もっと「アトモスって!!」とダメだし
ドルビーアトモスの利点は大きく2点ある。
ひとつが天井にもスピーカーを設置することで床を除いた5つの面すべてから音が鳴ること。もうひとつがオブジェクトベースオーディオだ。従来と同じチャンネルベース(7.1ch)で作った音に加えて、空間の自由な位置に「登場人物の声」や「物体が発する音」などを個別に配置できる。
アニメで初のアトモス作品となった『BLAME!』では、空間を意識した音作りを目指したが、ガルパンではより広いアニメファンにドルビーアトモスをお披露目する機会という意味も込めて“分かりやすさ”を心掛けたという。小山氏は「音響効果に関しては全面的にリニューアルしました」とコメントした。
「とてもわかりやすいアトモスになっている」と笑いながら突込む岩浪音響監督に、小山氏が「アトモスで大変なのは効果音。5.1ch、7.1ch、そしてアトモスへと進化していく中、わかりやすいアトモスを作って付加価値をつけたかったので」と答える場面もあった。
岩浪音響監督のチームがドルビーアトモスの作品を手掛けるのは初めてではないが、ガルパンに対しては特別な思い入れがあったようだ。確かに相性抜群のコンテンツである。
現場では、このアトモスの効果がわかりやすい演出を、「“アトモスって”くれ」という言葉で表現していたそうだ。例えば作中、フラッグ車(カメさんチームのヘッツァー)の車内では常に頭上で旗がひらめく音が収録されている。また、学園船の地下深くヨハネスブルクに潜るシーンで、ガヤが上のフロアーから聞こえる様子などは、天井スピーカーを使えるドルビーアトモスの特徴を生かしたものだ。
制作にはPro Toolsを使用している。ドルビーアトモスの特徴であるオブジェクトオーディオ(三次元で移動する音)の数は数百あるという。最近のハリウッド映画などでは、ドルビーアトモス対応をうたっていても両手の数に満たないトラック数しかない場合も多いそうで、かなり手の込んだつくり込みがなされているのがわかる。
アトモス版の制作に着手したのは1月の後半から。別の案件も抱える傍らで作業を進め、2月中旬までプリプロ作業を進めた。これを専用のスタジオで最終形に。ダビング時間は半日で済ませたという。5.1ch版や7.1ch版の制作時からアトモス化を見据えた制作を心がけていた。効果音などは7.1ch版に収録されていたものと大きくは変わらないが、グレードアップ感を強調するために新しい音を足した場所もあるそうだ。
なお、ドルビーアトモス版とDTS:X版の音源は同じ。ただしDTS:X対応の劇場はドルビーアトモスよりもスピーカーの取り付け方法がフレキシブルなため、環境によって出音が変わる楽しみもあるそうだ。ネイティブのDTS:X制作は国内初で、DCP作業はわざわざ香港で行ったという。
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