含蓄だらけの事例が次々と披露されるkintone hive nagoyaの後半戦はアイクスグループの山口高志氏のセッションからスタート。「ホワイトカラーの生産性をkintoneで管理する」というセッションは、担当件数を5倍に拡大したkintoneによる生産性管理とデータ収集のこだわりが披露された。
複数担当制の導入で担当件数を一気に増やす
アイクスグループは静岡に本社を置く士業グループで、税理士、社労士、行政書士など約120人のスタッフが在席している。静岡本社のほか、東京、大阪、鳥取(米子)、沖縄(石垣島)などに支社があり、このうち鳥取と沖縄は受注した業務の作業を行なう拠点となる。
今回登壇した山口高志氏は、2005年にアイクスグループに入社し、一貫して社内システムを担当。「会計事務所に13年間在籍しながら、一度も会計処理をしたことない、生粋のシステム屋」と自己紹介した山口氏だが、BPO支援部の部長として同業の会計事務所や顧問先企業にBPOのコンサルティングや受託を行なっているという。
会計事務所は、帳簿作成や税務処理を代行したり、訪問して経営の相談を行なっている。以前、アイクスグループでは一人あたりの担当件数が20~30件で限界となっていたが、現在では120~130件まで抱えられるようになった。この背景には、分業という仕組みがあるという。
従来の会計事務所では一人ですべての作業を行なっていた。製造業で言ういわゆる「セル生産方式」と言えるだろう。しかし、前述した会計処理、税務処理、訪問作業までを一人でこなしていたため、どうしても抱えられる件数に限界が生じていたのだ。
そのためアイクスグループでは、それぞれの業務を複数担当で分業することにしたという。「従来はお客様に対して担当を付けるというスタイルでしたが、これを工程に対して担当を付けるというスタイルに変革していった」(山口氏)とのことで、ライン生産方式に切り替えた。そして、この複数担当制を実現するために必要な情報共有に活用されたのが、サイボウズのkintoneだ。
ホワイトカラーの生産性をいかに数値化していくか?
現場の業務リーダーではなく、情シスである山口氏にとって、kintoneの直感的なアプリ作成はきわめて容易だった。簡単にアプリができるため、さまざまな管理表が生まれたという。
たとえば、横軸に工程、縦軸に担当者を割り当てた管理表を見れば、工程単位で作業の進捗を見ることができるという。分業スタイルの同社では、担当者はこの管理表を見ながら、未割り当ての作業を能動的にとってくることで仕事が進められる。「最初にお客様の担当を決めるという業務の仕組みから、終わっていない作業がこれだけあるから、何人担当を割り当てようという計画的な生産ができるようになった。これによって従来に比べて飛躍的に高い生産性を実現できるようになった」と山口氏はアピールする。
一方で、別の問題も発生した。従来は誰がどの仕事をやるか決まっていたので、業務は均等に割り振られていたが、工程に対して仕事を割り当てている今は、誰がどこをやるのか決まっていないので、業務量に差が出てしまうのだ。「手が早い人、仕事をやってくれる方は、業務が増えますが、手が遅い人、やらない人は業務が増えない」(山口氏)ということで現場で不公平感が現れたという。
これを解決するため、アイクスグループではkintoneでホワイトカラーの生産性を数値化することにチャレンジした。具体的には各工程ごとにかかる「標準時間」を定義し、1分=1ポイントとして付与する「業務ポイント(GP)」という制度を展開した。「たとえば、申告書の作成という業務には180という業務ポイントが割り当てられているが、これは180分でやってほしいという意味」(山口氏)だという。管理表で未割り当ての仕事を担当し、「保存」ボタンを押すことで集計が走り、業務ポイントが付与されるという。
工程と業務ポイントをリアルタイムにkintoneで集計することで、誰がどの作業をやっているのか数値化できるようになった。他の担当の数値や業務が可視化されると、もう少しがんばろうというモチベーションが生まれる。「仕事が速い人は業務ポイントが稼げるので、高く評価される。若手はゲーム感覚で仕事をとっていくようになった。上から仕事が割り当てられるのではなく、自ら仕事をとっていくというスタイルに変化した」と山口氏は振り返る。業務ポイントが高い業務は難易度も高いが、難易度の低い仕事を数こなしてポイントを稼ぐことも可能になるという。
業務ポイントで数値化を進めることで、生産性向上の指標にもなった。つまり、前年度よりも業務ポイントが高ければ、生産性が高まったと捉えられるわけだ。「事務職の生産性は測りにくいと言われるが、われわれはkintoneを使って業務ポイントという形で数値化し、業務を楽しむことができるようになった」と山口氏は語る。
徹底的にこだわったkintoneへのデータ収集
一連の生産性の数値化施策でもっとも重要なのは、「どうすればkintoneにデータを集めることができるか?」だ。最後、山口氏はkintoneにデータを集めるための3つの手法を披露した。
まずは作業の入り口を押さえるため、kintoneにリンクすること。「みなさんも最初に起動するアプリやアドレスがあると思います。われわれもお客様の住所や連絡先を調べるため、サイボウズのGaroonのアドレス帳を開きます」と山口氏は語る。そこでみんなが最初に見るGaroonにkintoneのレコードや表示したいページへのリンクを張り、kintoneに誘導している。
また、物理デバイスからのリンクはQRコードが活用されている。「アイクスグループの資産にはすべてQRコードが張られており、これをスマホで読み込めば、kintoneの資産管理アプリに飛ぶようになっている」とのこと。管理している機材が故障した場合は、kintoneに飛んで、コメントを入れればよいわけだ。「入り口を工夫することで、kintoneに情報を集めやすい環境を実現できます」(山口氏)。
業務フローにおいてkintoneをスタート地点にするのにも腐心した。「管理表って業務のゴールになってることってないですかね。でも、本来管理表は業務のスタート地点であるべき。管理表を見て、作業して、また管理表に戻ってくるという循環を作っていくことが重要」と山口氏は語る。そこで、アイクスでは管理表から顧客ごとの作業フォルダーを開くスクリプトを設置しており、管理表>作業>管理表の循環を実現しているという。
さらにデータエントリもアナログとデジタルのハイブリッドで進めている。「弊社の代表はシステムだけですべて実現しようと思うなとつねづね言っています。どんなにkintoneで優れた帳票ができても、エントリしてくれなければ意味がない」とデータエントリにも配慮した。具体的には、営業が手書きで記載した面談シートの入力を総務が代行する。ここでもQRコードが活用されており、収集した営業シートのQRコードをスマホで読み取ると、該当顧客のkintoneサイトが開くので、総務は営業の代わりにデータを入力できるという。
このようにアイクスではkintoneに徹底的にデータを集め、それを数値化して分析する仕組みを運用している。セッションを終えた山口氏に対し、サイボウズの伊佐氏は「活用のアイデアが目から鱗ですね」とコメント。業務ポイントについて聞かれた山口氏は、「平等を目指しているのではなく、均等という名の不平等を目指している。がんばっている人が評価され、がんばっている人を見て次の世代が育つことを期待している」と背景にある思想を説明。また、業務の精度について何度もチェックが入るため、速くてもミスが多い人は結果的に時間がかかるという。テクノロジーの活用だけでなく、制度の運用に関しても工夫が凝らされたアイクスの活用事例は、参加者に大きな刺激を与えたようだ。
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