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あの名曲はなぜ感動するのか?

マキタスポーツ×スージー鈴木の“80年代歌謡曲愛”が本に!「こんな番組は他にない」

書籍「カセットテープ少年時代 80年代動揺曲解放区」を手にするマキタスポーツ(写真左)とスージー鈴木(写真右)

 歌手活動も行うマルチな才能の持ち主・マキタスポーツと、気鋭の音楽評論家・スージー鈴木が1980年代歌謡曲を熱く語らう番組「ザ・カセットテープ・ミュージック」(BS12トゥエルビ)が、6月1日に書籍化された。

 サザンオールスターズ、松任谷由実、松田聖子といった人気アーティストのあの名曲はなぜ感動するのか? などを、おもしろおかしく、時に涙まじりに解説する同番組。

 そんな、まるで学生のように盛り上がる二人に、番組と歌謡曲の魅力を聞いた。

小学校のころから兄貴とラジオごっこをやってて

番組ロゴのTシャツ姿で楽しそうに話す“音楽好きおじさん”二人

――本を拝見して、お二方の楽しそうな雰囲気が活字から伝わってくる一冊でした。

スージー:それはうれしいですね。しゃべり手冥利に尽きます。

マキタ:楽しいですよ。仕込みがそれなりに大変で、本番が楽しいという番組です。

スージー:仕込みもやり始めると止まらないんですよ。多分、山下達郎も「山下達郎のサンデー・ソングブック」(※1)の「棚からひとつかみ」(※2)で曲を選ぶ時は、こんな風に楽しんでるんじゃないかな(笑)。

(※1…山下達郎が出演するラジオ番組。TOKYO-FM系全国38局ネットで毎週日曜昼2:00~2:55に放送)
(※2…山下が、自身の所有するレコードコレクションから選曲する名物コーナー)

――お二人の息の合い方が絶妙だと思いました。

マキタ:僕には四つ上の兄貴がいて、スージーさんと同い年なんですよ。だからスージーさんが疑似兄貴みたいなところがあって。

スージー:マキタさんが番組でもお兄さんのことを何かとよく話題にするので、お兄さんはもう準レギュラーと言ってもいい存在ですね。

学生時代、最新の音楽情報は兄が教えてくれたと語るマキタスポーツ

マキタ:僕は小学校のころから、兄貴とラジオごっこをやってて。兄貴が「REOスピードワゴンで『In Your Letter』です」とかって曲を紹介したり、適当なおもしろはがきを読んだりして遊んでたの。

スージー:ああ、いい兄弟ですねえ。

マキタ:で、僕は何故か歌手の役で登場して、そこでプロモーションをさせられるっていう。「新曲があるようですね、では歌っていただきましょう」みたいなむちゃ振りをされて、僕がそれに応えて歌う、みたいなことをしてた。 兄貴がよくラジオを聴いてた人だから、僕よりも早く深夜放送とかで最新の音楽をキャッチして、それを僕に教えてくれるんです。その延長線上に今、この番組があるような気がしてるんですよね。

音楽で感動していることは、人に言ってはいけないと思っていた

――取り上げる歌手など、テーマはどのように決めているのですか?

スージー:プロデューサーとの合議ですね。制作陣が我々よりも少し若いので、そのズレもまた楽しいわけです。例えばザ・ブルーハーツに対する観点が違ったりするのも新鮮で。

マキタ:ザ・ブルーハーツは今の若い世代にも届いていて、本当に永遠の輝きを放ってる。おじさんだけのおもちゃじゃないんですよ!

――ブルーハーツ特集が近々控えているんですか?

スージー:いやー、これはやらなきゃいけないですね。山下達郎を特集した時もそうでしたが、「ああ、ついにやっちゃったなあ」「手を出しちゃったなあ」という気分になるとは思うんですけど。

マキタ:その罪悪感とセットって感覚、すげえ分かりますよ。僕はそもそも、音楽で感動するってことに、昔から罪の意識みたいなものがあったんですよ。人に言ってもあんまり理解してもらえないんだけど。音楽で感動してることは、人に言ってはいけないことのような気がして。

スージー:エロスですね。

マキタ:そうなんですよ。音楽を自分なりに習得していく中で、「この音のパターン超気持ちいい」って思ったりするんだけど、それは人に言えないという。

スージー:言えないですねえ。

マキタ:今日もザ・ブルーハーツの話から「夏のぬけがら」(※3)の話題になり、「ルーレット」(※4)の話が出てきたときに、涙がちょちょ切れてしまったりして。

(※3…1981年に発売された、ザ・ブルーハーツのメンバー・真島昌利のソロアルバム)
(※4…「夏のぬけがら」の収録曲)

スージー:(笑)。

マキタ:「ルーレット」の話をすると、感情が高ぶって「うわー!」ってなっちゃうんですよ。そんなことは大人として恥ずかしくて。今日多分、帰って布団に入った後に思い出して、「うわー恥ずかしい!」って頭を抱えると思います。でも、この番組ではそんな風になってもいい。音楽の話をしてもいい。ずっと溜め込んだものを大開放してるっていう番組なんですよね。

芸人のマキタスポーツに負けず劣らず、軽妙な語り口で歌謡曲を語るスージー鈴木

スージー:聴いてから30年経ってますから、もう言っていいんじゃないですかね。むしろ死ぬときに「ああ、『夏のぬけがら』の話をしなくて死んじゃうな」って後悔するなんてね、それはつまらない人生ですよ(笑)。

 ずっと昔から、ロッキング・オンの渋谷陽一さんだったり、音楽を深く洞察して、情念的に人生論で語る人たちっていうのが世の中にちょっとだけいて、あとのほとんどの人は「音楽なんて格好良けりゃいいじゃない」「楽しけりゃいいじゃない」で終わると思うんですけど、「それはそうなんだけど、それはもったいないやん」っていう。

 いろいろ分析して屁理屈こねたりして、そういう風に音楽を語ってみると“二度おいしい、三度おいしい”なんですよ。

 なぜ格好いいのか?と考えて、「(コードの)メジャーセブンスでこう見るとこういう共通項があったのか」「転調するとこんな印象があるのか」とかが見えてくるとね、音楽が二倍三倍にも楽しめる。なら、やったほうが面白いですよね。

マキタ:面白い。それをこの丑三つ時に解放してるっていうのが、密かな面白みのようでね、いいんですよ。おじさん二人が分析して、「ここが気持ちいいんですよ」「そうですよね、そこが気持ちいいんですよね」って言い合ってるっていう。こんな番組、他になかなかないですよ。

1980年代は“自給自足”を始めた時代

1980年代の“キラキラ感”の理由は「日本一億総中流時代」にあり?

――1980年代の歌謡曲は、なぜこんなにもキラキラしてると思いますか?

スージー:今の時代から比べると日本が経済的にまだ豊かで、みんなが中流だと思ってて…っていう、いわゆる経済的な豊かさは理由の一つにあるんじゃないですかね。と、この前、安全地帯の「ワインレッドの心」のイントロを聴いてそう思いました(笑)。

 ティ~ン♪ってあのイントロで当時のきらびやかな六本木が思い浮かぶのは、やっぱり「日本一億総中流時代」の輝きじゃないのかな。

マキタ:それに、日本自体が若かったんじゃない? 時代の空気感として、未来は明るい、開けてる、という雰囲気しかなかったんだよね。

スージー:若さは大きいでしょうね。当時の平均年齢は30代前半で、今や日本の平均年齢が46歳とか言いますからね。

 日本の音楽は、1970年代がアメリカとかイギリスのものを輸入していた時代だとすると、1980年代は“自給自足”を始めた時代なんですよ。チェッカーズの髪形に代表される、日本ならではの文化がスタートして、新しいものが生まれる活気に満ちていた。

マキタ:僕自身も当然若くて、物心ついた時には松田聖子がもう居たわけだけど、目が開いた時からキラキラしたものしか見ていないからね。

 僕は当時本当にプロレスが好きで、次のシリーズに出てくる新外国人選手はどんなのだろうとか、すごいワクワクしてたんだよ。別に「仮面ライダー」でもなんでもいいんだけど、次の強敵が出てくることのワクワク感ってあるじゃない。それと同じように、新たなアーティストが現れて、その人が作るアルバムとか、とにかく楽しみでしょうがなかったな。

 スージーさんが以前番組で、化粧品のコマーシャルソングの変遷について語ってくれたことがあったんだけど、化粧品のコマーシャルはまさに、次はどんな曲が来るのか、みたいなワクワク感があった。あれはまさに“ザ・80年代”でしたよね。

スージー:布施明の「君は薔薇より美しい」とか、渡辺真知子の「唇よ、熱く君を語れ」とか。今聞くとなんだか大げさなタイトルですよね(笑)。

マキタ:あの頃はタイアップが本当に盛り上がっていて。今の時代だと広告が絡むとすぐ「ステマでしょ?」とかすぐ言うでしょ。すぐ「オワコン」とか「劣化」とか言って、そうじゃないんだよと言いたい。

おじさんおばさんは頑張って目にルーペを当てて読んでください(笑)

「歌謡曲は日本の一つの財産」と語るマキタスポーツ

――今は長らくアイドルブームが続いていて、歌謡曲をカバーすることもよく見かけます。

マキタ:僕は今のアイドルにあんまり詳しくないんだけど、歌謡曲は一つの財産だから、それを今の子たちが歌うのも当然のことだと思う。ようやくそういう文化が貯まってきたってことだから。

 「上を向いて歩こう」を作曲した中村八大さんとかが和製のポップスってものをこしらえて、日本のスタンダードというものがちょっとずつ出てきた。そこから音楽の可能性がどんどん広がっていって、今の若い人たちが歌うのは当然でしょうと思う。 アメリカとかイギリスとかのアーティストって世代を超えてコラボレーションしたり、カバーとかしたりするでしょ。やっぱり本場は歴史が全然違うから。

 だから歌い継がれていくことはいいことだと思う。例えばワンヒットワンダーの柴田まゆみの曲を我々が紹介したりすることで、今のアイドルの子たちが歌ったりしたらいいよね。

スージー:僕もアイドルソングはあんまり得意じゃないんですけど、耳にする中で、昔の歌謡曲としても通用するクオリティーの曲ってありますよね。AKB48で言えば「ヘビーローテション」「恋するフォーチュンクッキー」「君はメロディー」とか。それにももいろクローバーの「行くぜっ!怪盗少女」は傑作中の傑作だと思いましたね。

 「ザ・カセットテープ・ミュージック」でもアイドルを作るっていうのはどうですかね(笑)。カセットガールのウメ子(河村唯)と、ふるまゆ(古橋舞悠)を。

マキタ:アイドルじゃないよそれ!(笑)

スージー:私が作詞して、マキタさんが作曲して。

マキタ:やろうと思えばそれはできるんだけどさ、ウメ子をアイドルでやるのか…。

スージー:我々がつんく♂のように、“スジ元康”として。

マキタ:“スジ元康”と“マキ藤次利”で? それ大丈夫かなぁ…(笑)。

――最後に、これから本を手に取る方へ向けてメッセージをお願いします。

スージー:若い方に向けて、この本を通して、1980年代のキラキラした感じをぜひ“体感”していただきたいです。古い音楽が一周して新しく聴こえるということはあって、僕らも1960年代の音楽を当時そう聴いたんですよ。日本のエイティーズのキラキラ感を、ぜひ体感してもらえればと思いますね。

マキタ:じゃ僕は、おじさんおばさんたちに向けて。脚注が充実してるので、頑張って目にルーペを当てて読んでください(笑)。

 細かい字のところに大事なことが書かれてたりするんですよ。なのでトーク本編を一通り読んだあとに脚注も見て、何度も味わっていただきたい。この本は必ず、レガシー化しますよ!

スージー:“劣化”じゃなくて、レガシー化ですね。

マキタ:ぜひとも読んでください!

終始、少年のように無邪気に語り続けたマキタスポーツとスージー鈴木

【リリース情報】
「カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区」
価格:本体1,389円+税
発売日:2018年6月1日
監修・協力:ザ・カセットテープ・ミュージック
監修・協力:マキタスポーツ、スージー鈴木

■目次
◆トーク再録<80年代歌謡曲ワード解説付き>
♪ A面に入れたいサザンの名曲
♪ 松田聖子の80年代名曲特集
♪ カセットテープ紅白歌合戦
♪ 深淵なる井上陽水の名曲
♪ 輝く!日本カセットテープ大賞
♪ 新春・佐野元春スペシャル
♪ 語られていないチェッカーズを語る
♪ 春の名曲フェア~スージーの春
♪ 春の名曲フェア~マキタの春
♪ 画期的!ユーミンのコード&メロディ―
◆特別企画・80年代名曲鼎談
清水ミチコ×マキタスポーツ×スージー鈴木
◆マキタ&スージー音楽体験史年表

【プロフィール】
マキタスポーツ
1970年1月25日生まれ。山梨県出身。ミュージシャン、芸人、俳優、コラムニストなど、活動は多岐にわたる。

スージー鈴木
1966年11月26日生まれ。大阪府出身。音楽評論家。著書に「サザンオールスターズ 1978-1985」「【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法」など。

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