ロボコンと聞くと、まず思い浮かぶのは工業専門学校(以下、高専)の学生を対象に行われるロボットコンテストを思い浮かべる人が多いだろう。しかし今年はじめて福井県福井市で開催された「越前がにロボコン」の参加者は小学生。設定された課題に対してそれぞれにアルゴリズムを工夫したロボットを持ち込み、アイディアと技術を競った。
地元の特産品とロボコンを掛け合わせ、1年かけて準備した一大イベント
グルメな読者に越前がにをわざわざ紹介するのは気が引けるが、釈迦に説法を承知で簡単に紹介しておこう。越前(福井県)で水揚げされるズワイガニの雄のことを「越前がに」と言い、その漁期は11月6日から翌年の3月20日まで。冬にしか楽しめない、福井の上質な味覚だ。ちなみに同じ越前産ズワイガニであっても小ぶりな雌はせいこがに(せい甲がに)と呼ばれ、資源保護のために11月6日から12月31日までの2ヵ月弱しか漁を許されていない。
1年の半分以上は禁漁という厳しい制約を守りつつ、福井を代表する味覚となっている越前がに。この越前がにとロボットを掛け合わせ、福井県情報システム工業会の30周年記念イベントとして、株式会社福井新聞社、一般社団法人組込システム技術協会との共催で企画されたのが「越前がにロボコン」だ。
小学生だけを対象にするという意欲的な取り組みだが、その背景には2020年度からのプログラミング義務教育化への対応や、低年齢のうちにプログラム的な考え方を身につけて欲しいという主催者の思いがある。
ロボットのベースは既存キットだが、それ以外は各チームの工夫次第
さすがに小学生がゼロベースでロボットを作るのは現実的ではないため、運営者側であらかじめ、数種類のロボット制作キットをピックアップして事前にロボット制作のワークショップを開催。
とはいえベースになっている部分は走行機能や歩行機能のみ。課題をどのようにクリアするか、最善の解決方法(これをプログラムの世界ではアルゴリズムと言う)を模索したり、それを実現するためのプログラムを作ったりする部分、は各チームに委ねられている。
どうせ、お父さんががんばったチームが強いんでしょ?
読者の中にはすでにこう思い始めている人があるに違いない。しかし子供にとっては、画面上でゲームを動かすだけでも結構な苦労なのだ。そして、画面の中でプログラムが動くのと、プログラムで実際の物を動かすのとでは、難易度は段違い。お父さんがちょっとがんばったくらいで強いロボットを作れるような生やさしいレベルではないのだ。では、どのようなチームが強かったのか。それは追って紹介していきたい。
越前がにロボットに託された壮大な使命、それは宇宙進出
越前がにロボコンには課題が設定されており、参加した23チームはその課題を解決すべくアルゴリズムとプログラミングに工夫を凝らした。その課題とは、地球を飛び出し、他の惑星に進出して子孫を残し、無事地球に帰還すること。高学年の部ではこれに、到達した惑星でレアメタルを採取してくるというミッションが加わる。
しかもラジコンのように操作するのではなく、あらかじめセットしたプログラム通りにロボットは自律して動作する。どれだけ試行錯誤を重ね、想定外の動作をなくすことができるかが勝敗を決するカギになる。
得点獲得ポイントは、次の通り。
- 地球出発(1ポイント)
- ミルキーウェイ通過(1ポイント)
- 惑星到着(1ポイント)
- たまご落下(3ポイント)
- 地球帰還(2ポイント)
- 先行フィニッシュ(1ポイント)
- 激レアメタル持ち帰り(1個1ポイント、高学年の部のみ)
ミッションをすべてこなした場合のフルスコアは8ポイント、先行してフィニッシュできればさらに1ポイント、高学年の部の場合は持ち帰った激レアメタルの個数分のポイントも加算される。そしてもうひとつの大きな得点要素が、ロボットの形状。参加するロボットには車輪で走行するロボットと、脚を使って歩行するロボットが混在している。より難易度の高い歩行型ロボットの場合、獲得した得点が1.5倍される仕組みになっている。
そして、この勝負には駆け引きの要素もある。ロボットが想定通りに動いてくれなかった場合、時間内であれば何度でもリトライできるのだ。リトライ時にはそれまでに獲得した得点がリセットされるので、賭けでもある。たとえば地球をうまく出発して惑星まで到達したけれど、たまご(ロボットに積んだ赤いボール)を惑星ゾーンに落とすことができずに帰還した場合、そのままフィニッシュ宣言すれば5ポイント獲得となる。しかしリトライしてたまごを落とすことに成功すれば8ポイントを獲得できる可能性がある。もちろん、失敗して5ポイント以下になる可能性や、時間切れで0点になる恐れさえある。そこで粘るかどうかが、勝負を左右した試合もあった。
ほほえましい緒戦から、手に汗握る中盤戦へ
さて前置きや説明が長くなってしまったが、本戦は小学校低学年の部と高学年の部に分かれ、トーナメント方式で進められた。第1回戦、第2回戦あたりでは、うまく惑星ゾーンまでたどり着けないロボットがあったり、想定した通りに動いてくれず相手チームのエリアに入り込んでしまうロボットがあったりと小学生らしいハプニングが目に付いた。練習走行ではうまく動いたのに、本番ではうまく動いてくれない。そんなことはプログラミングをしていれば頻繁に体験することだ。まして作っているのは小学生、やはり自作ロボットを思い通りに動かすのは難しいようだ。
AIプログラミング競技でも感じたことだが、目の前で勝負が行なわれているにも関わらず、プレイヤーは手を出すことができない。これはなかなか辛い状況だ。どうしても想定通りに動いてくれず、涙目になる低学年の子供もいた。気持ちは痛いほどわかるが、試合中のプログラム修正は認められていない。悔しさをにじませた表情を見ながら、筆者も胸が熱くなってしまった。
しかし中盤から、一気に様相が変わった。ミッションをクリアできないロボットが敗退し、試合のレベルが上がったのだ。惑星ゾーンにたどり着いて、コース通りに地球に帰還するのは当たり前。たまごをうまく惑星ゾーンに落とすことができるか、いかに早く地球に帰還するかが勝敗を分け始める。こうなってくると、1.5倍の得点を獲得できる歩行型ロボットが優位に立ち始める。最初は1.5倍なんて差が付きすぎるのではないかと思ったが、歩行型ロボットをうまく動かすにはそれに見合う難しさが伴っていた。スムーズに動く車輪走行型とは違いロボット全体が常に揺れているので、センサーでコースを読み取るのがとても難しいのだ。まして、会場は自然光が差し込む場所にあり、明るさの変化もあった。こうした困難な状況を制した歩行型ロボットが、最終的には勝ち上がっていった。
低学年の部は歩行速度、動作安定性の差でチームピーさんが優勝
低学年の部で決勝に勝ち残ったのは、チームピーさんとチーム高砂。いずれも歩行型ロボットだ。いずれも小学生低学年が作ったとは思えない完成度の高さで、左右入れ替えの2回勝負を双方ともにフルスコアで決めてきた。しかし歩行速度でチームピーさんに分があり、2回とも先行フィニッシュをゲット。スピード以外には違いのないハイレベルな勝負を見せられ、観戦者からは両チームに惜しみない拍手が送られた。
授賞式では今大会に出場した理由を「かにが好きだから」と語ったチームピーさん。受賞後にインタビューしたところ、工夫した点はたまごをはさみでつかんで移動するところだと答えてくれた。他のすべてのロボットがカゴのようなものを取り付けてたまごを運んでいたが、チームピーさんのロボットだけはたまごをはさみにつかみ、惑星ゾーンに確実に落としていた。
また、制作についての苦労を親御さんを交えてうかがったところ、練習を繰り返してはうまくいかない部分の解決策を考え、改善を重ねてきたという。もちろんプログラミングについては親御さんも力を貸したとのことだったが、改善のアイディアを出すなど、あくまで主体はお子さんだったそうだ。
高学年の部は激レアメタルを確実にゲットしたチームMUROKOが優勝
高学年の部で決勝戦に勝ち上がったのは、チームMUROKOとチーム虎。こちらも、双方とも歩行型ロボットだった。ここまで勝ち上がってくるロボットたちは、動きも安定しているうえに、それぞれの工夫が見られる。
チームMUROKOのロボットは、かにのはさみ部分を大きく広げて激レアメタルを取りに行く機能を持っていた。激レアメタルはプラス得点になるのでこれを狙う機構を持つロボットは他にもあったが、機能の安定度ではチームMUROKOのロボットが頭ひとつ抜けていた。
結局こちらもフルスコア同士の戦いとなり、激レアメタルでプラス得点をゲットしたチームMUROKOが勝利。高学年の部優勝を手にした。激レアメタルを取りに行く作戦だけではなく、それをきちんと本番で機能させたことこそ勝因と言っていいだろう。そして低学年の部と同様白熱する試合に観戦者も引き込まれ、両チームとも大きな拍手に包まれてのゴールだった。
チームMUROKOも、数々の困難を乗り越えてロボットの改良を重ねて勝利を手にした。練習走行時に脚が破損して瞬間接着剤で補強するなど、開発途中でのトラブルにも見舞われたようだ。それでも、高得点を狙って激レアメタルを取りにいく作戦を本戦で活かせたのは、数々の試行錯誤と改良があってのことだったようだ。
各チームが工夫を凝らしてきたため、デザイン賞は急遽3チームに!
本戦の得点以外に、デザインの工夫でアピールしてきたロボットに贈られるデザイン賞が用意されていた。審査員を務めたのは、グッドデザイン賞の審査員経験も持つznug design, inc.の根津 孝太氏。
「どのチームもそれぞれに工夫が光っていて、本当は全チームにあげたいくらいでした。1チームにはとても絞れないので、私が個人的に副賞を用意することで3チーム表彰させていただくことにしました」(根津氏)
デザイン賞を受賞した3チームは、いずれも女の子のチーム。中には、ロボットのデザインと自分の服装をトータルでコーディネートしてきた子もいた。
結果的に上位チームは男の子のチームが占めたが、全23チーム中5チームしか女の子のチームがいなかかっただけのことだろう。女の子にもかなり善戦したチームはあったので、小学生の技術力では男女差はあまりないのだと思う。リケジョなんて言葉が流行っているうちは、まだ珍しい存在。この子達が大人になる頃には、ITは男の仕事場などという先入観はなくなっているのかもしれない。
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