2018年8月23日、サイボウズは第16回目となる勉強会「Cybozu Meetup」を開催。2019年初頭に向けて進行している北米向けkintoneのAWS移行プロジェクトの概要やAWSを選定した背景、クラウド移行による開発・運用体制の刷新まで語り尽くされた。
kintone.comを国内データセンターから引き離す「Yakumoプロジェクト」
イントロと乾杯の後、まずはサイボウズ グローバル開発本部長である佐藤鉄平氏が、社内で「Yakumoプロジェクト」と呼ばれるAWSへの移行プロジェクトについて説明を行なった。
サイボウズのクラウドサービスである「Cybozu.com」の提供開始は、今から7年前の2011年11月にさかのぼる。このときサイボウズ Office、Garoon、メールワイズなどサイボウズのパッケージ製品に加え、クラウドネイティブなサービスとして提供開始されたのがkintoneになる。ちなみにAWS東京リージョンの開設は2011年3月なので、当時はまだまだ日本でもクラウドの認知度は低かった。「正直まだAWSは使えないだろうという感覚」(佐藤氏)だったため、システムは国内データセンターを用いて構築したという。
そんなCybozu.comだが、すでにユーザーは100万人、契約社数も2万5000社を突破している。サービスを支えるサーバー台数は物理・仮想あわせて約1500台にまで膨らみ、データは800TiB、ログデータも170TiB、リクエスト数も3億/1日となった。こうして国内では安定した成長を実現したが、今後はkintone.comを北米市場を伸ばしていくためにはサービスを現地で提供する必要があった。とはいえ、海外で自社データセンターを調達・運営するのは大変なので、クラウドという選択になったという。
Cybozu.comには技術的な課題もあった。「確かに長らくデータセンターで運用してきたため、コスト面での投資は十分回収できている。しかし、同じ基盤にワークロードの異なるプロダクトが同居しているため、特定プロダクトにアーキテクチャを特化しにくいという課題があった」と佐藤氏。また、プロダクト間で依存関係のあるリソースは人手で調整する必要があった。さらに物理機材の制約もあるため、柔軟性も乏しく、デプロイスクリプトが複雑化するなど、長年のレガシーも蓄積されていたという。こうしたビジネス面・技術面の課題を一掃すべく、北米のkintone.comをIaaS化していくのが今回のYakumoプロジェクトになる。
AWSとGCPで本当に迷った末、AWSに決定した理由
現在、北米ではkintoneのみを展開しているが、サービス提供は国内データセンターからだった。これをパブリッククラウドであるAWSに移行し、最新のコンテナやマネージドサービスをベースにシステムを刷新するのが、Yakumoプロジェクトの目的。販売管理システムはグローバルのSaaSを活用し、開発/運用/テストの体制も刷新するという。リリースは2019年初頭の予定で、現在は移行作業の真っ最中というステータスだ。
IaaS選定は2017年10~12月で行なわれ、利用実績のあったAWSとGCPを候補に進められた。担当と相談しながら、主要なコンポーネントをPoCで作った調査し、最終的にAWSに決定した。
AWSを選定したポイントの1つ目はAurora、Elasticsearch、SQS(Queue)、SES(Mail)、ElastCacheなどのAWSの各種マネージドサービスの存在だ。GCPもマネージドサービスはあったが、既存サービスがGAEに載らなかったという。また、今回は最初からkubernetesを採用するつもりだったため、2017年のAWS re:InventでKubernetes クラスターを容易に構築・管理できるAmazzon EKSが発表されたのはナイスタイミングだった。さらにエンタープライズ要件への対応も重要で、IAMのようなパワフルな権限管理機能が利用できるほか、準拠法を日本に設定できたり、各種のコンプライアンス規格に準拠している点も評価された。
とはいえ、GCPもグローバルネットワークが充実しているほか、コンテナ関連の技術やBigQueryのような解析系サービスは他社よりもリードしていたため、単純に「今回の案件に合わなかっただけ」だったという。コスト見積もりに関しても、「GCPは手組みが多く、AWSの方がマネージドサービスが多めなので単純な比較はできない」と断りつつ、総じてGCPの方が安めと評価する。佐藤氏も、「開発運用コストはマネージドサービスを使えるAWSの方が安かったが、Auroraさんはちょっとお高い」とコメントしており、最後まで迷ってはいたようだ。
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