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さいたまクリテは1日で30億円生み出す スポーツツーリズムの可能性

 スポーツ産業を大きくするため、とくに日本で展開が期待されているのが観光と組み合わせた「スポーツツーリズム」だ。Jリーグや大型イベント以外でも活用ができ、多くの企業、団体が関わり、インバウンドや地方創生にもつながる、スポーツツーリズムの仕組みとは? 早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授に話を聞いた。

早稲田大学スポーツ科学学術院 原田宗彦教授

――ご専門のスポーツツーリズムではどのような活動をされているのでしょうか?

 2008年に観光庁が設置されたことが後押しとなり、スポーツツーリズムが本格的に立ち上がりました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに参加する選手を対象に合宿を行うスポーツ合宿の誘致など、地方に人を動かそうという動きが活発になっています。スポーツは触媒としてとても魅力的なのです。

 2018年、日本は3200万人のインバウンド(国外から日本にくる観光客)を見込んでいますが、このうち4割がリピーターです。リピート率が高くなると、都会から地方に行く可能性が高くなり、一人当たりの消費高も高くなります。そこで、スポーツ庁では、2018年はアウトドアスポーツに注目しようという動きが高まっています。

 地方の中山間地域は人口減により過疎化しています。でも自然は豊かで、温泉があり郷土料理もある。そういうところにインバウンドを誘致しながら、衰退をどう防ぐか――国家的なミッションを帯びていると私は思っています。移住ではなく、観光客を呼び込むことで、経済の衰退を少しでも防ぐことができればいいと願っています。

 このような考え方は、人口減少と高齢化に悩む地方行政に受け入れられています。

 スポーツ庁にスポーツツーリズムの需要拡大のための官民連携協議会を作りましたが、グーグル、フェイスブック ジャパン、イオン、JAL、ANAなど14社が参加しています。スポーツで日本をどうやって救うかといった話をしており、スノーピークなども加わった面白い連携になっています。

 そういう官民連携の座組がたくさんできると良いと思います。我々は機会を捕まえてそういう情報を発信しており、企業の人も我々の研究会やセミナーに来るようになっています。徐々にいい形で歩み寄っていると感じています。

――地方はスポーツイベントを展開するためにどのようなことを行なっているのでしょう?

 各地にスポーツコミッションを作っています。例えばさいたま市のさいたまスポーツコミッションは、「ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」という自転車レースを誘致しています。今年で5年目になりますが、10万人が集まるイベントに成長しており、1日で経済効果は30億円レベルに達しています。このように各地にスポーツコミッションを作りながらさまざまなイベントを開催してもらっています。

「ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」※クリックでウェブサイトへ

 実は2020年東京オリンピックの期間中、キャンピングカーの予約が増えています。欧米の人などを中心に、キャンピングカーで日本中を周り、東京の決勝ラウンドに来たら高級ホテルに泊まるというルートを組んでいる人が多いからです。

 いっけんオリンピックとは関わりの少なく思える、オートキャンプの業界が恩恵を受けたりする、このようにインバウンドは今とても面白い分野です。国際的なスポーツイベントに合わせて、さまざまなことが起こるでしょう。

 アジアは若い市場で、中産階級が増えています。例えば東南アジアの平均年齢は29歳、日本は46.5歳です。若い人が多く、発展しています。これらの国の人たちは収入がある一定レベルに達すると、まず海外旅行をします。ここで日本は行きたい国ナンバー1に選ばれています。大きな市場を待っているんです。なんとかこの市場をアウトドアスポーツや武道などの新しいコンテンツでひきつけたいと思っています。残念ながら、野球やサッカーではない。プレミアリーグは毎年120万人の外国人が観戦しに来ますが、Jリーグはイギリスとは違うビジネスモデルでやっていく必要があるでしょう。

――インバウンドの取り込みで成功している地方自治体はあるのでしょうか?

 北海道ニセコは中国、マレーシア、オーストラリアと複数の国の資本が流れ込んでおり、地価上昇率は銀座を上回っています。

 ニセコは特殊な例ですが、キラリと光るイベントで成功しているところは沢山あります。スキーだと野沢温泉はすでに35%が外国人と言われています。日本のスキー人口は減少している中、成功しているところが出てきています。

 マラソンもあります。2006年の東京マラソン以降、フルマラソンの大会は急増しており、ハーフマラソン、スイーツランなどのファンランを入れると、マラソンのイベントだけで3000ぐらいあります。トライアスロンイベントも約300に達しています。

 例えば新潟シティマラソンなどを持つ新潟市は台湾に行き、展示会などでマラソンを売り込んでいます。台湾から100人ぐらいが来たり、新潟市が台湾に行ったりして交流が生まれています。これも新潟の文化スポーツコミッションが主導しています。

――スポーツへの関わり方がどこに発生するのか、またどういう組み合わせがあるのか、想像もしないような可能性がありそうですね。

 メガスポーツイベントの良いところは、開会式に合わせてさまざまなイベントが起こるという”調整”が可能になることです。例えば、AIは2020年のオリンピックでフォーカスされていますが、羽田空港に通訳ロボットがあちこちにいて外国の人が話しかけると回答するなどのことが実現しているかもしれません。開会式に合わせてテクノロジーの発展を引っ張るような効果がある一方で、その後どうするかという課題もあります。

 2020年のオリンピックの後は、2021年に関西でワールドマスターゲームズ(生涯スポーツの世界大会)、2026年、愛知でアジア競技大会があります。

 その後、ひょっとしたら北朝鮮、韓国、中国、日本の4国でのFIFAワールドカップが実現するかもしれません。FIFAワールドカップは2022年のカタール大会では32カ国、その後、2026年のアメリカ、メキシコ、カナダの共同開催では48カ国に出場国が拡大しています。

 アジアは今後スポーツビジネスの中心になるでしょう。中産階級が勃興しており、中国はちょっと余裕のある社会という意味の”小康社会”と言われています。習近平政権はウインタースポーツをはじめとしたスポーツ産業の育成に本腰を入れています。また、2016年にはスポーツツーリズムの発展に向けた指導意見を出しています。中国の場合、掛け声だけでなく実際に補助金を出しますから実現につながります。例えば、中国ではマラソン大会が急増しており、5年前は10程度だったのが、現在は100以上ともいわれています。

――プロのスポーツチームがある地方で、面白い事例はありますか?

 プロのバスケットリーグ(B.LEAGUE)の大阪エヴェッサの例を紹介しましょう。

 大阪エヴェッサは人材派遣、ヒューマンアカデミーなどの専門学校を展開するヒューマンプランニングが運営母体となっています。

 大阪・舞洲に、1997年の国体(第52回国民体育大会)の時に作った7000人収容のアリーナ(府民共済SUPERアリーナ)がありますが、大阪市はこれを手放すことにしました。引受先のヒューマンプランニングは購入はせず、大阪市よりアリーナ貸付事業者として10年間貸りることにしました。その際、大阪市は指定管理制度など面倒なことは言わず、年1000万円で自由に使って良しとしました。それまではそこを指定管理業社に出し、その裏にある球場を含めて年間1億円ぐらいの補助金を出していましたが、エヴェッサが入ってから黒字になりました。

 このように、エヴェッサがアリーナを使い、併設する球場はオリックス関連会社(大阪シティドーム)が練習場用に購入しました。これにより、約1億円大阪市に収入が入るようになったのです。エベッサは駐車場を増やして企業の運動会、有名な小学校の運動会などイベントをやり、2億4000万円を稼いだそうです。

 これから言えることは、やり方次第でビジネスになるということです。エンターテインメントビジネスに長けていたなどの要因はありますが、スタジアムはほぼ毎日のように使われているようです。

 アリーナビジネスは簡単ではありませんが、舞洲の場合はコンテンツホルダーが経営したからうまくいったし、バックに親会社があったのもよかった。どこでもできるわけではありませんが、やり方次第だと思います。

――スポンサー企業1社でチームが変わるということもあるのでしょうか?

 ジャパネットたかた(ジャパネットホールディングス)がV・ファーレン長崎のグラウンドを工場跡地に建築することを発表しました。ジャパネットたかたは、スポンサーだけでなくスタジアムから都市づくりまで考えています。このような取り組みが自分たちのビジネスに効果が出ると気がついたんでしょう。こういう事例が出てくると、地場企業が動くかもしれない。

 地方銀行がどう動くか――私は特にフィンテックと地方通貨に注目しています。地域の中でお金を循環させる仕組みを作らないと、外に出てしまいます。例えば高松では、地域通貨「めぐりん」を使っています。100円で1めぐりんマイルが貯まり、1マイル=1円で加盟店で利用できます。ご当地Waonを使っており、約500店舗が加盟しているそうです。ポイントは、180日間の期限があるので早く使わなければなりません。高松市で開催される「サンポート高松トライアスロン大会」にめぐりんの事務局も協賛しています。地方の中でお金が巡る仕組みとスポーツイベントを組み合わせた例といえます。

「わくわくめぐりん」※クリックでウェブサイトへ

 地銀も地域通貨を発行できます。例えばJリーグとフィンテックを組み合わせると面白いかもしれません。新しいベンチャー企業が入る可能性があります。

 このように、イノベーションはたくさん考えられます。やるかやらないか、気がつくか気がつかないか。その仕組みを誰が作るのか――若い人に期待したいですね。

原田宗彦教授(早稲田大学スポーツ科学学術院)

近影 原田宗彦教授

 1954年大阪生まれ。ペンシルバニア州立大学博士課程修了。鹿屋体育大学助手を経て大阪体育大学教授。フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)を経て現在は早稲田大学スポーツ科学学術院教授。役職として日本スポーツマネジメント学会会長、(一般社団法人)日本スポーツツーリズム推進機構代表理事、(公益社団法人)日本スポーツ健康産業団体連合副会長、日本トライアスロン連合顧問、Jリーグ参与等を務める。著書として「スポーツ産業論第6版」(編著)、「オリンピックマーケティング」(監訳)、「スポーツマーケティング改訂版」(共著)「スポーツ・ヘルスツーリズム」(編著)「スポーツイベントの経済学」(単著)「スポーツ都市戦略」(2016年度不動産協会賞受賞)他多数。

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