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麻倉怜士が、RETISSA Displayを体験

夢の「網膜投影」にギークはもちろんAVマニアも注目すべき理由

2018年05月30日 11時00分更新

二次元スクリーンの束縛から離れると、新たな世界が見えてくる

 私はこれまでテレビやプロジェクターのように、目の前にある「二次元のスクリーン」を見て、どう感じるかという研究を30年近く続けてきました。

 テレビやプロジェクターはコンテンツを見るための機械です。そのコンテンツはテレビの中にありますが、私が夢見てきたのは機械を通さずに映画の世界そのものを見ることです。RETISSA Displayを体験して感じたのは、コンテンツを見ると言うよりも、その世界に一体化した自分がいること。その世界に行けそうな感覚が味わえたという点です。

 網膜に直接投影すると聞くと、少し危険な香りがありますが、この危険には2つの側面があります。1つは「安全性はどうなのだろうか」という点。もう一つは「危険という言葉の語感が持つセクシーな雰囲気」です。

 最初の部分、つまり誰もが気になる「レーザー光を直視して大丈夫なのか」という点については、インタビューでも触れている通り。部屋の中で見ている環境光やLED照明と同程度か弱いパワーであるということなので、きっと大丈夫でしょう。

映像にも背景にもピントが合う新しい感覚

 びっくりしたのは、ピントという概念を意識せずに済むことです。目で見る際には、レンズ(水晶体)を使ってピントを調整します。当然手前にあるものにフォーカスを当てれば後のものはぼけてしまいますし、逆もまた然りです。

 これまでの映像体験は、プロジェクターであれば何メートルか先、テレビでも1~2メートル離れた距離からスクリーンを見ています。スマートグラスのような製品でも距離が近いというだけで仕組みは同じです。必ず目のピント調節が必要になります。これが当たり前の概念としてあった。これがいらない世界と言うのはまったく新しい体験です。

 つまりデジタル映像=2次元の映像と我々の関係と言う概念を「根底から覆すデバイスである」とピント合わせ一つをとっても言える。

持ち出せば、映像のウォークマンになる

 映像を視聴しながら、後ろがちゃんと見えると言う点にも注目したいです。

 ウォークマンを思い出してください。ステレオの前に人間が来て音楽を聴くというのがそれまでの世界でした。ところがウォークマンはステレオそのものを人間と一緒に持ち出すことができるようにしました。単に持ち出しただけではなく、景色と一緒に楽しめるという新しいオーディオの楽しみを実現しました。

 このデバイスは、ビジュアルの面での新しいウォークマンだ。そんな感じがするのです。

 映画にふさわしい場面がきっと世の中にはある。その場所に行ったり、歩いたりしながら、その映画を楽しむ。そうすればこれまでとは全く違う新しいライブエンターテイメントができるでしょう。映像と周囲にある現実との間の関係性を根底から変える、そんな潜在能力を持っている機器だと思います。

 今のところは音を再生することができませんが、ここは自分の持っているBluetooth機器などを上手く活用していけばよい。発展の可能性は無限大で、ARだけでなくシアター用途でコンテンツを楽しむのもいいと思います。

レーザー光を見る色の良さはAVマニアとしても垂涎

 私がこのデバイスを最初に体験したのは、1月のCESでした。網膜に直接投影するなんて恐れ多いことをよくやったなぁと思っていたのですが、実際に体験してみると、展示会のように人で混雑した空間でも、熱帯魚の映像が際立っていました。後の情報量に負けないしっかりとした映像の表現力がある。これも凄いと思った部分です。

 これはレーザーの力でしょう。非常にはっきりしているし、RGBの発色と言う点でも申し分ない。スペクトラムも各色が立った理想的なものになっています。

 テレビで言えば最初にCRTが出て液晶になった。バックライトも陰極管からLEDに代わり色がどんどん改善していった。しかし最終的に望むのはやはりレーザーです。BT.2020という新放送規格がありますが、その目標は3色レーザー光の利用です。

 オーディオビジュアルの観点で言えば、現時点で3色レーザー光が見られるデバイスはありません。現時点で見られるレーザープロジェクターはすべて蛍光体を利用したものになっています。本グラスウエアは色の良さが体験できるデバイスなので、画質マニアはまずここから体験してみるのも良いかもしれません。そういう意味では、ギークやアーリーアダプターにすごく向いた製品と言えるかもしれません。

 もう一つ感心したのは、ロービジョンと言われる、視覚が弱い人に向けたソリューションを考えている点です。今13万人ほどいて、高齢化社会になるとこれがより一層増えると言われています。そういった人たちに失われたクリアーな映像を与える。会社として単純な新しいエンターテイメントを提供するだけでなく、社会的に必要なものとして、弱者を助けるといったところまで考えている。文字通りそこにフォーカスを当てたデバイスなのです。素晴らしいことだと思います。

 QDレーザでは最初に幅広いニーズに対応できるものを作り、強みをもつ人々の力を借りながら、用途に合わせてより深く掘り下げていくアプローチを取っています。ユーザーが参加しながら、新しい世界が広がっていく今風の開発手法も興味深いですね。将来の応用にも大いに期待したいです。

(麻倉怜士 談)

RETISSA Displayの先行販売が決定

※販売や予約方法の詳細は後日、ASCII.jpおよびアスキーストアで告知いたします。

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