企業の多くが、基幹業務系と情報系の2つのIT基盤を使い分けてビジネスを行なっている。基幹業務系システムは導入効果が定量的に把握しやすい一方で、情報系システムの導入効果は定性的で見えにくい。その効果を実際の利用現場で検証しようという取り組みが、学校法人大阪産業大学 デザイン工学部情報システム学科にある高橋・山田研究室で行なわれている。「kintoneへのログイン回数が少ない学生は卒業できなかった」というショッキングな検証結果を導いた、同研究室に話を聞いた。
kintoneの運用は基本的に学生に一任されている
大阪産業大学の高橋・山田研究室でkintoneの運用を主に担当しているのは、青沼 亮太さんと大嶋 智子さん。研究室で実際にkintoneがどのように使われているのかは別の記事(関連記事「卒論も就活も飲み会スケジュールもkintoneなゼミに行ってきた」)にまとめたのでそちらを参照していただきたい。ふたりはCybozu Days 2017でkintone活用とその成果を発表し、kintone Award 第2位を受賞している。
同研究室では、kintoneの運用は基本的に学生に一任されている。管理者権限を学生に持たせ、使いながらアプリを改良させるサイクルを実体験させる。とはいえ全員がアプリ開発に携わっている訳ではなく、前述の通り青沼さんと大嶋さんを中心にITに詳しい学生が開発、運用を担当し、他の学生は利用者としてkintoneに接している。
全員がアプリ開発を身につける必要がないということもあるが、利用者としてのデータを蓄積していくという意味もそこには込められている。というのも、運用に携わる青沼さんは研究テーマ自体がkintoneなのだ。実際の利用者の生のデータを得るためには、開発に携わらずkintoneを利用するだけという学生の存在は欠かせない。つまり、研究対象と一線を画すために開発者と利用者に分かれているという側面があるのだ。
kintone自体を研究テーマに、グループウェア活用と成果との因果関係を探る
kintoneをはじめとするグループウェアの活用と成果との因果関係を探ること。これは青沼さんの卒業研究テーマであると同時に、研究室を率いる山田 耕嗣さんの研究テーマでもある。
「実は前職では、IT企業でグループウェアを売る側の立場にいたことがあります。その頃には、導入すると業務にいい効果が色々ありますと言って売っていました。もちろん効果を信じて売っていましたが、基幹業務系システムのように定量的な効果を示せない難しさも感じていました」(山田さん)
自身の研究室にkintoneを導入するにあたり、山田さんはグループウェアと成果の因果関係を探る研究に取りかかった。同研究室でkintoneを使い始めたのは、2016年度の4年生から。いまは、2017年度の4年生の利用実態も含めて、2年分のデータを対象にグループウェア活用度と成果との因果関係を探っている。
山田さんは「これはkintone Awardでも発表したのですが、昨年度のデータでは、卒業できなかった学生がkintoneへのログイン回数も少なかったことがわかりました。kintoneにログインしないと卒業できないという話が一人歩きしそうな状態になったくらい、ショッキングでわかりやすい結果でした」(山田さん)
2017年度には研究室内でのkintone活用が定着、広がりを見せたことから、より多くの角度から成果につながる因子を探している。kintoneにログインする頻度だけではなく、利用時間帯や、同じ研究を行うグループでのコミュニケーションなど、グループウェア活用に関わる様々な因子と成果との関係性を検証する地道な作業だ。
「毎日同じ時間帯にログインする学生は、kintone活用が日常生活に根ざしていて、成果を出しやすいのではないかなど、色々な仮説を立てては実際のデータで検証しています」(青沼さん)
広く社会的な意義とともに、後輩のためにも期待が寄せられる
山田さんや青沼さん、大嶋さんの話を聞くうちに、この研究には2つの意義があると筆者は感じた。ひとつはもちろん、社会的な意義だ。これまで定性的にしか把握できなかった情報系システムへの投資効果をはかる因子が見つかれば、これまでなんとなく効果を感じていた企業はより高い成果を目指してKPIを設定してグループウェア活用を進めることができる。また自宅やサテライトオフィスでのリモートワークには情報系システムの活用が欠かせない。これから訪れる働き方の多様性が重んじられる時代において、実際に同じオフィスにいない従業員の成果をグループウェア活用を通してある程度把握できるようにもなる可能性がある。
もうひとつの意義は、高橋・山田研究室に今後入ってくる後輩に向けて残される知見だ。卒業研究を進める上でどのようにグループウェアを使っていけば成果を出しやすいのか、感覚的なノウハウではなく行動ベースで示し、引き継いでいける。そしてその効果は、卒業研究にとどまらず就職活動という人生を左右する一大イベントにも及ぶ。
「就職活動の情報も1年分溜まったので、早く内定をもらった学生とそうでない学生の違いなども探っています。行動ベースで後輩に伝えていければ、就職活動に効果的なkintoneの使い方として役立つのではないかとも期待しています」(青沼さん)
週刊アスキーの最新情報を購読しよう