マウスコンピューターの「DAIV」シリーズは、クリエイター向けパソコンだ。今回試用した「DAIV-NG7620S1-SH5」は、DAIVシリーズのノートPCの中でもハイエンドに位置するモデルで、17.3型と大画面ディスプレーを採用している。CPUはデスクトップ向けのCore i7-8700を、GPUにはGeForce GTX 1080を搭載。デスクトップパソコン並みの性能を内包したノートだ。
ディスプレーは大きくて観やすいだけでなく、4K(3840x2160ドット)での表示が可能、また単に高解像度なだけではなく、AdobeRGB比100%の色再現性能があり、実用性も兼ね備えている。高解像度でAdobeRGB比100%に近い表示性能のディスプレーはいくらでもあるが、据え置き型のデスクトップやディスプレーではその場所でしか作業できず、移動するにしても中々の作業量になる。しかし、ノートなら話は別だ。もちろん手軽とはいい切れない大きさと重さはあるが、それでもロケや外のスタジオなど、移動先でも確実な色のチェックが可能で、どこでも本格的な作業ができる。
前回はDAIV-NG7620S1-SH5の性能を知るためにベンチマークソフトを使って計測し、実力を存分に確認できた。そこで今回は、もう少し実作業を進めながら性能の確認をしていく。
私はカメラマンのため、やはり気になるのはレタッチソフトである「Photoshop」とデジカメで撮影したデータの現像処理などを作業する「Lightroom」での使用感だ。これは個人的な感想でもあるが、Photoshopでの作業は実はそれほど早いCPUは必要なく、最近のCPUならCore i5でも十分な処理能力はある。それならPhotoshopでの作業に高性能なパソコンは必要ないのかといわれるとそうでもなく、早いCPUであるのに越したことはない。
ただ、それよりも重要なのはメモリーの搭載量とストレージへの書き込み速度、そしてGPUによるフィルターやレタッチ時のプレビューの速さだ。メモリーの搭載量はそのまま処理能力の速さに繋がり、少ないとすぐに仮想メモリーがストレージを使いはじめて遅くなるほか、フィルターの機能や色、明るさの補正時に、プレビューで確認しながら作業すると、GPUの処理能力次第で効率が大きく変わってくる。
DAIV-NG7620S1-SH5は標準で16GBメモリーが搭載されており、64GBまでの強化も可能になっている。多ければ多いほうがいいのだが、標準の16GBでも2400万画素程度のデジカメのデータがベースになっていれば、16bitPSD方式で保存しつつ10枚程度のレイヤーを重ねても作業に支障はない。
Lightroomで大量に現像処理を実施する場合、SSDとHDDで速度に大きな差が出る
ストレージは標準でM.2(SATAIII)で接続された512GB SSDと、1TB HDDが搭載されている。カスタマイズでは最大4基のストレージを内蔵可能になっており、SSDを2つ、HDDを2つ搭載できる。また、SSDはSATAIIIとNVMe接続が選択可能なので、より高性能な構成を求めるならチェックしたほうがよい。
まずは、SATAIII接続のSSDとHDDをCrystalDiskMarkで計測チェックをしてみた。
とはいえ、CrystalDiskMarkの結果だけみても、SSDがHDDよりも格段に速いというのが確認できるだけ。そこで、Photoshopでデータを別名保存するときの時間を計測して、SSDとHDDでは作業にどれくらい影響が出るのかを確認した。
2400万画素のデジカメのデータは6000×4000ピクセルのサイズがあって、16bitのPSDデータで保存すると、1枚あたり約100MB強になる。これにレイヤーを10枚くらい重ねると1.2GBくらいのデータになるが、今回はこのファイルを別名で保存するのにかかる時間を計測。SSDが約1分12秒、HDDへの保存も約1分12秒と変わらないのがわかった。
ちなみにこのファイル、エクスプローラーで普通にコピーしてペーストして複製すると、コピー中のが出る間もなく一瞬で終了する。つまりPhotoshopの書き出し処理に時間がかかってるだけで、ストレージの記録性能にはほぼ影響がないということだ。Photoshopの場合は1枚単位で処理を実施するため、より大きなファイルになると差が出る可能性もあるが、普通の複製が一瞬で終わる速度を持つストレージで1分以上も時間がかかるというのは、Photoshop側の問題だと考えられる。
そこで、Lightroomを使って大量に現像処理を実施して書き出した場合の差を確認してみよう。2400万画素のデジカメで撮影したRAWデータを500枚、ホワイトバランスと最低限のシャープネス処理、レンズ補正と、一番ベーシックな処理を行い、SSDのとHDDにJPEGとPSD16bitで書き出してみた。
500枚のRAWデータをJPEG(最高画質)で書き出す場合、SSDへだと約10分11秒、HDDだと約30分から45分前後かかった。また、PSD16bitで書き出したところ、SSDへだと約10分16秒、HDDだと約45分から1時間程度となった。
PhotoshopではSSDとHDDとで大きな差はなかったが、Lightroomでの処理ではかなりの差が確認できた。ファイルを変えたりして数回計測したが、HDDへの書き出しはばらつきがあって1時間以上かかる場合もあった。スクリーンショットに写っているタスクマネージャーの動作を確認すると、SSDへの保存はCPUもSSDもがんばっている感じが伝わってくる。メモリーもかなり使ってファンも全開で回転していたので、能力をかなり駆使していたのだろう。
しかし、HDDへの保存では処理を開始した直後にファンが忙しく回り始め、CPUの使用率も100%まで上がったが、わずか数秒程度でCPUの動作は落ち着き、たまに思い出したかのように数秒だけ100%くらいまで上がってはまた下がっての繰り返しになった。HDDのアクセス(Dドライブ)は常時100%まで上がっているので、書き込みはがんばっているようだが、メモリーの使用率もSSDより低くCPUは余裕で動作していた。
Lightroomでは、HDDへの書き込みに対する処理にはなにかしらのバイアスがかかるのか、もしくはHDDへの保存というのがそもそも一大事なのか、単純なストレージのベンチよりも差が出ているので只事ではないのはわかる。
なお、書き出したJPEG500枚とPSD16bit500枚のファイルは、それぞれの総容量がJPEGが約5.8GB、PSD16bitが約50GBになっている。このPSD16bit500枚、約50GBのファイルをSSDからHDDへコピーするのにかかる時間は約12分くらいなので、HDDに直接書き出すよりもSSDへ書き出してからHDDへコピーしたほうが断然早い。
内蔵ストレージのSSDとHDDは、作業内容によってはかなりの差が出てくるので使い方には気をつけたほうがいい。Photoshopでは気にしなくてもよいが、Lightroomでの書き出しは基本的にSSDで実施するほうが効率がよくなる。どんな作業をするかによるが、作業環境はSSDに置いておき、HDDは基本的にバックアップとして使用するのがいいだろう。
Thunderbolt3対応のUSB 3.1端子を搭載
UHS-II対応のカードリーダーも魅力
DAIV-NG7620S1-SH5には外部インターフェースに10Gbpsでの転送が可能なUSB3.1Type-Cが2つ備わっている点にも注目だ。USB3.0の2倍の転送速度があるため、外部バックアップにも安心だ。また、片方のType-CはThunderbolt3にも対応。Thunderbolt3対応の外部ストレージを接続すれば、USB3.0の8倍、最大転送速度40Gbpsでの転送も可能になっている。さすがにレイドシステムを組んだ外部ストレージが必要になってくるが、動画ファイルなどの大きなファイルをあつかうような人には便利だろう。
DAIV-NG7620S1-SH5でもう1つ気に入っているのは、カードリーダーがUHS-IIに対応している点だ。最近はデジカメのデータも大きく、とくに動画が撮れるようになってからはデジカメの記録メディアからパソコンにコピーするだけでもかなりの時間がかかる。記録メディアをUHS-IIにしても、受け取る側が対応していなければ意味がない。今回は、ノーマルのメディアとUHS-II対応メディアでのコピー時間を計測してみた。
左がUHS-IIに対応したSanDiskのExtreme Pro、右がUHS-Iに対応したExtream。ともにClass10に対応しているが、表記されている転送スピードは大きな差がある。簡単にメディアにかかれている表記の説明をすると、一番大きな数字が容量で両方32GBになっている。その斜め上の「SDHC」はSDカードの種類で、主にサイズによるフォーマットの違いだ。一般にSDカードというのは2GBまででフォーマットがFAT16、SDHCは4GBから32GBまではフォーマットがFAT32になっている。64GBから2TBまではフォーマットがexFATになっており、SDXCカードと呼ばれる。
容量の上に、Proは「300MB/s」、金色のほうは「90MB/s」と表記されており、こちらは最大転送速度で、読み取りの速度となる。右のカードのSDHC表記の右に「V30」と書かれているのはビデオスピードクラス、でV30という30MB/秒に対応しているという意味。その下にはUの中に3と書かれているのがUHSスピードクラスの表記で、30MB/秒対応を表している。その左のCの中に10と書かれているのは単純なスピードクラスで10MB/秒対応となる。
SDカードの規格は後から色々追加されているため、速さの表記1つとっても色々な表記があってごちゃごちゃしているが、今回注目すべきなのはSDHCと書かれている部分の、左のカードは「II」、右のカードは「I」と表記されているところ。ここがUHSの 部分で左のカードはUHS-IIに対応、右のカードはUHS-1に対応しているという意味になる。
今回はデジカメで撮影した500枚のRAWデータを用意してUHS-I対応カードとUHS-II対応可カードでそれぞれSSDとHDDへコピーする時間を計測した。500枚のRAWファイルは、総容量約11.7GBほどある。
UHS-II対応カードからSSDへのコピーは、ほぼ180MB/秒、HDDへのコピーはほぼ90MB/秒程度。UHS-I対応カードからSSDへはほぼ80MB/秒、HDDへはほぼ70MB/秒くらいの速度でコピーされた。UHS-IIとUHS-Iのカードでは転送速度にだいたい倍の差が出てくる。今回は静止画で撮影したファイルだったので時間は短いが、これが動画で長時間撮影したデータがたくさんある場合、コピーだけでもかなりの時間を要するので、改めてUHS-II対応カードの重要性が確認できた。
DAIV-NG7620S1-SH5は、基本スペックは十分過ぎてノートパソコンで作業しているという感じがしない。本体サイズやACアダプターの大きさがネックで、気軽には持ち運べない。しかし、デスクトップ並みの性能を持ち運べると考えると、仕事で必要となればもっていかない手はない。
17.3型というサイズは作業するにも十分なサイズがあり、業務でほかの人に見せなければいけないような場合でも、十分に説得力のある大きさだろう。どこでも本格的な作業ができて仕上がりまでつくれる貴重なノートパソコンだ。
試用機の主なスペック | |
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機種名 | DAIV-NG7620S1-SH5 |
CPU | Core i7-8700(3.2GHz) |
グラフィックス | GeForce GTX 1080(8GB GDDR5) |
メモリー | 16GB |
ストレージ | 512GB SSD(M.2/Sereal ATAⅢ接続)、1TB HDD |
ディスプレー | 17.3型(3840×2160ドット)、ノングレア |
内蔵ドライブ | ー |
通信規格 | 有線LAN(1000BASE-T)、無線LAN(IEEE 802.11a/b/g/n/ac)、Bluetooth 4.2 |
インターフェース | USB 3.1端子、USB 3.1(Thunderbolt 3)端子、USB 3.0端子×4、HDMI端子、Mini DisplayPort、ヘッドフォン出力端子、マイク入力端子、ラインイン端子、ラインアウト端子、SDカードスロットなど |
サイズ/重量 | およそ幅417×奥行295×高さ41.9~43.2mm/約4.4kg |
OS | Windows 10 Home(64bit) |
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