウドストレージの分野は競争が熾烈だ。マイクロソフトやグーグルのようなクラウド事業者はインフラ領域でのスケーラビリティがあるため、DropboxやBoxのような独立系事業者はより強力な差別化要素が必要になる。WebサービスにおいてAWSのようなパブリッククラウドを使うのが当たり前となってきたからこそ、汎用的なスペックのサービスを目指すよりも、インフラまで自社でという話になったわけだ。クラウドの酸いも甘いも知った上で、コストをかけて物理レイヤーから差別化する道を選んだのは思い切った決断だが、市場での生き残りを考えれば、ある意味必然かもしれない。

クラウド戦略に悩み続けるパッケージベンダーを垣間見る

 従来からのパッケージを提供している事業者にとっても、クラウド戦略はビジネスの根幹を決める重要な選択になる。でも、サイボウズのようにきちんと方向性を決定できる事業者はいまだに少数。そんなことを思い立った出来事が最近身の回りで起こっている。実は奥さんの仕事の関係で不動産賃貸管理ソフトについて相談を受けているのだが、職業柄カタログや見積もりを見るかぎり、事業者のクラウドへの迷いが見て取れてしまったのだ。

 大手のA社はパッケージ版なので、基本はオンプレミス。見積もりにはHPのサーバーとパッケージのライセンス料(買取)、保守費用などが並ぶ。データセンターにサーバーを置くプランも用意されているが、基本はパッケージがそのままサーバーに乗っかっているようで、運用の負荷もそのままだ。ブラウザもIE対応のみなので、今後の開発計画がやや気になる。

 一方のB社もパッケージ版で、こちらも基本はオンプレミスだが、AWSを使ったクラウド版がある。一応、「クラウドなので、データもセキュリティも安全」という記載があり、後ろ向きではなさそう。とはいえ、こちらはリモートデスクトップを用い、アプリケーションの画面をユーザーのマシンに転送する方式らしい。AWSを単純な仮想サーバーとして用いているだけなので、表向きはクラウドらしさに欠ける。

 まだまだ紙やFAXの多い不動産賃貸管理という市場だからかもしれないが、Webブラウザでアカウントを作成して、さくっと月額課金で利用できるというクラウドサービスは非常に少ない。おそらくクラウドのメリットを理解している業界関係者もまだまだ多くないのだろう。AWSが東京リージョンを開設して、すでに7年の歳月が過ぎ、クラウドがすっかりメジャーになったと思いつつ、一方ではクラウド化がまったく進まないレイトマジョリティだらけの業界もある。でも、これが実態。このギャップを理解しなければ、日本のクラウド導入について語れない。

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